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14-検証



 なんて都合のいい話があるわけもなく、僕は相変わらず運営に関われなかった。あれだけ演技したのに。

 今日も今日とて暇なので、僕は管理室に向かった。


「やあ」

「あ、こんにちは」


 中には春と、見覚えのある女子が二人がいた。春がいる率は妙に高い。この前のクソ雌とかに押し付けられているのだろうか。可愛い。


「調子はどう?」

「あんまり変わらない、です」


 手土産のお菓子(食堂でいくらでも手に入る)を差し入れ、春の隣に座る。ちょっと身を引いた。可愛い。

 メイン画面には、東の大陸が映っていた。


「可愛いなあ……」

「どれ? あ、そうだね」


 春の呟きを耳聡く捉えてモニターを見る。東の端に住む背の低い種族の子達だった。もう猿の面影は少しも無く、くりくりとしたおめめは薄緑色で、髪は濃い茶色。顔はどことなく黄色人種っぽい。布をつぎはぎしたパッチワークの絨毯みたいな服を着て、きゃいきゃいとはしゃぎ回っている。


「天使ですやん」

「え?」

「いやー、お持ち帰りしたくなるほど可愛いですなぁ」

「そう、ですね」


 母性本能の拡大に伴う生存率の向上を受けて、この星の生き物達は可愛さを基準に進化していく傾向が強い。

 要するに、可愛い生き物ほど襲われにくいのだ。

 ここで言う可愛さとは万人に共通するものであり、美醜とはあまり関係が無い。人間が犬猫に抱く感情に近く、顔の比率として大きな目や丸い輪郭、短い手足にゆっくりとした動作。そういったものが生存に直結するほど重要なのだ。

 故に、この惑星における人類は、特に子供は、すんげー可愛い。

 マジでもうほんっと可愛い。

 チワワをまったく可愛いと思えない(なんか宇宙人みたいで気持ち悪く思える)この僕をして、何故か母性がウズくのだ。僕の中の母性がリンボーダンスを踊るのだ。

 さあ吸いなさい。僕のお乳を吸いなさい。出るから。母乳出してみせるから! から!

 オーケー、落ち着こう。

 想像妊娠で母乳が出るなら男でも出るんじゃないかという実験は既に行った。無理だった。

 つまり僕の場合は父性なのだろう。


 置いといて。


 特に東と西の大陸には比較的身体の小さな種族が多いから、その破壊力は計り知れない。南北の種族はどちらかというとカッコいい。手足が長いからだろうか。狩猟採集民であることが理由かもしれない。襲われにくさよりも動きやすさを重視しているのだろう。


「お持ち帰りできないかなぁ」

「ダメ、ですよ」


 春は僕の目の前に人差し指を立てる。可愛い。


「わかってるよぅ」


 別にタイムパラドックスが起きるわけでもないのだから、一人や二人かっさらっても大きい影響は無いと思うんだけどなあ。

 事故で死にそうなやつを助けるとかどないじゃろ。そいつは生き延びるし僕は幸せ、影響は与えないはずだ。八方丸く収まる。

 うん、いいなソレ。

 マリアも、いまさら僕に妙な嫌疑は懸けないだろう。

 となると、必要なものはなんだろう。

 食事はなんとでもなる。でも僕の部屋だと鍵が無いから見つかる可能性もある。誰か一人、協力者を抱きこんで……無理か。

 頭の後ろで手を組んで、背後で駄弁る二人をチラ見する。一人は爪の手入れをしていて、もう一人は電紙をいじっていた。

 電紙?


「ねえ春、電紙ってどうやって使うん?」

「え、どうやって、って」


 春は俯きポケットからサイコロみたいなものを取り出す。可愛い。


「これ、もらってない、んですか?」


 ああ、うん。また僕だけ特別だね。

 四角い立方体。ヌベっとした黒い表面に、青い線が走っている。


「これを、身に着けてると、使えます」


 春の指の軌道に合わせ、電紙がふわっと現れる。おー、何度見てもすげえ。どこか得意げな春。可愛い。


「管理の、補助的な、道具、だったかな。全員に配られたんですけど」


 手違い、かなぁと春は呟く。間違いなく間違ってる。可愛い。


「数量限定なんじゃなくて?」

「そこに、ありますよ」


 春が指差した先にはダンボールの箱があった。春の持つのと同じサイコロが無数に入っている。


「何ができるのコレ」

「えっと、現地の様子を見たり、言葉を訳したり、物を持ってきたり、えっと、えっと」


 頭を押さえて悩んでしまった。可愛い。


「あ、自分でやるよ。ありがと」


 僕は立ち上がり、ガラクタみたいに箱に詰め込まれたサイコロを手に取った。たくさんあるので一個減ってもわからないだろう。なんとなく高さが変わらないように残りの機械を箱の中で積んだ。 自室に戻り、検証を始める。


 ええと、まずはスイッチだ。右手を顔の前で横に振ると、薄い紙のようなモニターが現れた。

 おお、すげえ。タッチパネルみたいに触れると反応する。文字は日本語。英語が第一言語の人が使った場合は英語になるのだろうか。検証しようにもここには日本人しかいないので考えるだけ無駄だ。無駄は大好きだけど今はやめておく。


 最初に表示された項目は三つ。機能、管理、ヘルプだ。ヘルプだけカタカナな辺りに違和感を覚えた。パソコンとかでもそうだったなあ。確かに当てはまる日本語が思い浮かばない。

 機能を選択してみる。項目が表示された。


 翻訳、転送、閲覧。


 とりあえず原理とかは置いといて、翻訳はわかる。現地の人と会話する必要もあるだろう。

 次に転送、これは物をあちらに送る機能? もしくはその逆か。選択してみる。説明が出てきた。指定座標にある物品を回収及び指定座標に物品を配置する機能である。対象物は滅菌された状態になるが、毒物や汚染は除けない。ふむ。

 矢印が二つ。左と右を向いている。左を選択。


「対象物品の概要と座標を指定しろ」


 命令形でイラっとする。地図が表示された。適当なところを触るとズームされる。動画版のストリートビューみたいだ。適当な木になっていたマンゴーみたいな果物を指定してみる。


「おー」


 感嘆。僕の目の前に果物が現れた。

 食えるのか、これ? ちと怖い。かじる。酸っぱい。うまくない。

 逆の矢印を選択する。同じ文言。僕は果物を指定した。元の地面に歯形のついた果物が落ちる。

 ふむ。

 面白い。これがあれば色々できそうだ。




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