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第67話:事務官不在の筋肉祝宴


それは、魔法軍司令部に舞い込んだ一件の緊急依頼から始まりました。


王都近郊の村に狂暴な魔猪オークボアの群れが現れ、収穫間近の畑を荒らしているという内容です。


「大尉、この依頼の受理をお願いします。……と言いたいところですが、ハンス少尉が不在なのが痛いですね」


副官のリナが書類を抱えて溜息をつきました。


事務官であるハンスは、新型魔導杖の配備会議のため、三日間王都の兵站局に缶詰め状態で隊を離れていたのです。


「ガハハ! ハンスがいなけりゃ俺が判を押すだけだろ! ちょうどいい、部下たちの脚力不足が気になってたところだ。山狩りで追い込みスクワットといこうじゃねぇか!」


ディエスはハンスの厳しいチェックを通さずに受理印を叩きつけると、そのまま中隊を引き連れて出撃してしまいました。


その背後を、無口な少女兵エルザがひたひたとついていきます。


「……猪。……いい、ハムになる」


数時間後。村での討伐は、ディエスの**鉄拳制裁(物理)**とエルザの正確無比な追撃によって瞬く間に完了しました。


しかし、険しい山中での乱戦により、数名の隊員が足首を捻ったり、藪で腕を切るなどの軽傷を負ってしまいます。


「ぬぉぉ……大尉、足が……」


「ガハハ! 案ずるな! 傷ついた組織を修復するには、祈りよりもまず『栄養』と『休息』だ!」


本来であれば、負傷者を連れて即座に帰還報告すべきところですが、ディエスは「筋肉の超回復にはゴールデンタイムがある」と断じ、仕留めた魔猪をその場で捌き始めました。


「村の衆! 焚き火を囲め! 今日は『筋肉祝宴ワークアウト・フェス』だ!」


村人たちは英雄の振る舞いに大喜びし、感謝の印として次々と料理や飲み物を運び込みます。


「ディエス様……ハンスさんがいない間にこんなことして、本当に大丈夫なんですか……? あ、このお水、キリッとしてて美味しい……」


疲労と空腹のリナが、差し出されたコップを一気に煽りました。しかし、それは村人が「お礼に」と持ってきた、この地方特産の透明な猛烈に強い地酒だったのです。


「……リナ、それ、水じゃない。……火の味がする」


エルザがボソリと忠告した時には、リナの顔はすでに真っ赤でした。


「うぷっ……!? な、何これ、胃が焼ける……。あはは、ディエス様の僧帽筋が三つに見えるぅ……」


「リナ、いい食いっぷりだ! 血行を良くして回復を早めるんだぞ!」


結局、祝宴は深夜まで続き、中隊は村で一晩を過ごすことになりました。


翌朝。王都の司令部では「報告なしの無断外泊」となったディエス中隊に対し、副軍団長アレクシスやその腹心ジョエルが、かつてないほどの怒りを募らせていました。


昼過ぎ、ようやく帰還したディエスははち切れんばかりの大胸筋を誇示して意気揚々としていますが、その横ではリナが馬の首に抱きつき、真っ青な顔で揺られています。


エルザだけが、昨日仕留めた猪の肉を大事そうに抱えて淡々としていました。


「……気持ち悪い……世界が回ってる……」


「……リナ、うるさい。……ディエス様、肉、重い。いい負荷トレーニング


「ガハハ! おはようジョエル! 悪いな、部下のバルクアップを優先させてもらったぜ!」


司令部の玄関で待ち構えていたジョエルの顔は、あまりの不敬と規律違反に、大地魔法の共鳴で周囲の空気がピリピリと震えるほどの怒りに満ちていました。


「……バルカス大尉。貴公のその弛んだ規律、看過できんな。貴公には、軍人としての『基本』を再教育する必要があるようだ」


この「事務官不在の暴走」が、最強の教育係ジョエルとの激突、そしてアレクシスの政治的陰謀へと繋がっていくことになります。

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