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嫁き遅れ女の受難2

作者: 大雪

心などとうに固く凍り付いていた筈


なのにどうしてあの時自分の心は傾いてしまったのか




「ねえ、宰相君」


めんどい女が来たと思った。

いつもニコニコ笑っている女。

この女の夫はそこがいいんだと鼻の下を伸ばすが、俺にとってはただの間抜け面としか思えない。


嫌いではないが苦手な女


それがこの女に対する俺の評価だった


だが、女は俺の想いなど知らないとばかりに近づきそれを押しつけてきた


曰く、見合い写真だ


「そろそろ宰相君にも可愛い奥さんが必要かと思って」


宰相君って呼ぶな


宰相は地位であって俺の名前ではない


だが、それ以上に俺は女に興ざめしていた


この女も所詮他の奴らと変わらないのか


俺の持っているものを狙って、自分の縁者を宰相の妻の地位に据えたい奴ら


所詮この女も同じなのだ


俺は、女の夫である同僚を哀れみながら見合い写真を開く


何故その時それを見ようとしたのか分らない


ただ、思ったよりも俗物だったと評した女がどんな相手を持ってきたのか純粋に興味があったのかもしれない


しかし、そこに写っていたのは


「凄く可愛いでしょう?」


これが?


「私の大切な友達なの」


にしてはもの凄く差があるように見えるのは俺の幻覚か?


女は隣国では名高い美女だった


しかも、公爵家の娘であらゆる点において秀でており、国の至上の宝とさえ呼ばれていた


だが、見合い写真に写る女の友達は地味


地味、平凡――それしか思いつかなかった


いや、人間が顔でないように神も顔ではない


「よほど能力が優れてるんだな」

「いえ、全く」


女がバッサリと俺のフォロー?を切り捨てた。


「……頭が良いとか」

「学校のテストではいつも追試でしたわ」

「運動が」

「跳び箱と一緒に心中し、徒競走では周囲を巻き込んでの大転倒。終には皆から御願いだから出ないでくれと泣いてすがられてましたわ」

「歌や舞など」

「授業の前の逃走っぷりは凄かったですわ~」


全然駄目だろっ!


「もう本当に可愛くって」


そんな駄目女を俺に押しつけるこの女の神経を疑う


「とりあえず一度会うだけあって見て下さいな」


だから薦めるお前の神経が


「それに、とっても楽しいですわよ、おちょくったらストレス発散間違いなし!」

「そうか、なら一度会ってみるか」

「え?!そこが食いつきどころなの?!」


酷いよと騒ぐ国王を無視し、俺は見合い写真を眺めた。

妻として迎える気は毛頭ないが、近頃ストレスもたまっている。

その発散相手になるならば一度ぐらい会っても構わないかも知れない。


そうして一ヶ月後にやってきた見合い相手は、心底俺の度肝を抜く相手だった。





度肝を抜かれたエビソード①


「いいから、俺が良い値で買ってやるっていってるんだ!」

「離して下さい、誰かぁっ」


貴族出身の女官や侍女とは違い、平民出身の下働きの女。

貴族の馬鹿息子に目をつけられるほどに美しかったのが災いし、近くの空き部屋に連れ込まれかけていた。

それを助けようとする者も居たが、いかんせん身分が足りず、馬鹿息子の仲間達に逆にボコボコにされていた。

このままだと仲間達も手伝い、下働きの女は確実に散々弄ばれて捨てられるだろう。


可哀想に


助けないのかって?


面倒事には首を突っ込まないタチだ


それに、あの馬鹿息子達の親はなかなかに使い勝手がいい


後で潰すが、今はまだその時ではない


つまり俺はその下働きの女を見捨てたのだ


けれど、女は意外と悪運が強かった


ジャブジャブとバケツに突っ込み準備オーケー


水浸しのモップを持ったあの女が馬鹿息子達に近づいていく


既に下働きの女は、馬鹿息子達に抱えられ、近くの部屋に完全に引きずり込まれる寸前だった


「ほわちゃぁぁぁあっ!」


なんとも間抜けなかけ声


なのに、そのモップ裁きは凄まじく華麗だった


まず下働きの女の足を抱えていた馬鹿息子の後頭部を全力で張り倒すと、次に左右で女を押さえていた馬鹿息子達の顔面をモップでなぎ倒す。

続いて、周囲で笑っていた馬鹿息子達も次々とあの女のモップの餌食となった。


「くっ!何をするんだっ」

「くたばれこの屑」


馬鹿息子達に冷笑を浴びせ、更にモップでボコボコにするあの女


口をきくのも嫌だとばかりに口の中にモップを押し込むその所行はある意味悪魔だった


だが、女は馬鹿息子達を徹底的にたたきのめすと、下働きの女を連れてさっさとその場を立ち去っていった


勿論、その後馬鹿息子達の両親達が騒ぎ立てたが、あの女の方が上手だった


いつの間にか手に入れていた両親達の悪行の証拠の数々を、よりにもよって他国からの客が来ている時に大々的にばらまいてしまったのだ


うちの国からすれば恥


しかしそのおかげで、国の膿を一掃出来たのも事実である


地味な顔していて以外と油断ならない女だと認識したのもこの一件である






度肝を抜かれたエビソード②


それは、異世界から来た巫女姫を愛でている時だった。


巫女姫である蓮花は酷く愛らしく可愛い存在だった。

美しく清らかで可憐なその見目もそうだが、何よりもその心根が酷く愛おしかった。



そんな俺達を、あの女が見ている。


「…………」


その瞳に宿るのは嫉妬だろうか?


まあ、あの女は向こうでは俺と結婚するのだと言われてこっちにやってきたぐらいだ


うぬぼれではないが、俺はこう見えても殆どのものを持っている


容姿端麗、文武両道、地位や身分もある


夫として逃すには惜しい相手だろうし、何より自分はほったらかしにされているのに別の女が本来自分の位置である場所にいるのは心底面白くないだろう


さて、あの女はどんな本性を見せてくれるのか


その時、女の呟きが聞こえてきた。


「……ロリコンって何才まで離れてたら言うのかしら」



そうして俺と蓮花の年の差を計算するあの女に、俺の頬が引きつったのは言うまでもない。





そんなこんなで色々とあったが、中でも最も度肝を抜かれたのがこれだ


そして――俺があの女に恋心を抱いたのもこれだった





度肝を抜かれたエビソード③


周囲からの噂で、どうやらあの女が俺の事が好きな事を知った。

とはいえ、あの女はそれを口に出すことはなく、俺も何となく放っておいた。


というか、何もする気になれなかったのだ。


国王の妻にと望んでいた蓮花は他の男の元に走り、この国を出て行った。


すぐに追いかけさせるも中々捕まらない


何故あんな平凡な男などに


国王は優しすぎるしまっすぐすぎるが、どう見たってあの男に負ける要素がない


憤りが頂点を超えた時、部下から蓮花達の居所が判明したと聞かされすぐに俺は刀を取った


あの男を殺して蓮花を連れ戻す


だが、俺は蓮花を連れ戻すどころか城から出ることも出来なかった


あの女が立ちふさがったのだ


あの男と行くのが蓮花の幸せだと言う女に、何を馬鹿なとせせら笑った


ただの平民よりも国王の妻になった方が幸せな事は誰の目から見ても明らかだ


そう切り捨てて蓮花を追いかけようとすれば、女がしがみつく


それどころか


「どうしても蓮花を無理矢理王様と結婚させるというのならば私にも考えがあるわ」

「あ?」

「私が先に王様を喰ってやる!」


は?


「そして蓮花が王様と結婚したら、蓮花も私がメロメロにし三人で良いことしてやるっ!そしてこの国を後ろから牛耳ってやるのよ、おほほほほほほっ!」


良いことってなんだ?!


とにかく、本気で走りだそうとするあの女に国王の貞操がピンチだと気づき慌てて止めた。

そこで初めて、女から酒の匂いがした。


こいつ酔ってる


見た目が素面なだけに厄介極まりなかった


「ってか何邪魔する気なんだよっ」

「邪魔じゃないもん~!仲良くするだけだもん~」


朝も昼も夜も、公務の時もプライベートの時もずっと側に居てやるんだ


そう宣言する女に俺は心底ヒイた


なんだそのストーカー


「王の隣は正妃の席だっ!お前など側室で十分だっ」

「なら、王様と王妃様に可愛がられる側室になるわっ」


なんだかそこで色々とずれた気がするが、女は止らなかった。


「うふふふふ~~」


やる


こいつなら絶対にやる



それだけの行動力を見てきた俺は、この女をどう始末するか考えた


殺す事は出来ない


隣国と戦争になる


ならば――


「手を出せなくすればいい」


生娘でなければ、この女は王を喰ったとしても側室にすらなれない


他の国とは違い、この国では王の后になるのはたとえ側室でも生娘でなければならないのだ


だからこそ、蓮花の身を早く確保しようとしていたのだ


「うきゃっ」


女を近くの部屋に放り込み、そのまま後ろ手に扉を閉める。

そうして女に覆い被さった時だった。


先ほどまでとは違いめちゃくちゃに抵抗される。


何故?


王とならばいいんだろう?


ただ相手が変わっただけだろう?


自分を簡単に売れるのだからこのぐらい


「あんたとだけは絶対に嫌っ」


女は俺を拒絶した


それは初めての言葉


何故?


王は良くて俺は駄目なのか?


その目は死んだって嫌だと言う


そもそも、お前は俺の妻になる為にここに来たのだろう?


その後、俺から逃げ出した女は宣言通り王の部屋に行き、そのままベッドですやすやと眠ってしまった。


しかし俺は衝撃のあまり、心配した王が駆けつけるまで動く事は出来なかった。


それから王の説得により、蓮花達を連れ戻す事は止めた


とはいえ、もしあの男が蓮花を悲しませたりしたらすぐに連れ戻す為に影はつけたままにした


一方、あの女は酔っていた時の事は全て忘れてしまっていた


だが――



「王様って素晴らしい方だわ」


蓮花達の幸せを願う王に頬を染めるあの女に怒りを覚える


あの女の口から、たとえ王といえど別の男の名が出るのは許せない


はて?そんなこと今まで考えた事のなかったのに


いや、俺の妻になる為に来たくせに別の男の名を出すあいつが悪いのだ


そう……あの女は俺の妻になるというのに


そこで俺は気づいた


俺は嫉妬していたのだ


俺はあの女を愛しているのだ


蓮花の事は愛しいと思うが、あれは家族愛のようなものだ


それでいて、その神でさえ魅了する神聖さえの崇拝という気持ちだ


あの女への気持ちはそれとは違う、もっとドロドロとした独占欲だ


蓮花のように、好きだからこそ王と、別の男と結ばれて欲しいなんて思えない


あれは俺のものだ


他の男に渡すなど冗談ではない


いや、もともと俺のもとに来た婚約者なのだからたとえ王といえども奪う事は出来ないだろう


そう考え、安心したのも事実だった





しかし……それが俺の油断だったと思い知らされるのはもう少し先のこと




「これは?」

「更紗からの退職願だよ。なんか、辺境の地でうはうは生活スタートするんだって~」


そうか


逃げるという事か


だが、今まで俺は狙った獲物は決して逃がさなかった


例外は蓮花のみ


しかし二度と例外を作る気はない


そう――もう逃げられないんだよ



俺と会ったのが運の尽きだったという事だ



なあ?更紗


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