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第57話:慈善の仮面、暗殺の揺り籠


王都の喧騒から離れた緑豊かな丘陵地に、その施設はありました。


「アレクシス様! また来てくれたの!?」


「ああ。みんな、元気にしていたかな。この本はみんなで読みなさい」


副軍団長アレクシスが慈愛に満ちた微笑みを浮かべると、孤児院の子供たちが一斉に駆け寄ります。


彼は軍の重席を担う傍ら、私財を投じて身寄りのない子供たちを支援する「慈悲深き天才」として、王国内で絶大な支持を得ていました。


「あらァ、アレクシスちゃん。今日も今日とて『聖者様』の営業活動? 本当にマメなこと」


傍らに立つ**「変幻の麗人」ミスティ**が、面白がるようにアレクシスの肩へ手を伸ばしました。


しかし、指先が触れるか触れないかという刹那、アレクシスは音もなく一歩、後退しました。


「……ミスティ。馴れ馴れしくしないでくれと言ったはずだ。軍服が汚れる」


「嫌だわァ、つれないのね。ちょっと触るくらいいいじゃないの。私、汚くないわよ?」


ミスティはわざとらしく唇を尖らせて笑いますが、その細められた瞳の奥は、獲物を狙う蛇のように冷徹でした。

「(……相変わらずね。ただの潔癖症にしては、他人を近づけなさすぎる。何か、触れられたくない『急所』でもあるのかしら?)」


ミスティはオネエ言葉で煙に巻きながら、アレクシスが裏切る可能性を常に計算し、その弱点を探り続けていました。


子供たちが去った後、アレクシスは一人、孤児院の地下へと続く秘密の扉を開きました。


そこには、窓一つない石造りの訓練場が広がっています。


そこでは、まだ十歳にも満たない少年少女たちが、一切の感情を排した瞳で、喉元を狙う暗殺術の修練に明け暮れていました。


「……この世に信じられる者などいない。ならば、私が一から創り上げるまでだ」


アレクシスは、壁に掛けられた王国魔法軍のエンブレムを冷ややかに見つめました。


現軍団長であるルイスを葬り、自らが頂点に立つことで軍の構造を根底から作り替える。


そのために、自分を「神」と刷り込み、絶対の忠誠を誓う狂信的な私兵を育てている。


一方、扉の外で壁に背を預けたミスティは、地下から漏れ聞こえる無機質な訓練の音を聞きながら、艶然と微笑みました。


「(軍団長を葬る計画、ねぇ……。いいわよ、やってごらんなさいな。面白そうだもの。……でもその前に、あなたのその頑丈そうな仮面の『綻び』、しっかり見極めさせてもらうわよ?)」


表の聖者と、裏の怪物。


真のラスボスは、誰も信じぬ孤独な闇の中で、王国を飲み込む計画を着々と進めていました。

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