20、『リオネス』
翌朝、ウーナとグウィンは早馬を駆って南西のペンザンスの村に来ていた。
ペンザンス村のさらに南に沖がある。
コーンウォールを出る前に、エドゥ爺に頼まれていた、彼の先祖への献花をしておこうというのだ。
グウィンは付き添い。
村に入ると人々が集まってきた。
ウーナたちが騎士の格好をしていたからだろう。
継ぎ接ぎだらけの服を着たおじいさんがウーナに話しかけた。
「騎士様、ようこそおいで下さいました。この粗末な村に何用でしょうか」
「村に用という訳ではありません、沖で献花をしようと思っているのです」
「それはそれは。花をお持ちでないようですな、よければ花売りに案内致しましょうか?」
「それはありがたい」
よろしくお願いすると、彼は馬のたずなを引きながら、一緒に花売りの場所へ歩き出した。
他の人々も付いてくる。
彼らが付いてくる理由にウーナは思い当たった。
「……戦争のことですか?」
彼らが聞きたいであろうことに、ウーナから話を振ってみた。
質素な藁葺きの家がぽつんぽつんと建っている中をコトコト馬に乗りながら進む。
「ああ! ええ、はい、よろしければ結果を教えてはもらえないでしょうか?」
おじいさんがガクガクと首を振りながら言った。
ウーナは微笑む。
「我々コーンウォール・グウィネッズ同盟が勝利しましたよ」
わああ! 周りの人々から歓声が沸いた。
手に手を取って喜ぶ人たちや、他の人にも知らせるのかどこかへ駆けて行ってしまった人もいる。
ウーナと話していた老人も後ろの人々の喜びを見て少しだけ表情を緩めたが、ややあって再び話しかけてきた。
「その……エヴァンスという騎士をご存知ありませんか?」
生きていることを切に願っている。そのことがありありと分かる表情だ。馬上のウーナを祈るように上目遣いで見つめている。
ウーナは思い返そうとしたが、エヴァンスという名に心当たりはなかった。グウィンに視線を送っても首を横に振られた。
「申し訳ありません。私たちはグウィネッズの騎士なのです。コーンウォールの騎士を全て把握している訳ではないので」
そう伝えると、老人は緊張を解いたように肩の力を抜いた。
死別の知らせを聞かずに済んだことに安心したのだろう。
左翼壊滅のことは言わないことにしよう。
コーンウォールは約三分の一の兵を失っている。生存率は約66%。生きていること願うしかない。
「ああ、そこが花売りのいる場所です」
おじいさんが指差した先、家と家の間にある空き地のような場所に、一人の老婆と若い娘二人の計三人がいた。
案内を買ってくれた老人に礼を言うと、こちらこそ、と返して去っていった。
「花を頂けますか?」
ウーナが馬を降りて老婆に話しかけた。
占い師のように濃い紫のローブを被っている。花以外にも薬草なども商っているようだ。
「デートって訳じゃなさそうだね、墓参りかい?」
「そんなところです」
娘二人はウーナと馬の横をすり抜けて、グウィンの方に近づいていった。
老婆が花束を麻ヒモで束ねながら聞いた。
「あんたら、まさか海に手向けようってんじゃないだろうね?」
「その通りですが、何か問題があるのですか?」
老婆は手を止めてフードの陰からギラリとした目でウーナを見た。
「気をつけな、ここいらの海はキリストの海じゃない」
束ね終えた花束をウーナに渡した。
「心に留めておきましょう」
そう言ってウーナが花束を掴んだが、老婆はそれを離さなかった。
「大昔、この海にそれはそれは栄えた島があったそうだ。だがその島は忽然と消えちまった。何故だと思うね?」
ウーナはこの老婆に不気味なものを感じた。
「……わかりません」
エドゥにもよく分からない忠告を受けていたことだし、一応老婆の話を聞いておこうと思った。花束からウーナは手を離す。
「混沌に飲まれたのさ。混沌を愛する神。混沌そのものの神。秩序と理性のイエスに逆らう邪さ。それ以来、村人はあまり海には近づかない。まあ、ここいらに伝わる迷信だがね。当然勇敢な若いもんたちが漁に出てる。でもね、注意するに越したことはない」
老婆はやっと花束を手渡す気になったのか、ホレ、とウーナの顔の前に突き出した。
ウーナはなんと答えていいか分からなかったが、一応礼を告げた。
グウィンに声をかけると、沖へ続く道へ歩き始めた。
老婆は終始、意味深な目線でウーナをジッと見つめていた。
**********
ウーナとグウィンは村を出てペンザンスの沖に向かっていた。
空は曇って太陽をひた隠している。
「そういえば、お兄さまは先ほど二人の女の子たちとはどんな話をしてたんです?」
村から沖までは近い。馬たちは村に置いてきた。
「いや……なんでもない」
ウーナは何気なく聞いただけだったのだが、グウィンが言葉を濁したことに何かあると思った。不器用な兄の、からかい甲斐のありそうなこと。
「教えてもらえませんか? 何か言われたのでしょう?」
ウーナはニコニコしながら兄の言葉に期待した。
「……その、彼女たちの、春を、買わないかと持ちかけられた……」
グウィンは目を逸らしながら小声で言った。
「まあ! それで、なんとお答えになったのです?」
「当然断った」
グウィンは少し心外そうに即答した。
「もし、私がそばにいなかったら?」
「……」
あはは、とウーナは笑った。
「お兄さま、そこは黙っちゃいけませんよ」
ウーナはちょっと涙目になりながらグウィンに笑いかける。
グウィンは苦笑しながら話を逸らした。
「ほら、もう沖が見えてきたぞ」
沖は寂れた港だった。
なぜか人があたりに見えない。停泊している漁船らしき数隻の船も、打ち捨てられてように浜に乗り上げていた。
「人がいませんね」
「そうだな」
浜辺に沿って歩くと、海へ突き出した高さ三メートルぐらいの小さな岬が見えた。
あそこから花を投じればいいだろう。
カラーン。カラーン。
その時、海から鐘の音が鳴り出した。
教会の鐘のように聞こえる。
グウィンを見ると、やはりこの不思議な現象に驚いているようだ。
しばし立ち止まって何かが起こるか待ってみたが、何が起こることもなかった。
再びグウィンと見合わせて、肩をすくめ合うと、予定通り献花を海に送ることにした。
岬の先に立って広い海を見渡す。
ここから見える海は「ブリュの海」(イギリス海峡)だ。
先ほど老婆がウーナにいった意味はなんだったのだろう。
ブリュとはブリテンからくる言葉ではなく、ブルターニュ、つまりガリアの地名からくる言葉だ。関係ないかもしれないが。
「とにかく、エドゥ爺に言われたように供養しましょう」
ウーナは花束を海へ投じ、十字を切って瞑目した。
ザザーン、ザザーン、と波の打ち寄せる音が聞こえる。
「……ウーナ」
瞑目するウーナに、後ろからグウィンが震えた声をかけた。
どうかしたのかと目を開けた。
カラーン。カラーン。
眼下のブリュの海は、引き潮のように一気に干上がっていた。
代わりに海から壮麗な街が浮かび上がっている。
たくさんの教会の尖塔が立ち並び、その鐘が鳴っているのだ。
建物の窓や入り戸から大量の海水が滝のように流れ落ちている。
ウーナが見たことなくらい整然とした気品ある街並みだった。
こんなものが海に沈んでいたなんて。
しかし、なぜかウーナはこの光景に違和感を感じた。
何が原因かわからないが……。
信じられない思いでその街を見ていると、ウーナのいる岬隣の砂浜に、十人ぐらいの人々が街から出てきて集まった。
あまりにも非現実的な光景で、この人たちが今まで海の下で生活していたのかどうかを聞くべきなのか迷った。
するとあちらからウーナたちに声をかけてきた。
「もし、そこのお方。もしよろしければ私らの頼みを聞いて頂けないだろうか?」
人々の中心にいた、一際身なりのいい老人がウーナに声をかけてきた。
そして返答するすんでのところでエドゥの言葉を思い出した。
応えてはいけない、だったはず。
「申し訳ないが、他をあたって下さい」
海の街の老人はこうもすぐに断られると思ってなかったのか、目を見開いて驚いた。しかし、事情があるのだろう。食い下がって頼み込んできた。
「おお、なんということだ、まだ頼みの内容も話してはいないでしょう。どうか哀れな私らの話を聞いてください」
「申し訳ありませんが、頼みには応えられないのです」
またもウーナが拒否すると、老人は愕然とした表情をした。
すると老人の横からとても綺麗な女性が両膝をついて懇願した。
「私たちは悪い神にこの都を海に沈められてしまったのです! あなた様、どうか私たちの願いを聞いてください!」
必死さの伝わる懇願に彼らを憐れみそうになるが、ウーナにその願いを聞くつもりはなかった。
困ってグウィンを見る。
グウィンは蒼白な顔をしていた。
「ウーナ、コイツらは……足跡がない」
そう言われて、ばっと振り返って彼らの足元を見た。
砂浜の上には、波の作った波紋のような跡があるだけだった。確かに、足跡がない。
ウーナは背筋が寒くなった。
「違います! これには……これには理由があるのです!」
女が切実そうな声で叫ぶ。
「ここはかつてリオネスの都だったのです! それが異教の神の怒りを買って、海の底に沈められたのです! 確かに私たちはすでに死んでいます。でも、その悪い神に魂をつながれてこの世から離れられないのです。どうか私たちをお救い下さい! 私たちを救えるのはあなた様だけなのです」
女はウーナに話しかけている。
「見ての通り私らはキリストを崇める者です。あなたと同じなのです。どうかお救い下さい」
老人が手で教会を示しながら膝を折った。
他の者たちもウーナたちを崇めるかのように、両膝を地面につけてひれ伏した。
「ウーナに何をさせようというのだ?」
「お兄さま!」
グウィンが彼らに尋ね、それをウーナが咎めた。
「聞くだけさ、大丈夫」
グウィンが頷く。
老人が答えた。
「大したことではありません。そこのお方がこのリオネスに住んで頂くだけでいいのです。それでこの都は海の底から這い上がり、我々死者も陽光を浴びて消え失せます。悪い神の楔から解き放たれ、天に魂が帰るのです」
ウーナとグウィンは揃って、チラっと空を見た。
絶え間ない雲が空を覆い尽くし、太陽が顔を出す隙間はない。
ウーナの魔力と水の感知能力は彼らが体温を持たない死人だと告げていた。
しかし、ウーナはここでやっと違和感の意味に気づいた。
「やはりダメです」
「そんな……」
彼らがウーナを見上げ、絶望に染まった表情をした。
「あなたたちは先ほど自分たちは私と同じキリスト教だといった。しかし、見てください」
ウーナは海の中から現れた教会を指した。
「あなたたちの教会には……十字架がない」
そう、普通、教会には天辺に十字架が配置されているものだ。尖塔がある場合はその尖塔の上に、人々が遠くからでも教会を見つけられるようにと飾られているはずなのだ。
しかし、一見壮麗に整ったこの尖塔立ち並ぶ街の天井に、十字架はなかった。
すると。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
遠くで地響きがなり始めた。
「あ、あああああああ
あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
人々は絶叫を上げた。
彼らの肌が腐り、崩れ始める。
「呪ってやる! 呪ってやる! お前を私たちと同じ、暗闇に引きずり込んでやる!」
爛れた皮膚で女がウーナのことを指差している。
しかし、肉が剥がれ落ちると、中には何もなかった。まるでブリキの人形のように、薄い肉の下は空洞なのだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
海から出てきた者たちが腐り落ちるかどうかというあたりで、地響きの出処が分かった。
津波だ。
その大波は、リオネスの壮麗な都を貪欲に飲み込みながらウーナたちのいる陸へ迫っていた。
その高さはリオネスに立ち並ぶ尖塔よりもはるかに高い。
「なんだアレは……海が、襲ってくる!?」
ウーナの後ろでグウィンが呆然とつぶやいた。
兄妹は津波を見たことはなかった。ブリテン島には地震も津波もない。地下深くのプレートはとても古いもので、何億年も前に活動がほとんど止まっているのだ。
ドゴーン……ドドドド……ゴガーン!!
空爆でも起こっているかのような爆音とともに建物が倒壊していく。
ガラーン! ガラーン!
教会の鐘が振動と波に激しく揺さぶられ警鐘のように荒々しく鳴り響く。
伝説のリオネスが消えていく。
その光景に最初は理解が付いてこなかった二人だが、次第に現実に引きも出されるように緊張と畏怖が湧き出した。このままではウーナたちも瓦礫と一緒に飲み込まれて海の藻屑となるだろう。
ズッドーン!!!
ついには都の中心にあった一際大きい教会が波にのまれた。
腹に響く建物の倒壊の音が、いやがおうにも緊張感を高める。
「ウーナ、早くここを去るぞ!」
グウィンが叫んだ。
爆音がグウィンの声にかぶさって、兄の声が小さく聞こえた。
「いえ」
ウーナは兄の言葉を否定した。
「私はここに残ります!」
「何言ってるんだ!!」
兄は訳が分からず怒気を孕んだ大声で叫んだ。
「あれを呼んでしまったのは私です! エドゥから忠告されていたのに……私は勘違いした! 海の声に『答えて』はならなかった! そもそも会話してはいけなかったんです!」
「お前の所為じゃない!」
「でなくとも! 私がここで少しでも止めなくては! 後ろには戦士の帰りを待ちわびるペンザンスの人々がいるのですよ!」
グウィンは言葉を返せず、言い返そうと口を開いたまま黙ってしまった。
迫り来る大波は、どう考えても自然のものではない。
『ここいらの海はキリストの海じゃない』
異教の神々の支配する場だったのだ。
「私が止めます」
ウーナは岬の先を見据えていた。
大粒の汗が頬に流れている。
「心配しないで、水は私の味方です」
妹は強張った表情のまま兄に笑いかけようとした。うまく笑えていなかったが。
エドゥは、ウーナの魔力が水に対して例を見ないほどに干渉力を持っていると言っていた。
ついにグウィンも腹を決めたように目を鋭くして海を睨んだ。
彼は冷や汗が目に入ったのか、手首のあたりでグイッと片目をぬぐった。
「分かった……俺がこの岬の足元を固める。ウーナは干渉力の壁を作って海を止めるんだ」
「はい!」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!
もう目前まで迫っていた。
ウーナの腰に差した愛剣の柄頭、カイヤナイトが爆発したように魔力を放出しだした。
ウーナの恐怖と勇気に、あの宝玉が反応したのか。
前方からの風が吹き抜け、ウーナの髪や服がはためく。青い魔力も同じく風に吹かれて、ウーナを包む巨大な花が咲いているかのように花弁に分かれながら後方に流れた。
「来ます!!!」
ウーナが両手を岬の前に突き出した。
岬全体の盾を作るように、薄蒼色の魔力が展開される。
ウーナのすぐ後ろのグウィンも膝を付いて両手を地面につけると、全力で足元の地面に魔力を流して固めた。
瞬間、黒々とした、途轍もなく大きな波の壁がウーナたちの眼前にあった。
ゴッッッッッッッッッッ!!!
それは質量攻撃のように何もかもを揺さぶった。
ウーナの足は地面に深く食い込んだ。グウィンは血管がぶち切れるような魔力の放出で地面を固めていた。
しかし、ウーナの盾の横から上から大量の波は抜けていく。グウィンのすぐ後ろで岬にヒビが入った。
二人の兄妹に上からタライなんて目じゃないほどの海水が降り注ぐ。
もう汗なのか海水なのか分からない塩水で二人は濡れていた。
「ああああああああああああああああああああッ!!!」
ウーナが叫ぶと、乗り越えようとしてくる波に張り合って盾は高く広く拡大した。
ウーナの魔力の盾のすぐ横を、巨大な尖塔の屋根が流れていく。
グウィンは魂が枯渇するんじゃないかというほどの魔力で地面を支えながら、目の前のウーナの姿を信じられない思いで見ていた。
ウーナは津波に張り合っていた。
盾のカバーできない場所から後方へ海水は流れていくが、ウーナの魔力の盾がある場所からは抜かれていなかった。
ついに波の勢いに追いついたのか、盾の上を乗り越えて兄妹に降り注ぐ水は無くなった。
グウィンはウーナの魔力の盾の向こう、波の中に何かを見た気がした。
古代の戦車に乗った鎧姿の戦士。
海の主、マナウィダン。
またの名を、海神マナナン・マク・リール。
グウィンの心の中で、言い伝えの古代の神の名がフラッシュバックした。
まさか、そんなはずはない。
もし海神だとしたら、それに張り合うこの娘はなんなのか……。
「しーずーまーれー!!!」
ウーナが気合と共に、大波に叫んだ。
ドゴオッッ!!
岬が後方へガクンと崩れそうになった。
「もう、無理だ!」
グウィンが叫ぶ。
「あと少し! あと少し保たせて!」
ウーナが振り返らずに叫び返してきた。
少し保たせて何になるのか。
「しー、ずー、まー、りー、たー、まー、えーーー!!!」
しかし。
グウィンは波の中の戦士が、翻って大海原へ帰っていくような幻覚を見た。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
それに呼応するかのように地鳴りが少しずつ、少しずつではあるが小さくなっていく。
そして唐突に波は勢いを失って、ウーナの盾からずり落ちた。
最後に一波、絶壁に砕かれるようにドパンと干渉力の壁に阻まれたあと、ただの時化のように荒いだけの海となり、ついには普段通りのペンザンスの沖に戻った。
グウィンは魔力を出し切って後ろにゴロンと倒れた。
魔力の枯渇した体が怠い。
だが、そんなことは彼の意識にはなかった。
「退けた……? 海神を……?」
グウィンは信じられない思いで自分の妹を見ていた。
ウーナは、はあはあと肩で大きく呼吸しながら、いまだ立ったまま海を見ていた。
グウィンから彼女の表情は見えない。
この妹を守るだって?
馬鹿みたいだ。守られているのは自分の方じゃないか?
この時、グウィンの中で何かが弾けて消えた気がした。
ウーナは背後を振り返った。
ペンザンスの村がどうなったのか確認したのだ。
「あれ……?」
村は無事だった。
それどころか何も起こってなかったかのように、静かに佇んでいた。
一番大きな波の部分はウーナたちが勢いを止めていたが、脇から波や瓦礫が大量に流れていた気がしたのだが……。家々は傷一つなく、確かに見たはずの尖塔の屋根もなかった。
「どういうことなのでしょう?」
ウーナはグウィンに尋ねた。
「……」
グウィンは心ここに在らずといった風情で、何も答えない。
「お兄さま……?」
ようやくグウィンがウーナと目を合わせた。
「ウーナ、帰ろう。本隊の帰還に遅れてはダメだ」
グウィンはとても優しい声でウーナに言った。
立ち上がると、さあ、とウーナの手をつないで来た道を戻り始めた。
グウィンの様子がおかしかったが、よく分からないままウーナは手を引かれて帰った。
次回、11月5日です。
マナウィダンとかマナナン・マク・リールとかって聞いたことあるでしょうか? もしなんかのソシャゲーとかで目にしたことがあるとかだったら幸いです。
マナウィダンはマビノギオンにも出てくるケルト神話の海神です。