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58話:筋肉、街をゆく


王都の平和を守るのも軍の務め。

王国魔法軍には持ち回りで街の警備を行う業務がある。


今日はディエス率いる『特別独立遊撃小隊』に、街の巡回任務が回ってきました。


「ガハハ! ハンス、見てろよ。俺のこの岩石を削り出したような巨大な二頭筋が街を歩けば、悪党どもは震え上がって逃げ出すに違いねぇ!」


ディエスは、特注の軍服が今にも弾け飛びそうな分厚い胸板をこれ見よがしに突き出し、堂々と大通りを闊歩します。その横で、ハンス准尉は深い溜息をつきながら書類に目を落としていました。


「……バルカス少尉。巡回の目的は威圧ではなく、市民の安心です。貴方のその重戦車のような肩幅で歩かれると、通行人が怯えて道が不自然に開くので、かえって治安が乱れて見えるのですが」


「……ディエス様。……今日も、筋肉、キレてる。……街の人、みんな、見てる」


銀髪の従者エルザが満足げに呟き、漆黒の髪を揺らす才女リナは「もう、目立ちすぎよ……」と顔を覆っています。


そんな一行の前に、タイミング良く(?)トラブルが舞い込みました。


路地裏から、数人の魔法使いのならず者が、怯える商人を取り囲んで出てきたのです。


「ヒヒッ、この辺で商売したけりゃ、ショバ代を払ってもらおうか。魔法軍の巡回なんて、どうせ鼻垂れの新兵だ……って、なんだぁ!? このデカブツは!」


ならず者たちが見上げた先には、日光を遮るほどの鋼鉄の甲冑のごとき大胸筋。


ディエスは、彼らが杖を構えるよりも早く、丸太のような太い腕を組みました。


「ガハハ! 面白い魔法だな。だが、俺の筋肉は不当な搾取には敏感なんだ。おいハンス、こいつらどう料理する?」


「……本来なら魔法封じの錠前を使うところですが。彼らは火炎魔法の予備動作に入っています。少尉、北側のレンガ壁を『軽く』叩いてください」

ハンスが眼鏡を光らせ、周囲の構造を一瞬で把握して指示を出しました。


「おう! 軽く、だな!」


ディエスが岩石のような拳を軽く(彼基準で)壁に叩きつけると、凄まじい振動と共に、ならず者たちの足元の石畳が絶妙な角度で跳ね上がりました。


「ぎゃあああっ!?」


重心を崩したならず者たちは、自分たちが放とうとした魔法の暴発に巻き込まれ、自爆。ディエスが指一本触れることなく、一瞬で無力化されました。


「……よし。騒音被害は最小限。石畳の修繕費は犯人の没収品から差し引けば、報告書の辻褄は合いますね」


ハンスが淡々とペンを走らせる横で、ディエスははち切れんばかりの力こぶを作り、集まってきた野次馬たちにサービスポーズを決めていました。


「ガハハ! 見たか野郎ども! これが平和を守る『物理』の力だ!」


「……少尉。早く次へ行きますよ。筋肉を見せびらかしに来たわけではないんですから」


最狂の筋肉と、最凶の戦術家。二人の「治安維持」は、市民の安心よりも驚愕を誘いながら続いていくのでした。

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