混沌からの贈り物
突発的に書きました。実はあまりクトゥルフ神話については詳しくありません。せいぜい動画知識程度です。ですので適当に読んでもらえれば幸いです。
また勢いで書き上げたものなので、誤字脱字文法の誤りがあると思いますが、今回はあまり気にせず読んでみてください。
それでは。
「君は人生で勝者になりたいかい」
黒服の男は僕に尋ねた。
「なりたい」
僕は答えた。誰だってそうだろう。人生の勝者は恵まれていて、幸せをつかんでいるやつだ。
「じゃあ君は加害者になりたいかい? それとも被害者になりたいかい?」
黒服の男はニヤニヤしている。不気味でいけ好かない笑顔だ。
「どっちにだってなりたくない」
「だったら君は被害者がお似合いだ。それが嫌なら加害者になりな」
男は言う。僕はそれを否定する言葉を持っていない。
「みんなが幸せになれるとでも思っているのかい?」
「なれたらいいと思うよ」
僕の言葉は弱い。そんな希望を見ているわけじゃない。男の言葉を否定できない。僕の精神を侵していく。
「ははは。それはなんておかしいことだ。みなが幸福な世界。ははは、それはみなが不幸な世界さ。等しさなど無意味。平らな世界などつまらないではないか」
男は笑う。嘲笑う。
僕は無意味に拳を握りしめる。言い返せはしない。だから僕は彼を見ないことにした。黒服の姿など見ない。奴の声など聞こえない。
「いい判断だ。五十点をあげたいね」
それでも男は人を馬鹿にしたように言う。うるさく、耳障りな声だ。
「けどそれじゃあ足りない。単位はあげられないね」
あまりにも僕のことを馬鹿にする言葉に耐えられなくなって、振り返る。男はロボットみたいな変な格好で突っ立っていた。微動だにせずに、そこにいる。
「なにやってんだよ」
「ははは君の人生はそういうものさ」
僕はうんざりして、男に背を向ける。
「そうやって逃げているのがお似合いだね。だけどそれじゃ誰も勝者にならない。君は被害者にもなれない。なれてせいぜい目撃者だ」
うっとうしい声が響く。なんなんだこいつは。あれそういえばここはどこだ。疑問に思い、後ろを振り返る。
男は目の入っていないダルマを頭の上にバランスよくのせていた。
「さっきから何やってるんだよ」
「なにって君の人生の暗示だよ。だるまさんが転んだってね。わかんないって顔だね。そうだろうね。じゃあ優しく教えてあげるよ」
男はニヤニヤと笑っている。
「君は目をそらしているんだよ。だけど後ろが気になってしかたない。そんな時ちらっとだけ見る。けどそれは一瞬だ。世界は君の見ている一瞬には動かない。いや動いていないわけじゃないんだ。だけどそれはとてもゆっくりなんだよ」
こちらの反応を見るように、抑揚をつけて話す。僕は男の言葉を黙って聞いていることしかできない。まるで呪いの言葉だ。
「だから君は気づかない。鬼である君は、誰かが自分のすぐそばに来ていても気まぐれにしか振り返らない。君に見られた世界も、君を観察しているというのにね」
「何が言いたいんだよ。あんた」
「そうだね。君はもう少し人とかかわるべきだ。瞬間じゃない。少し長い時間触れ合うべきなのだよ」
そんなものに意味はない。価値はない。それは僕が一番知っていることじゃないか。彼らは僕に何も与えない。僕も彼らに何も与えない。
「だるまっていうのは当たってるかもね」
僕は彼のいう世界に、手も足も出ないのだから。
「ほらすぐに自虐に走り出す。そうじゃないんだよ。せっかくの気まぐれに人間に知恵を与えようと思ったのに、もう随分枯れてしまっている奴だったよ」
「だったらほかに行ってくれ」
「嫌だね」
「どうしてだ」
「君が私のことをとても嫌がってくれているからだよ。それにさっきからうるさいのは、私の言葉じゃなくて、君の心だろ?」
男の言葉に大きく揺さぶられる。あぁそうだ。男の言葉は正しい。そして男はきっと言う。僕にとって最悪の宣告を。
「君は自分のことが大好きでしかたないんだよ。だから他人とかかわらない。他人が嫌い。そうかもね。けどそれ以上に、何かと関わって自分がねじれてしまうのが嫌なだけなのさ」
「だったらどうした」
僕の声は弱い。足場はもろく、今にも闇に落ちていきそうだ。
「自分のことが大好きで何が悪い」
あぁ僕の言葉弱い。こんなもの開き直りにもなりはしない。目の前の男には、そんな小さなものは無意味だ。
「もろい自己愛者かと思ったが、存外丈夫だったか。なるほど気に入った。お前にこれを預けよう」
男はそういうと頭上のダルマを砕き、その中から黒い四角い金属の箱のようなもの差し出す。すぐに開けようとする、僕の手をその冷たい両手でがっしりと抑え込んだ。
「まだ開けるな」
その目は、闇よりも深い混沌を宿しているようで、その言葉に従う。その時男に抱いた感情は混じりけのない恐怖だった。
「君が誰かを助けようと思った時、この箱を開けて中身を見ろ」
その言葉は命令だった。
「そうすれば私がすぐにその場に駆けつけてやろう」
男は初めて人のよさそうな笑みを浮かべた。なんて、信じられない顔なんだ。そして確信している顔だ。
追い詰められた僕が、この箱を開くことを。
「さぁ夢の時間は終わりだ。君のくだらない生活に戻るといいよ」
男の声に世界がゆがむ。そうだ。どうして気づかなかったんだ。空なんてない。いや大地もなかったではないか。
ジジジジと目覚ましがうるさい音をあげている。うっすらと目を開けると、外が明るい。どうやらもう朝になっていたようだ。眠い体に鞭打って、ベッドわきにある目覚まし時計を触ろうとする。いつもおいている場所にない。変わりに金属でできた箱の感触が手にあたる。
途端に目が覚め、布団を弾き飛ばした。そのまま、うるさい目覚まし時計を黙らせる。
何か夢を見た気がする。内容は覚えていない。
いやおぼろげながら覚えている。なんか、僕がぼっちであることを馬鹿にされた気がした。
「よし!」
友達を作ろう。彼女でもいいや。夢の内容は覚えてはいないが、そいつの言うとおりなのはむかつく。
人生何事もきっかけが大事だよね。今日から僕は一人を卒業するんだ。だって今日から、新学期なんだから。