17、航海
騎士団はディナス・ファラオンを離れ、強行軍で南下していた。
ランニングのような早足で道を行き、胸まであるような深さの川を馬たちと泳いで渡り、時に雨風に晒されながら南へ南へ。
まずは国の最南端、交易の栄えるイストラド・ティウィを目指す。
信仰心厚い騎士団のメンバーは、使える魔力の容量もそこいらの農夫たちと比べたら桁違いだ。体力も半端ではない。
だが、首都デガンウィからディナス・ファラオンまで三日かかった。大体その三倍の距離を二日で踏破するスケジューリングで移動している。
いくらタフな戦士たちでも厳しい行程だ。
それでもイストラド・ティウィから船でコーンウォールまでの日数は入っていない。
間に合わなければ彼の地の同胞たちは壊滅的な被害を受けるだろう。
無理でも間に合わせるしかないのだ。
一日目の行程を終え、騎士たちは野営の準備に追われていた。
川辺の林に開けた場所があったので、ウーナたちはそこで一休みしていた。
春分をとうに過ぎているからか、今日は夕方の時刻にもかかわらず空はまだ明るかった。
ウーナは仰向けでグデ~ッと伸びていた。
おへそが見えそうだ。
「……疲れました」
「だろうな、俺も正直キツいぜ。泣き言いってられねえけどな」
あ~どっこいしょ~、と隣の切り株にガルバーンが腰を下ろした。
そう言われてウーナも上体だけでも起こした。
全身に鉛のような疲れが溜まっている。
そこに、ドス、ドシャとギルロイも膝をついて近くに俯せに倒れこんだ。
「船の中では寝られるんですよね?」
力ない声だ。
他の戦士たちも疲れを隠さずそこらにゴロンと転がっている。
「だといいな」
まだ見ぬブリストル海峡を思いながらガルバーンは南方を見ているようだ。
「みんなはコーンウォールへ行ったことあるのですか?」
ウーナが聞いた。
「俺はないな、そもそもグウィネッズから出たことがまだない」
ガルバーンが肩をすくめた。
「オレはありますよ。ちょっとだけですが」
ギルロイは経験があったようだ。
「へ~、どんなところなんだ?」
「あんまり覚えてないですけど、大ブリテンの最西端。子どもの頃行った印象は、田舎って感じでしたね。あとは、海岸沿いの崖とか印象に残ってます」
「は~、まあ、そんなもんか。ていうかギルロイ、おまえ南部の出身だっけか?」
ギルロイは俯せのまま顔をそらした。
「……はい、合ってます」
ガルバーンも疲れているだろうが、一応隊長なだけあってかギルロイの訳ありそうな様子に気づくと、それ以上彼のことは追求しなかった。
ガルバーンとギルロイのやり取りを聞きながら、ウーナはコーンウォールの地に想いを馳せていた。
それというのも、ディナス・ファラオンを発つ朝、エドゥ爺と交わしたやり取りが原因だ。
**********
「ほれ、徹夜で嵌め込んでやったぞ」
エドゥがウーナの剣『ニーフィライ』を返した。
ニーフィライの柄頭にはカイヤナイト晶石が埋め込まれ、薄い雲に隠れた朝日を鈍く照り返した。元の金のレリーフとカイヤナイトの青は不思議と調和がとれている気がする。
「本当に、何から何までありがとうございました」
エドゥはウーナに戦争の最中に大粒な宝石など首から下げていては邪魔だろうと考えていたのだ。原っぱでの稽古のあと、夜中に剣に付けてくれると請け負ってくれたのだ。
「なに、ふぁ~あ、うむ、どうってことはない」
欠伸を挟みながら手をヒラヒラ振って答えた。
「ああ、そうそう、代わりと言ってはなんだが、一つ頼まれてはくれんか?」
「はい、もちろん。エドゥ爺の頼みなら何でも」
ウーナが即答すると、爺はその素直さにニッコリした。
「実はな、わしの爺さんのそのまた爺さんはコーンウォール出身なんじゃ」
「へえ、そうだったのですか」
「いや、あ~……正確に言うと、お前さんが信じるかは分からんが、『リオネス』出身だったらしいのだ」
「ああ……え? はい!?」
ウーナは自分の耳を疑って、爺を二度見してしまった。
『リオネス』
ケルト海の何処かにあると言われる伝説の島だ。
教会の尖塔や、城の物見櫓などが高く林立する美しく豊かな街だったとか。
円卓の騎士の中にもリオネスの出身者がいたはずだ。
今ではただの作り話だったのではないかとさえ噂されている。
エドゥはそんなウーナを見て苦笑した。
「まあ、リオネスの真偽など、どうでもよろしい。頼みたいことはブリテン最西端のコーンウォールの、中でも最西端の町ペンザンスの沖で、わしの祖霊たちに花を手向けてほしい、そういうことじゃ」
ウーナが言葉に詰まっているのを見て、爺は慌てて付け加えた。
「おお、戦争が終わった後でな、勿論」
「いえ……はい。分かりました」
この老人はウーナが戦争で命を落とすとは思わないのだろうか。
この際その問題は流すにしても。
『わしの祖霊たちに』
異教的な考え方だ。
「十字を切ってもよろしいのですか?」
「ん? ああ、祈りの作法は任せるよ。先祖の霊に、わしの祈りを届けてくれればそれでいい」
「……分かりました」
この老人の信仰に思うところがないでもないが、人の信仰に口出しするほど野暮ではない。
「ただ一つだけ忠告しておくことがある」
「何でしょう?」
エドゥは何か言い淀んでいるようにも見えた。
「もし……もし『海』から何かを言われても、決して答えてはならぬ。まあ、そんなことは起こらんとは思うが……」
「よく分かりませんが、分かりました。決して応えません」
そしてこの意味深な約束が終わるとエドゥと別れを済ませ、騎士団とともにアンブロシウスの城を旅立ったのだ。
**********
ウーナがエドゥ爺のことを思い返して黙っていたからか、それとも皆が疲れて静かだったからか、ガルバーンが琴を奏で始めた。
以前のように聖歌ではなく、カムリの民なら子どもの頃一度は聞いたことのあるような民謡だった。
ウーナも懐かしくてガルバーンの琴に合わせて歌った。
カムリの牧歌的な女性たちは畑仕事や手仕事に追われる中でも、このような歌を口ずさむのだ。
軽快なリズムで愉快で調べが林に響く。
すると三羽の小鳥が現れ、歌に合わせて鳴き出した。
まるでリコーダーやフルートのような鳥たちの歌声。
「まさか、『リアンノンの小鳥たち』?」
ギルロイが呆然と呟く。
マビノギオンにも記されるカムリの先祖、美女リアンノン。
彼女の連れていた小鳥たちはこの世のものとは思えないほどの歌が歌えるのだとか。
ギルロイやその他の騎士たちも、この不思議な事態に疲れを忘れてむくりと体を起こした。
ピーピピ、ピーピピ。
ウーナが歌いながら立ち上がると、小鳥たちはウーナの周りをクルクルと飛ぶ。
西から差し込む金色の夕日がその場を照らした。
ガルバーンが隣の切り株でポロン、ポロロンと伴奏する。
皆その光景に目を奪われた。
美しい音楽に心を奪われた。
歌唱のパートが一旦休みに入りウーナが口を閉ざす、代わりにつなぎの間奏パートとなり、ガルバーンが主旋律を引こうとした。
すると小鳥たちが先んじて主旋律を歌い出した。
チーチチ、ピーピピ、プーププ。
三羽はそれぞれ得意な音程があるのだろうか。代わる代わるメロディーが歌い継がれる。
突然の出来事に呆然としていた心に、美しい音色がスッと入ってきた。
しだいしだいにリズムが気持ちを沸き立たせる。
気持ちがのれば笑顔になる。
ノリのいいケルトの戦士たちは自然に手拍子を叩き始めた。
再び歌のパートが始まりウーナの歌声が混ざる。
演奏者が少なくても、音の重なりはオーケストラのようだ。
音楽だけでここまで楽しい気分になるのはウーナにとって初めての経験だった。
もはや手拍子だけでは物足りなくなってしまった一人が、さっきまでの疲れは何処へやら、ステップを踏んで踊り始めてしまった。
フラメンコみたいなスペイン風のステップ。
ご機嫌な音楽に、心が軽くなる。
心が弾み出す。
心がウキウキし始めて、ついには踊り出すのだ。
また一人、二人と立ち上がり、いい年こいた大人たちが手拍子しながら踊りだした。
誰かが酒を持ってきて、人がこの空間にどんどん集まってくる。
明日の予定を練っていたはずのジュディカエルも、グウィンもイセルもみんな来た。
それどころではない。
リスや野ウサギ、他の鳥たち、最後にはここら一帯のナワバリの主のような巨大なイノシシまで現れた。
動物たちは静かに歌を聴いている。
ここで狩りを始めようなどという無粋な輩はどこにもいない。
一つ歌が終わりそうになっても、ガルバーンはメドレーのように次々民謡をつないで終わらせなかった。
こんな経験は彼にも生まれて初めてだろう。
いや、言い伝えの『リアンノンの小鳥たち』に会えるのは今生において最初で最後かもしれないのだ。
すぐには終わらせたくなかったのだろう。
しかし、楽しい時間はあっという間。
民謡のストックが尽きて、日が沈むと、三羽の小鳥たちはみんなの頭上を旋回した後、何処かへ飛び去ってしまった。
わああ!
と盛り上がった叫びが上がり、
ありがとおぉ!
と感謝の声を誰もが口にした。
動物たちも来た時と同じく静かに帰って行った。
皆気づいていた。
音楽の楽しさが、疲れなどいつの間にか吹っ飛ばしていた。
**********
果たして本当にあの音楽には疲れを癒す効果があったのだろうか。
あくる朝の騎士団一行は初日の勢いにも増して、ぐんぐんと早いペースで国々を南下した。
百を越える人数でも一糸乱れぬ行軍だ。
農作物が左右いっぱいに広がる畦道を駆け、ボロボロのロープの架かる橋を臆することなく渡り、踏み外せば下へ真っ逆さまな細い崖道を行った。
生い茂る大自然の澄んだ空気を肺全体に吸い込みながら、はっはっと息を吐きながら走り続けた。
「イストラド・ティウィが見えた!」
先頭に近い男が叫んだ。
今ウーナは隊列の中間ぐらいの位置で、ガルバーンの隣を走っていた。
「後少しで船に乗れるぞ! 最後だ気張れ!」
ジュディカエルの声も前方から聞こえる。
「ようやくか」
ガルバーンも呟く。
何キロか先に白い壁の港町が、前を進む騎士の背中の向こうに、チラチラ見える。
しかし、遠い南西の空に真っ黒な積乱雲が威圧感を放っているのも見えた。まるで空に山があるようにうず高く積みあがっている。
ウーナたち騎士団は、向かい風を感じていた。
船出が無事にできるかが気がかりだった。
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イストラド・ティウィはカムリとヨーロッパ大陸の最大の交易所だ。
木造の家々は、海風の湿気に強くするためかは知らないが、白い塗料で壁を塗っていた。
この時代のカムリの国々には珍しいことだ。
活気溢れる港町は、露天商や道に向かって大きく開いた店々が軒を連ねていた。
行き交う人々が足を止めてこちらを見る。
もしかしたら、まだコーンウォールでのマーシア宣戦布告を知らない人も居るかもしれない。
いや、耳の早い者たちも当然いるのか、物珍しそうにしている人々の間で様々なささやき声が交わされている。
港に近い大きな広場に一旦休憩となった。
ジュディカエルとグウィンは船の手配に行ったようだ。
ウーナはガルバーンやギルロイたちと一緒に腰を下ろして休んでいた。
ここに住む娘たちだろうか、遠巻きに戦士たちを見ている。
ガルバーンが笑顔で彼女たちに手を振った。
キャー!
と黄色い声が漏れて、走り去ってしまった。
イケメンめ。
「ここの娘たちはかわいいなぁ。帰りは口説いて持ち帰っちゃおうかな~?」
「ガルバーン、奥さんはどうするのです?」
ウーナがジト目でガルバーンを睨んだ。
ガルバーンのほっぺにツツッと冷や汗が伝う。
「いやだなぁ! ウーナちゃん、冗談だって!」
ホンキニシナ~イ、ホンキニシナ~イとウーナを宥める。
ギルロイは話に乗らずに他の方角を向いていた。首から下げた紫の宝石を握りしめている。
「おう、ギルロイ、どうした浮かない顔して」
ガルバーンは話を逸らすのにギルロイを使った。
ウーナは小さくため息をつく。
「いえ、ここに来るのも懐かしいなって」
ギルロイ少年はアンニュイな気分のようだ。
「おう……そういえば南部の出なんだっけか」
「はい……もう随分家族に会ってませんので」
ウーナもガルバーンも眉尻を下げてギルロイに励ましの声をかけようとした。
「どういうことだ!!」
しかし、ジュディカエルの苛立った大声が広場に轟いて、励ましの言葉は遮られてしまった。
隊の皆がその方向を向いている。
船乗りたちともめているのだろうか?
「手紙があるはずだ! 手はずを整えて欲しい!」
船乗りたちはなかなか屈強そうな筋肉をつけているが、横にも縦にもでかい偉丈夫のジュディカエルの迫力にたじたじだ。
だが。
「い、いえ、おれたちゃあ、聞いてませんぜ。手紙が来たって報告も知りやせんのです」
ジュディカエルは額に手をやって悩み始めた。
コーンウォールまで一刻も早く行かなければならないのだ。
「大型の船はないのか!? 報酬ならグウィネッズ王国もちだ。我々がカムリの守護者であることは分かるだろう?」
「いや、ええ、分かってますとも。しかし、ダヴェドの貴族さまがつい昨日、何隻か大型の帆船を持って行っちまったんです。それに見えるでしょう? 南西の空に雷雲が来てまさぁ。今すぐの出港はよしたほうがいいですぜ」
船乗りはジュディカエルの威圧感にへこへこしながらも、なんとか受け答えしている。
「ひぇっひぇっへ。困っておるようだなあ? 騎士団長殿」
そこになんとも嫌味そうな貴族然とした小男が現れた。
カールした細いヒゲに、撫で付けた髪に、金糸のはいった赤のマントを着ている中年男性だ。
いっそ清々しいほどに小物臭を放っている。
「我々に何か?」
ジュディカエルが顔を動かさず目線だけで男を見やる。
低く抑えた声が怖い。
「ひぇっへ! おお、こわいこわい。しかしねぇ、一つ間違いを指摘させていただきますがね、貴殿たちは別にカムリの守護者ではないでしょう。グウィネッズのロドリが勝手に幅を利かせて言っているだけでしょう。他が黙っているだけで別に貴殿らのこと認めたわけじゃない」
「何が言いたい」
ロドリ王を呼び捨てにした瞬間、騎士たちの怒りが熱となって広場を満たした。
迂闊な言い方だろう。
実際には王と騎士の関係は、傭兵とそのパトロンというような利害関係に近いものもある。
しかし、ロドリ王は騎士たちの信頼も厚い君主だ。
当然、無下な言い方をされてはキレる者もいる。
カムリの騎士たちは情熱的で、熱しやすい性格だ。
娯楽にも、怒りにも。
その例に漏れず、ガルバーンが膝に手を置くとユラリと立ち上がり、諍いの中心に向かって進み始めた。
背後のウーナからその表情は見えないが、眦が吊り上がっていることは想像に難くない。
ウーナとギルロイもハラハラしながらそれに付いていく。
「私がその大型帆船を借り受けた者だ。私が使うつもりだったんだが、もし貴殿らが相場の5倍の額を払うというなら、考えてやってもいい」
ひぇっへ、といやらしい笑いをつけた。
又貸しになるのだろうが、イストラド・ティウィはこの時代、ダヴェドの領地だ。船乗りたちも貴族のやり方には逆らえない。
「おい、テメェ、こんな舐めた真似してどうなるか……」
「やめろ、ガルバーン」
もはやガルバーンだけではなく、他の騎士たちもジュディカエルと貴族の男を中心にしてつめよっていた。
しかし、実際のところ。こんなことをすればグウィネッズとダヴェドの関係は危険なまでに悪化しかねないのだが……。
いや、それこそ彼の狙いなのだろうか?
ウーナは詰め寄った騎士たちの間からそんなことを考えていた。
「オマエ? ゴッフェなのか?」
隣のギルロイの言葉が、黙ってにらみ合っていた中心まで通った。
貴族の男は、アアン?ガキに用はねぇゾ、アアン? みたいな見下した表情でギルロイを見て。
サーッと顔の血の気が失せていった。
おや?
ウーナやガルバーン他、騎士たちがギルロイと貴族の男を交互に見た。道を開け、少年を中心に通す。
男ゴッフェはギルロイの顔を見て、次に彼の首にかかる紫の宝石を見て、
涙目になった。
「ぎ、ギルロイ様? そうなのですか?」
騎士たちは先ほどの怒りをどこへ向ければいいのかわからなくなりそうに顔を見合わせている。
その中で、ジュディカエルだけがギルロイから済まなそうに顔を背けた。
「い、生きていらしたのですか? ほ、本当に」
「ゴッフェ」
ギルロイが悲しそうに彼を見つめた。
「今のは何なのだ?」
さも残念だ。というギルロイの小さな声を聞いて貴族は狼狽した。
「い、いやこれはその…………いえ、申し開きもありません。見苦しいところを晒してしまい、誠に恥ずかしく思います」
高圧的だったゴッフェは彼の中の葛藤らしきものと闘うような感じを見せた後、ついには頭を下げて謝った。
「ジュディカエル団長殿、先ほどの無礼千万、どうかお許しいただきたい。いかなる償いもいたしましょう。船も当然お貸しします」
「貴殿の謝罪、快く受け取ろう。償いは結構。帆船のほうはお願い致す」
ジュディカエルは初めから分かっていたように彼を許し、船舶の賃借の許可を得たのだ。
「おお~」
「大きい~」
ガルバーンとウーナがその高い帆を仰ぎ見ながら言った。
大型の帆船五隻。
三角帆のマストが複数立ったジーベック型。
それぞれに20人強の騎士たちと軍馬、船乗りたちが乗り込む。
大量の人と物資を詰め込むのに、港は大忙しだ。
船舶をタダで貸してもらえることになったので、船乗りたちにはすごい報酬を提示して嵐を強行してもらうことをゴリ押した。彼らはこの航海が無事終わったら、向こう半年遊んで暮らせるかもしれない。
「ギルロイ!」「おい、ギルロイ!」
そんな中、騎士たちがギルロイに集まって先ほどの事態はどういうことなのかと、こぞって質問し始めた。
しかし、ギルロイはあまり話したくはないのか、答えられずにいる。
それを見てグウィンとガルバーンが無理に聞くのは良くないと、集まった騎士たちを散らして船に乗らせた。
ウーナも彼の秘密を知りたい気持ちはあったが、ここでみんなみたいに聞くのは良くないと自制した。
「悪かったな」
ジュディカエルがギルロイの肩に手をやって謝っていた。
「いえ……今は急がなくてはなりませんし、オレができることをしたまでです」
ジュディカエルは少年に微笑むと、自分と同じ船にギルロイを乗せた。
そして、やっと船が出港した。
いろいろあったが背後の港には結構な人々が見送りに来ていた。
前方は暗雲立ち込める昏い海。
その向こうにはウーナの初陣、コーンウォールの戦場が待っている。
船乗りも騎士たちも、十字を切ったり、手を合わせたりしている。
ウーナも十字を切って航海の安全を祈った。
次回、10月30日です
ジーベックという帆船は16世紀あたりの船なのでこの時代存在しないのですが、まあ、そんな形の船だったと思ってください。