65話:歪んだシナリオ、虚弱勇者の筋力革命
四天王の一角、アルゴスを討ち取ったことで手に入れた「大尉」の階級。
しかし、ディエスはその喜びも束の間、内臓を焼くような違和感に襲われていました。
「(おかしい……。ゲームの知識じゃ、アルゴス戦は勇者アリオスが『光の剣』に目覚めるための重要なイベントだったはずだ。なぜあいつが現れなかった?)」
中隊の事務をハンスに丸投げし、ディエスは重戦車のような肩幅を揺らしながら、勇者たちの動向を探るべく各地のギルドから届く報告書を精査しました。
「……ハンス、これを見ろ。アリオスたちの修行の足跡だ」
ディエスが差し出した報告書を読み、ハンスは眼鏡を指で押し上げながら、困惑を通り越して感心したような声を漏らしました。
「少尉……これはひどい。記録によるとアリオスくんは元々、魔法適性はかなり高いようですが、身体能力は人並み以下……いわば『もやし』のような少年だったはずですが」
報告書には、卒業式に「世界を巡る武者修行の旅」へ出たアリオスたちの、あまりに異常な「適性の無駄遣い」が記されていました。
目撃談1(国境付近): 「勇者が巨岩を背負って走っていたが、地力が低すぎて一歩も進めず、顔面を真っ青にしていた。
しかし、彼はその圧倒的な魔力をすべて『肉体強化魔法』に注ぎ込み、強引に筋肉を膨張させて無理やり岩を運んでいた」
目撃談2(聖地): 「聖女クレア様が、聖水をプロテインシェイカーで振り回しながら『アリオスくん、魔法のブーストが足りませんわ! 僧帽筋をもっと光らせて!』と叫び、治癒魔法で筋肉の崩壊と再生を秒単位で繰り返させていた」
目撃談3(北方の洞窟): 「伝説の聖剣を抜くための試練。アリオスは聖剣の『魔法的な試練』を無視し、魔力を全て握力に変換して無理やり抜こうとした結果、聖剣が抜ける前に山が鳴動した」
「ガハハ! 魔法を全部『筋肉の代わり』に使うとは、いい発想じゃねぇか!」
ディエスが岩石を削り出したような拳を握って喜ぶ横で、リナが絶望的な声を上げました。
「喜んでる場合ですか! 卒業式の時に私が言った懸念が、最悪の形で現実になってるじゃないですか! 魔法の才能を全部『重いものを持ち上げるためだけの補助』に使ってるんですよ!? 本来の戦い方、完全に捨ててますよ!」
「……勇者、いい執念。……でも、魔法で……作った筋肉は、ディエス様の……天然の岩石のような広背筋には及ばない。……もっと、魔力を……練り込むべき」
エルザまでがストイックに魔法筋肉を評価する中、ディエスは冷や汗を拭いました。
「(……俺が教えすぎたせいか。これじゃアリオスが『光の剣』の真の力に目覚める前に、魔法という名のブースターで全身をガチガチに固めた『魔力ゴリラ』になっちまうぞ)」
圧倒的な魔法の才能を、ただ「物理的に殴る」ためだけに消費する勇者。
ディエスは、自分の知るゲームのシナリオが、筋肉という名の魔力変換によって塵も残らず粉砕されていることを確信するのでした。




