↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/32

24 調略の裏の謀略

 清州城は織田信長の家臣、森可成(もりよしなり)により攻略された。

 だがその騒動の最中に、守護又代・坂井大膳はうまく逃げおおせたという。

 これには信長の叔父・織田信光の意向が働いている。

 実は可成の手下が大膳の動向を把握していたが、信光は「泳がせろ」と可成に耳打ちした。


「なにゆえ」


「おそらく大膳の奴めは、今川に言われてやっておる」


 その(あかし)をつかむために、敢えて逃がし、あとを追わせた方が良いというのだ。

 可成はうなずいた。


「では簗田政綱(やなだまさつな)どのに繋ぎましょう。そういうのは、政綱どのの方が向いている」


「……承知」


 信光と可成が振り向くと、そこには忍び装束の政綱が立っていた。


「……失礼、信光どのの配下の六鹿椎左衛門の密使を受けたのは、拙者でござるゆえ」


 こうして忍んでついてきたのです……という言葉の最後のあたりで、政綱は煙の如く消え失せ、そして気がついた頃には城外へと早駆けしていた。


「あいもかわらず、なかなかの忍びの術よ」


 感心する信光に、可成は信長から預かった伝言を伝えた。


「……実は、那古野の城を差し上げるそうです」


「那古野を? ……そうか、信長はこの清州に移る所存か」


「さよう。で、那古野は今回のお手柄であり、家中で一番信頼の置ける、信光どのにお預けしたい、と」


「それはそれは……心憎いことを」


 ……こうして、織田信長は織田大和守家(おだやまとのかみけ)(守護代家)を滅ぼし、清州城を手に入れた。そしてそれは、単に城を手に入れたことにとどまらず、上に斯波義銀(しばよしかね)という守護を戴く守護代として、尾張を統治する立場をも手に入れたことを意味する。

 むろん、信長自身の弟である織田信行や、織田伊勢守家(おだいせのかみけ)(岩倉織田家)といった勢力は存在するが、それでも尾張において、信長が一頭地を抜いた勢力となったことには変わりはない。


 そして、一見、信長の勢力が伸長したと思える今この時から、信長にとって最大の苦難が始まるのである……。



「……師よ。坂井大膳はしくじったようだの」


「うむ。()()()()、しくじったわい」


 三河。

 岡崎城。

 今川義元は三国同盟に関わる諸々の仕事を終え、改めて嫡子の氏真に駿河・遠江を託し、自身はこの三河へと――織田家との最前線へと出張っていた。

 そして先に三河入りしていた師・太原雪斎と再会をしている最中であった。


「……義元どの、竹千代はいかがした?」


「師よ。もう竹千代ではない、松平元康じゃ」


 松平竹千代は今川義元を烏帽子親として元服し、そして義元の姪・瀬名を娶り、松平元康となった(初名は元信。のちに元康と名乗る。この物語では、分かりやすさ重視のため、この時点から元康と表記します)。

 元康は三河平定の尖兵としての役割を期待され、早速に動きが怪しいとされる足助城(あすけじょう)(すずき)氏を牽制するため出陣したところであった。


「ふむ。拙僧の最後の弟子の竹千代、否、元康も、いよいよ出陣か」


「最後とは……師よ、まだまだ頑張ってもらわねば」


「気持ちはありがたいがの……義元どの、拙僧は己の死期を見極めておる。これからの()仕掛けの仕込みが、おそらく最後となろう……それだけの()仕掛けなだけに」


「それは……もしや、織田信光のことか、師よ」


「まさか」


 雪斎は笑った。

 あのような()仕掛けなど物の数にも入らん、どちらかというと奸計じゃ、と。


「さてさて……その()仕掛けが動き出す隙に、()()への()仕掛け、始めようかのう、栴岳承芳(せんがくしょうほう)よ」


「これは」


 懐かしい名で来たな、と義元は笑った。

 栴岳承芳(せんがくしょうほう)とは、かつて義元が寺に入れられた頃の、僧侶としての名であった。

 そう……太原雪斎という不世出の知性の弟子としての、名であった。

 その雪斎は、用意してあった墨染の衣を義元に差し出す。


「こういう……こういう()仕掛けは、そういう()()()から入るのが大事じゃて……それに、美濃の法蓮坊(ほうれんぼう)()()()()きよったからの。こちらとしても猶予は無いわい」


 法蓮坊。

 それは美濃国主・斎藤道三が京の妙覚寺において修行していた頃の、やはり僧侶としての名である。


「例の……足助(あすけ)の城の鱸兵庫助(すずきひょうごのすけ)とやら、()()の遠山という国人が裏におる」


「やはりか」


 義元はすでに墨染の衣に着替え、編み笠までかぶっていた。


「法蓮坊め……()()()()()で手一杯のわりには、やりおるわい」


 雪斎は実に愉快そうに笑った。

 雪斎は若い頃、京で法蓮坊、つまり道三と知り合い、そして共に()()をしていた仲であった。


「……あの頃の借りを返す時が来たようじゃの、法蓮坊」


「師と道三入道に何があったか知らぬが……まあ久々に托鉢行の旅行きというのも悪くないのう」


 義元は南無南無とわざとらしく唱えてから、「では」と雪斎を外へと(いざな)った。

 雪斎もわざとらしく数珠(じゅず)を鳴らして外へ出る。


「これにて……氏豊の無念を晴らす最後の仕掛け、見事、成してみせようぞ……師よ」


「それだけではないぞ。尾張を手中に、のう……」


 ……こうして、今川義元と太原雪斎は漂泊の旅僧に身をやつして、美濃へと旅立って行った。

 その旅の()()が、文字通り織田信長と帰蝶を窮地に陥れるのだが、信長と帰蝶はそれを知る(よし)もない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。