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第62話:筋肉、沈黙を殴り飛ばす(修正版)


「沈黙結界」の闇の中、アンデッドの爪がリナの肩を浅く切り裂きました。


「ああっ……!」


「リナ! ……クソッ、魔力が練れないと防壁も張れないなんて!」


魔力を奪われ、膝をつくリナ。


彼女を庇うハンスの目の前には、再生を繰り返す死者の群れが壁となって立ちはだかっています。


四天王サイレント・アルゴスは、安全な後方から冷酷な嘲笑を浮かべていました。


「無駄だ。浄化の光を持たぬ貴様らは、ここで干からび、私の新たな人形となるがいい」


その言葉を遮るように、ドォォォン! と空気が爆ぜるような音が響きました。


「……ハンス、リナを連れて下がれ。エルザ、お前は二人を守れ。……これは命令だ」


ディエスが、重戦車のような肩幅をさらに一段階膨らませて前に出ました。


その背中には、数えきれないほどのアンデッドに噛みつかれ、引き裂かれた傷から鮮血が流れています。


しかし、その血に濡れた鋼鉄の甲冑のごとき広背筋は、微塵も揺らいでいませんでした。


「少尉!? その傷で、一人で突っ込むつもりですか!」


ハンスが叫ぶ中、エルザは剣を握る手に血が滲むほど力を込め、ディエスの背中を見つめていました。


「……嫌。……ディエス様、一人、置いていけない」


普段は感情を表に出さないエルザの細い声が、激しく震えていました。


彼女にとってディエスは主であり、唯一無二の光。


その背中に刻まれる無数の裂傷、剥き出しになった丸太のような太い筋肉に食らいつく死者たちの姿を見て、彼女の胸の奥で何かが張り裂けそうになっていました。


「命令だと言ったはずだ、エルザ! リナを、ハンスを守れるのはお前しかいねぇんだよ!」


「……でも! ……ディエス様が、死んだら……私は……っ!」


エルザの一歩踏み出そうとした足を、ハンスの手が制しました。


「エルザ殿……! 今の我々は、少尉にとって守らねばならない『重荷』でしかない! ここは……信じるしかないんです!」


「…………っ!」


エルザは奥歯を噛み締め、唇を血が出るほど噛み切りました。行きたい。


主の盾になり、あの岩石を削り出したような肉体をこれ以上傷つかせたくない。


けれど、彼女がここで命に背けば、主が命を懸けて守ろうとしている「仲間」が死ぬ。


「……了解。……ディエス様。……死んだら、許さない」


絞り出すような拒絶と信頼が混ざった言葉を残し、エルザはリナを抱え、ハンスと共に後方の岩陰へと退避しました。


その瞳には、かつてないほどの激しい情念が宿っていました。


一人、数千の死者に囲まれたディエス。


「ガハハ! これで心置きなく暴れられるぜ!」


アンデッドたちが一斉にディエスに群がります。


腕を噛まれ、脚を掴まれ、全身を死肉の山に埋め尽くされていくディエス。


しかし、彼は自分に食らいついているアンデッドを引き剥がすことすら惜しみ、そのままアルゴスに向かって一直線に突進を始めました。


「なっ……!? 貴様、なぜ動ける! 骨が砕け、血を流しているはずだぞ!」


アルゴスが初めて狼狽の色を見せました。


ディエスは、鉄板のような腹筋を突き立てる槍のように固め、障害となる死体を文字通り「肉の壁」として突き破っていきます。


「ガハハ! 痛ぇのは生きてる証拠だ! 筋肉が悲鳴を上げれば上げるほど、俺の『出力』は上がるんだよぉッ!」


全身から血を噴き出し、ボロボロになりながらも、ディエスの瞳はまっすぐにアルゴスの喉元を捉えていました。


「最短距離だ……見えたぞ、髑髏野郎ォッ!!」


ディエスは、岩石のような右拳を深々と引き絞りました。

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