8話:運命の出会い(どれい市場編)
町にある奴隷市場は、重く湿った、絶望の臭いにつつまれていた。
俺は、トレーニングの邪魔にならないように短く切った茶髪を揺らし、はち切れそうなシャツから丸太のような腕をだして、堂々と石畳を歩いた。
10歳とは思えないその圧倒的な威圧感に、まわりの奴隷商たちが「なんだ、あの魔獣みたいなガキは……」とひそひそ話している。
「へっへっへ、若旦那。いい奴らがそろってますぜ。力仕事ならあっちのオーガ混じりの大男たちが……」
「いや、男はいらない。俺が探しているのは、最高の『素質』をもった子だ」
俺は、これまで培ってきた知識と、獲物を見定める鋭い眼光で、檻のなかの奴隷たちをじっくりと観察した。もちろん、下心まるだしの視線も忘れない。
(……ほう、あの子の背筋はいい。でも生命力の輝きが足りないな。……あっちの子は顔はいいけど、芯の強さを感じない)
なかなか「これだ!」という出会いがない。
あきらめかけていたその時、一番奥にある、光すら届かない汚くて暗い檻が目に入った。
そこには、ボロボロの布をまとった二人の少女が、重いクサリにつながれて座りこんでいた。
一人は、つややかな黒髪の少女。もう一人は、めずらしい銀髪の少女だ。
二人ともガリガリにやせ細り、泥と汗にまみれて顔色もひどく悪い。
(待てよ……。あの二人どこかで見た顔だな……なんだこれ、とんでもないぞ!)
俺の直感が激しく警鐘を鳴らした。 黒髪の少女――リナからは、周囲の空気を凍てつかせるほどの、荒々しくも巨大な魔力が漏れ出している。
銀髪の少女――エルザからは、どんな過酷な場所でも生き残ろうとする、しなやかで強靭な野生のバネを感じる。 将来、ラスボスの傍らに立つことになるはずの強敵たちの片鱗が、そこにはあった。
「おい、店主。この二人をもらうよ」
「えっ? その二人はもう死にかけですよ? 一人は不吉な冷気を撒き散らすし、もう一人は獣みたいに噛みつく。ただの処分品同然ですが……」
「処分品なもんか。……磨けば光るダイヤモンド、いや、最高級のプロテインみたいなもんだ」
俺は、お父様からもらった金貨の袋をドサリと投げた。 店主は目をまるくして「まいどあり!」と汚い手をこすり合わせた。
檻から出された二人の少女は、俺の岩石のような体を見上げて、小刻みに震えていた。
「……あ、あの、わたしたちを……食べないでください……」
「ひっ……すごい筋肉……。踏みつぶされる……」
怯える二人を見て、俺はニヤリと笑った。
「安心しろ。俺は女の子を食べたりしない。いや、別の意味で食べるかもしれないが、育ってからだ。それより、そのガリガリな体……ひどいもんだな。まずは飯と治療だ」
俺は二人の肩をひょいと抱きかかえた。 片腕に一人ずつ。合計二人を抱えても、鋼のように鍛えた今の俺には羽毛ほどの重さも感じない。 二人は俺の熱くて厚い大胸筋に顔を押しつけられる形になり、真っ赤になって固まっていた。
「さあ、バルカスのお屋敷に帰るぞ。これから君たちは、俺のために一生つくしてもらう。……もちろん、夜の相手もたっぷりな!」
俺が下心全開で笑うと、二人は「やっぱり食べられるんだ……」という絶望の顔をして、そのまま気を失ってしまった。
(よし、最高の原石を手に入れたぞ。これからじっくり、俺好みの最強の仲間に育ててやるんだ!)
俺は、気絶した二人を抱えたまま、鼻歌まじりに市場をあとにした。 これから始まる、バルカス領での騒がしい日々を予感しながら。




