巡査・頭山怛朗の活躍(第七話 巡査・頭山怛朗とコンビニ)
ヤフーブログに投稿予定です。
おれはマイルドセブン一つとカップコーヒーをカウンターに置いた。コンビニの店員が言った金額をおれの財布は拒否した。
“なんてこった!”おれは心の中でつぶやいた。
おれは身長198cm、体重165kg。巨体だ。顔は……。正直、イケメンとは言いがたい。
でも、おれが、あの日の夜、ジョギングをして遠くの街灯と半月の光の中で林の中の小道を曲がると女がぶつかってきた。おれが助け起こすと、おれの顔を見て「キャ! 」と悲鳴を上げ、今度は本当に倒れた。体をゆすったが反応がなかった。女は死んでいた。なぜ、こんなことで死ぬのだ? 失礼な女だ。
おれは何もしていないではないか。
「どうする?! 」今度は声を出した。選択肢は二つ。その一、携帯で110番する。その二、誰も見ていない。おれは悪いことはしていない。無かったことにしてこの場を立ち去る。
天国のお袋に相談した。「110番しなさい! 」
おれは天国のお袋の意見をこれまで通り無視した。
おれはマイルドセブン一カートンを買うため、コンビニの店員に一万円札を渡した。ついでだったのでカップコーヒー十個も買った。
仕事を終え帰ろうと車に乗ろうとすると、二人の刑事が声をかけてきた。女性の死体が見つかった件で話が聞きたいということだった。
「あなたは何時もあそこを通るコースでジョギングをしているとか? 」と、警部補が言った。「何人かの人が見ています」
「何時もじゃありません」と、おれ。ポケットからタバコを出して続けた。「いいですか? 」
「勿論! 」
「ジョギングするか、どうかはその日の気分・体調しだいです。実際、このところしていません」
「五日前の木曜の夜は? 」
「どうだったかな? 」
「たった、五日前ですよ 」
「刑事さん? 昨日の夜、何を食べたか覚えていますか? 」
「……」警部補は、おれの思惑とおり答えられなかった。
「昨日のことも覚えていないのに、五日も前のことなど覚えていませんよ」おれは車に乗り込んだ。
「また、お会いするかもしれません」と、巡査が初めて口を開いた。誰かに似ている。そうだ、バナナマンの日村だ。
数日後、おれは警察にいた。任意同行を求められ、断る理由がなかった。断ったら余計疑われるだけだ。実際、おれは女に死に付いて何もしていない。
「女性の死体のそばにマイルドセブンの吸殻が落ちていました。その吸殻のDNAと、数日前あなたが会社の駐車場に捨てて行ったタバコのDNAと一致しました」と、警部補。
「そう言えば水曜の夜、あの辺で一服して吸殻をすてた。言われて思い出した」と、おれ。
「コンビニを探す。自分でもいい思いつきだったと思います。あの夜、先週の木曜の夜、あなたは夜の十時、コンビニでマイルドセブン一つとカップコーヒーを買おうとしましたが、金が無くてタバコだけを買った。ところが三十分後、別のコンビニでマイルドセブンを一カートンとカップコーヒー十個を一万円札で買いました。どこで、その一万円を手に入れました? もう、ATMがやっている時間ではありません」と、バナナマンの日村似の巡査が言った。
「拾いました。あの夜、ジョギング中に拾ってネコババしてしまいました。すみません! 」と、おれ。「でも、あの女とは関係ありません」
「あの女? おや、あなた! 亡くなった女性を知っていた? 」
「知らない、知らない」と、おれは慌てて言った。「新聞やテレビで知っているだけだ」
危うく墓穴を掘るところだった。
バナナマンの日村似の巡査が続けて言った。「問題の一万円札から亡くなった女性の指紋も見つかりました。亡くなった女性の指紋、あなたの指紋、コンビニ店員の指紋」
おれは思わず叫んだ。「おれは何もしていない。あの女、おれを見て勝手に倒れた。失礼な女だ」
「亡くなった女性は心臓に問題を抱えていました。びっくりすると心臓に無理がかかって倒れることがあったそうです」
おれは半べそで言った。「面倒にまきこまれるのが嫌で逃げ出したんだ」
警部補が言った。「医者によればもう少し速く病院に来ていれば助かったそうです。あなたは目の前に倒れている女性を放置し、かつ、その女性の財布を盗んだ」
涙が自然と後から後から出てきた。おれは大きな図体をして声をあげて泣いた。
やはり母親の言うことは素直に聞くべきだった。お袋は何時も言っていた。「タバコのポイ捨ては止めなさい」