00-導入 ‐いともたやすくおこなわれるえげつない行為-
僕は割とクズである。
そして、自分に異常があることは知っている。
ただボォーっと机に伏して画面上で乱れ踊る数字を眺めていると、視界が少しずつ狭まっていく。霧がかかったみたいな視界の中で、曖昧な数字は心臓の鼓動みたいだった。
未だに実感できない。ストップウォッチの右端みたいな早さで増減するこの数字の一つ一つが、人間だなんて。
一個の、知的生命体を表しているなんて。
この部屋にはもう誰もいない。管理業務を任せられたと言えば聞こえはいいのだけど、退屈な作業を押し付けられたというほうが正しい。
びぃびぃと小さなアラームが鳴る。内容を確認。項目を調べ、呼び出しマイクに声を掛ける。
「マリア、問題発生だ。中規模殺戮発生の兆し」
少し間があって、返答があった。
『放っておきなさい』
「……了解」
数字は僅かに下降するだろう。それからまた、同じくらい増えるのかもしれない。
時間を調節して、モニター越しに展開される「虐殺ショー」を、天罰が下る程くだらない行為を眺める。
跪くように並んでいるのは、全員が女の特徴を持っていた。老若の区別も無く後ろ手に縛られ、顔は布袋に隠されて見えない。全身を覆うように纏う装束が美しく特徴的な、比較的小さな種族。
武器を突き付けるのは、これまた全員が女のようだった。背の高い、大柄で筋肉質な種族。胸部の膨らみを誇示するような鎧を着込み、威圧的に鈍器や刃物を掲げ、顔に嫌らしい笑みを浮かべている。
大柄な種族は武力で小さな種族の集落を制圧した。およそ戦闘という行為に慣れていない小さな種族は為す術も無く従うしかなかった。
中でも一際立派な一人が、両手を上げて叫ぶ。
「我らが神の望むままに!」
それから捕虜は、三つに分けられた。一つは本国に送られ、奴隷となる。小さな子供はここに全員が含まれる。一つはここに残り、拠点となったこの場所を維持する。
そして、一つは。
ひゃあ、ともきゃあ、ともつかない悲鳴が聞こえる。絞り出すような声。怖気の走る光景。真っ赤な視界。
数人の腹が刃物で切り開かれて、臓腑に手を入れられていた。手が動く度に痙攣するような反応をし、悲鳴が上がった。
大柄な種族の兵は目当ての物を探り当てると、それを液体の満ちた瓶に入れた。殻の無い卵とでもいうような、卵包という繁殖装置。用意された瓶の数だけ、小さな種族が殺された。
何人くらい、そんな風に死んだのだろう。今更数える気にもなれなかった。
取り出された卵包の入った瓶は、一際立派な一人に手渡される。腹に手を当て息を止めた。でろりと口から唾液が出る。それは僕の目に、妙に艶かしく映った。次々に唾液を吐き出し、瓶に詰め込んでいった。
僕は視線を切る。いつも通りだ。よくある光景。卵包は融合し、やがて子供になる。子供はこの場所で育ち、いずれこの集落での多数派になるだろう。そうして侵略は完遂される。この場所を拠点に、侵略者はまた版図を拡げていく。
最初に人間らしきものが生まれた時は、抱き合いながら喜んでいた。理想通りの、美しい生き物達。はじめはみんな綺麗で、汚れのない、完璧な世界だったはずだ。
理想の世界を、創ったはずなのに。
僕はクズだ。
こんな光景に抱く感想が「もったいない」だ。僕以外の全員が、とっくに心折れているのに。
神様は何一つ望んでない。僕には、僕たちにはそれがわかるんだ。
及月クヂオ十六歳。
この新しい世界に来てから、数ヶ月が経過しています。
なんの因果か、神様です。