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28-悪意ある



「まあ、まずは飯でも食いなよ」

「ああ」


 ラマールの目の前で買った物なので、疑う様子も無い。悪意に疎いねえ。


「さて、きみに頼みたい仕事っていうのは、僕の手伝い。簡単に言うと、僕のかわりにギャンブルを取り仕切る雇われ店長だ」

「それで、わたしにも得ってのは? 自分で利益率を設定できる以上に美味しい条件はそうそう無いと思うがね」

「まあ、聞きなよ。これはつまり、縄張りの話さ」


 食事に伸ばしていた手がピクリと反応する。


「例えば、だ。きみの設定にあわせて、僕が取り分を変えたらどうなると思う?」

「……その時は、わたしの取り分を下げる」

「だよね。そうすると、僕もまた同じことをする。さて、行き着くのは?」

「過剰な薄利、か。価格競争は商売の基本構造だ」


 いくら元手のいらない商売とはいえ、利益が低すぎてはやっていけない。相場なんて物の無い新興の商売ではバランスも取れないだろう。


「まあ、そういうことだね。それが嫌なら、僕に協力したほうが儲けが出ると思わないかい?」

「ああ……しかし、問題はあるぞ」


 ラマールは食べ終えた食事の残骸をくしゃりと丸めた。


「まず一つ。そのうちわたしの他にも、同じことを始めるやつが出るだろう。これにはどう対策をする?」

「だね。きみの行動が最も早かっただけで、他にも同じことをするやつは出てくる。だからこそ手を組むのさ」


 訝しげに眉をひそめる。


「どうせこの先、必要なものは増えていく。何が必要だと思う?」

「まずは……そうだな、用心棒か」

「うん。今の僕達は無力だ。強盗にでも入られたらお仕舞い。だから、暴力を金で買うんだ」


 現状、儲けが異常に多いわけではない。今は無事だが、悪意の芽生えた世界で大金を稼げば、いずれ狙われるのは当然だろう。そこで必要なのは自衛の手段。神たる僕ならともかく、一般人たる僕に身を守る術は無い。だから雇う。

 実際、原始的な日本の賭場に用心棒は付き物だった。渡世人や本来の意味での極道は、そうして力をつけていった。


「それはわかる。それで?」

「暴力があれば何ができるか。自衛、それから、脅迫」

「脅迫……」

「真似をするやつが現れるなら、今僕がしているみたいに説得して仲間に入れてもいいし、それで従わないなら脅して止めさせてもいい。対抗勢力を生まないことが第一だね」


 知的財産権なんて発想は無いのだから、国の代わりに抑止力が必要だ。


「要するに、数は力だってことだよ。即座に僕の真似をするような目端の利く人材なら大歓迎だ。そいつらも取り込んで、この商売を僕達で独占するんだ」

「しかし、相手が同じだけの、いいや、わたし達よりも強い力を持っていたらどうするんだ?」

「そうならない為の仲間であり、そうなってしまった時の為の仲間だ。人手が増えれば儲けも増える。儲けが増えればより多い人手と暴力を雇える。以下繰り返し」


 ネズミ算式ってわけじゃないが、それに近い。


「随分と簡単な算用だな。最初はそれでいいかもしれないが、いずれ大きな力とかち合うのは避けられないだろう。例えば、教会とか」


 その可能性はある。建前の上ではより良い生き方を推進する教会だ。おおっぴらに賭け事を推進するとは思えないが、言うまでもなく、ギャンブルは悪徳である。禁止令とかならあり得る話だ。


「そうなるかもしれないね。その場合に有効なのは、賄賂だ」

「ワイロ? なんだそれは」


 オぅフ。

 賄賂を知らぬか。さすがこの世界の住人だ。教会の上層部は普通にやっていたから油断した。


「賄賂ってのは、相手に利益を渡して便宜を図ってもらうことだ。この場合、教会のお偉いさんに金を握らせて、僕達のことを見逃してもらうのさ。あくせく働いて金を得るのと、何もしないで金をもらうのとでは、誰だって後者を選ぶだろう?」

「なるほど……」


 教会に清廉潔白な幹部などいない。断言する。そんなやつは存在しない。僕はずっとそれを見てきた。懐柔は容易だ。


「他に何か質問は?」

「そうだな。実現できるかは別にして、裏の骨子は理解した。しかし、そもそもの問題が残っている。商売の内容そのものだ。今は物珍しさもあって繁盛しているが、いずれは飽きられるだろう。そうなれば、お前の言ったことは水泡に帰す」


 そう言いながら、しかし何か考えがあるのだろう。どこか楽しそうにラマールは手を振った。頭の回るラマールのことだ。言われっぱなしでストレスが溜まっていたのだろう。だから僕は会話が下手だってんだ。


「まあ、わたしならば解決策は思いつくが」


 見世物を虫から動物とかにシフト。そんなとこだろう。とりあえず言わせてみよう。


「そう。その策は?」

「おいおい、教えるわけが無いだろう。まだ手を組むと決めたわけじゃないんだ」


 むぐっ。

 ここまで話をさせておいてソレは無いだろう。まあ、表情を見るに本気とも思えないけど。


「きみがこの話を蹴るほど愚かだとは思わないよ」

「さっきの話じゃないが、わたしにだって暴力は扱える。お前さえいなければ、わたしが組織の頭になれる」


 本気じゃないのが判る。だって、それは僕も同様だ。

 どうせ僕は一ヶ月でいなくなるのだが。


「どうかな。渡された食料を疑いもせずに食うやつに、そんなことが出来るのかは疑わしいね」

「っ……!」

「この商売に最も必要なことは悪意だ。金を浅く広く巻き上げる、極限まで薄めた悪意を広範囲にばら撒く能力と、他者の悪意を敏感に察知する能力。悪意に鋭敏にならなくちゃ、いずれ誰かに捉われる」


 ラマールは黙って聞いている。

 こいつには大いに働いてもらう必要があるから、叩き込むべきことは多い。


「次に必要なのは損得勘定だ。他者をハメて利益を吸い上げる。それに気付かれないように、それでいて最大限得をするように動く。イカサマをすれば短期的には儲かるが、バレれば信頼を失い、長期的には損をするだろう。そういうバランス感覚が求められる」


 元の地球でも、それは難しいことだった。


「あとは、斬新なアイディアだ。それだけあれば、きみは一生、勝ち続けられる」

「簡単に言ってくれる」


 簡単なんだから仕方ない。

 アイディアならば、僕の脳内にいくらでもあるのだ。地球にあったギャンブルを教えるだけでいい。


「そして、僕はそのアイディアを腐るほど持っている。例えば、種目を虫から動物に変えてみるだとかは初歩の初歩だよ。脚の早さを競わせたり、力比べをさせたりもね」

「ぐっ……」


 意趣返しの意趣返しが終わり、僕はにんまりと笑ってみせた。




プロットに無い部分が暴走しています。

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