1、いつか、どこかで
私は裸で母の胎から出た。裸でそこに帰ろう。
主は与え、主は奪う。
主の御名はほめたたえられよ
第一章
1、いつか、どこかで
ハープの音がどこからともなく聞こえてくる。
幼い少女が顔を上げると、いつの間にか濃い霧が立ちこめていた。
小さな丘の上で花輪を編んでいたはずだったが、どうやら魔法の霧に囲まれてしまったようだ。
三歩先も見通せない。
金色の髪を片手で耳にかけると、その耳で音を探す。
美しいハープ。
一生懸命になっていた花輪のことなどするりと忘れて、夢心地に音色の方へ歩みだした。
しばらくすると唐突に湖が現れた。
静かなさざ波が湖畔に打ち寄せている。
ハープは湖の向こうから聞こえるようだ。
なにか輝くものが波に晒されているのを少女が見つけた。
拾い上げると、それは透き通る青の宝石だった。
突然、ハープの音が止んだ。
吸い込まれるような、魅せられるような感覚がして宝石から視線を外すことが出来ない。
嫌な汗が出始めた。
にわかに雲がかかり霧はますます濃さを増し、辺りが暗くなると逆に宝石は輝き始めた。
その光の中に何かが見える。
薄暗い部屋いっぱいに魔法陣が敷かれている。
中央の台には黒髪の少年が磔にされて横たえられている。
手前に男の背中が現れた。
男は少年の横にひざまずいて何事か唱えると、少年の左目をくりぬいた。
少年は苦悶に叫んでいるようだ。宝石のこちら側の少女に声は聞こえない。声は聞こえないがその苦痛は聞かなくても分かる。
男はどこからともなく、くりぬいたのとは別の眼球を取り出した。
その眼球からは禍々しい緑色の邪気が漏れ、まるで燃えているようだ。
ぐったりしていた少年に怯えが走る。
「止めて!」
少女の叫びがこだました。
当然宝石の中に声は届いていないようだ。
少女の制止虚しく邪悪な眼球は少年の左眼窠にはめ込まれた。
少年は短い叫びを上げると気を失った。
しかし、緑の眼球はそれそものが生きているかのようにせわしなく動き続けている。
眼球の動きが止まった。
こちらを見ている。
少女を見ていた。
見すくめられた少女は-------