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 探す、と言ってもどうしたものか。


「……」


 ヨシダは庭の向こうの森に目を向ける。

 一面緑だ。背の高い木が、地面に日光が届けないほど茂っている。微かな太陽を求め、蔓を伸ばし、背を伸ばした草が足の踏み場もないほどに伸び伸びと育っている。


 手つかずの自然だった。ありのままの、人の手が一切加えられていない、尊い緑だった。


 尊ぶべき緑だが、そこを歩くとなると話は変わる。

 ここは森だが、山でもある。どちらを見ても勾配があるのだ。上るのにも、下るのにも一苦労。どの道を道として歩くべきか、コースを考えるだけでも脳がパンクしそうになる。


 ヨシダも旅人といえど、このような自然には慣れていなかった。現代社会を生きるひとりの成人男性だ。

 つい数年前まではそこら辺の会社でサラリーマンをしていた。登山が趣味、とかそういうわけでもない。自然に対する心得なんて、旅先で出会ったおじいさんが喋る程度のものだ。


 山は、ヨシダにとって敵だった。少なくとも、ワタナベのように友達にはなれなかった。


「どうしましょうか」


 この山を歩き回ると考えただけで体がどっと重くなる。そして、どこにいるかも分からない人を探すとなればさらに体は重くなる。


 連絡手段もない。どこに行ったのかも分からない。迷子になっているのだとしたら、ワタナベ本人でも想像がつかないくらい辺鄙な場所に迷い込んでいるかもしれない。


 完全に八方塞がりだった。

 そしてまたヨシダが頭を抱えたそのとき。


「キュイ!」


 いつものアイツがぴょんと跳ねた。

 その姿を見てヨシダは思う。


(一方くらいは塞がっていないかもしれませんね)


「あなた」


「キュイ!」


 足元で元気に鳴く毛玉に期待をする価値はある。

 呼びかければタヌキはヨシダの方にまんまるの瞳を向けた。


 人の言葉が伝わっているのか分からないが、ヨシダはそのまま話を続ける。


「ワタナベがどこにいるか、分かりますか?」


「キュイ!」


 タヌキは返事を返した。しかし、動かない。歩かない。ヨシダの足元で鎮座したままである。


「分からない?」


「キュイ!」


 一回ならYES、二回ならNO。そんな高度な文明なんて知らないタヌキは、いつもと同じように鳴くだけだった。

 もふもふの尻尾がふわりと揺れる。タヌキはなおも動こうとしない。


 八方塞がりだった。

 道案内のできないタヌキなんて、信楽焼きにでもなってしまえ。地元の酒屋の前で一生突っ立っていろ。


「憎らしい……」


「キュイ!」


 ヨシダがここまでタヌキに期待しているのにも理由があった。

 以前、ワタナベが迷子になったとき彼を見つけ出したのがこのタヌキだったのだ。ついて来い、といった様子でキュイキュイ鳴くのでそういう能力があるものだと思っていた。


 しかしタヌキに頼れないとなれば、ヨシダは自力で八方をこじ開けるしかない。


「……」


 ワタナベがいる場所に心当たりがないわけでもなかった。

 ワタナベとここら一体の植生について話した際、お気に入りの草スポットを教えてもらったのだ。ここの草は美味しい茶葉になる、とか。ここは毒ばっかりだから実験に向いてるいる、とか。

 大半が需要の分からない草スポットだったので聞き流していたが、いくつか記憶に残っている場所がある。


「行きますかね」


 考えていてもしょうがない。これで見つからなければ狼煙でもあげて生還を待つしかない。


「キュイ!」


 ヨシダは覚悟を決めた。幸い太陽はまだ高い位置にいる。日が暮れるまで時間もある。

 電波が通じるか分からないスマホといつものコンパスを握りしめ、ヨシダとタヌキはふたり仲良く森の中へ消えていった。


 ▶▶▶続く▶▶▶

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