第1話 ある生徒の話
王立聖アントニオ学園。通称『聖学』。
王族、貴族、庶民。誰でも能力さえあれば入ることができるこの学園は、将来の臣下を育成する重要な施設であり。それと同時にここの生徒になることは誰もが憧れる目標の場所でもある。僕も実家の騎士隊を率いて魔物から故郷を守るため、学園で騎士分野を学んでいるところだ。
だが、この学園では今波乱が起こっている。
王族の3男、財務大臣の長男、学園きっての天才魔術師、そして騎士団長の一人息子。彼らは全員が学園でも特に高い能力を持ち、ルックスもイケメン。そしてさらに学び、努力をしていた。そう、していたんだ。
それが崩れたのは、1学年下のマリア・シュークリームが入学してからだ。
彼女は庶民でありながら高い魔力を持ち、学園の魔術分野に入学してきた。だが、『学園内では身分を振りかざしてはいけない』というルールをどう勘違いしたのか、王族にすら敬語を使わず、対等であるかのように接した。そして王子もなぜかそれを注意せず、それどころか今では彼女の取り巻きだ。他の人も同じようにいつの間にか取り巻きになっており、努力を怠り始めもはや昔の彼らはどこにもいない。
そして、僕のクラスの公爵令嬢、アテネ・マギカボックス。マリアさんが、彼女をアテネさんがいじめていると主張し始めた。
机の落書きから教科書の破損、最近では魔法で傷つけられそうになったとか、授業中の時間に階段から突き落とされたなどなど。
正直、彼女からいじめなんて想像つかないし。それに王子たちがマリアさんを1人にするたびに被害が起き、そして階段事件に至ってはその時間に階段にいること自体不自然すぎる上に、アテネさんが保健室に行く授業に合わせて抜けて保健室の近くでやってる時点でもう自作自演だということは王子たち以外みんな察している。
だからーだから、あの事件が起こる前に何とかすればよかったんだ。
ある初秋の昼下がり。騎士分野の授業で散々にしごかれた僕たちは束の間の休息をとっていた。
「アテネ・マギカボックス! 出てこい!」
第3王子の声がして、ドアが乱暴に開く。
マリアさんが何かするたびにこうなので、もはやクラス全員が『勘弁してくれ……』と心の中で呆れていた。
「はい、なんですか王子サマ」
アテネさんも慣れたもので取り巻き組の罵声を聞く体制になった。
いつものこと。そう思っていたんだ。
「貴様、今日の4時限目にマリアの絵に画鋲を刺しただろう」
「いいえ。してません」
「嘘をつけ!」
「アテネちゃん。ひどいよ……どうして?」
18にもなってそんなことでか。もういい加減にしてくれ。そう思いつつも暴君王子が怒っているときに下手に動いたらますます面倒になる。アテネさんも「みんなは何もしなくて大丈夫。私が聞いてればいいんだから」と言っていたし。
でも、問題はここからだったんだ。
「アテネ・マギカボックス! マリアを再三にわたり傷つけた罪は重い! 第3王子として、反逆の罪で第1級国外追放に処す!」
「え?」
全員の思考が止まった。
呆然としている中でも、泣き真似をするマリアさんと心なしか自慢げな顔をする取り巻き組が話を進める。
「貴様は、苗字没収の上懲罰刻印を刻み獣人国に永久追放する! 懲罰刻印の決して消えぬ痛みに耐えながら、自分の罪を呪うんだな!」
獣人国。大陸の端っこにある場所で、昔集団で反逆しこの国から追い出された反逆者—獣人の子孫の国だという。そんな場所に追い立てられる上に懲罰刻印だなんて!
王子に反論しようと、僕やクラスのみんなが立ち上がろうとした、そのとき。
「わかりました。その罰を受け入れます」
アテネさんが、そう言った。
「アテネちゃん、あなたがやめてくれればそれでよかったのに……」
「マリア。君のせいじゃないよ。では、懲罰刻印を刻む!」
僕らが呆けている間にも状況は進む。
王子の持っている魔道具が、彼の呪文とともに光の触手を放ち、アテネさんの体に巻きついていく。そして光が収まったとき、彼女はその場に倒れこんだ。
「連れて行け」
「ああ」
騎士団長の息子がアテネさんを荷物のように抱え、その場から去っていった。
「嘘、だろ……?」
僕の口から、そんな言葉が漏れた。