6話:はじめての狩り
「ディエス、本当にいいんだな? 剣も槍も持たずに山へ入るなんて……」
親父が、心配そうに俺を見上げている。
やっぱり教育熱心なのも子供を愛してのことだったんだろう。
俺は前世での親の姿に重ねていて物思いにふけっていたが、今日はいよいよ「はじめての狩猟」の日だ。
12歳になった俺は、親父の心配をよそに、武器をいっさい持たずに裏山へ向かおうとしていた。
「大丈夫ですよ、お父様。俺の筋肉が、一番の武器ですから」
今の俺は、身長180センチをこえ、体重は100キロ近い。
茶髪を短く切り、はち切れそうなシャツのすき間からは、岩石のような大胸筋がのぞいている。
親父は「ああ、息子が野生にかえっていく……」と頭をかかえていた。
山に入ると、すぐにガサガサと草むらがゆれた。
あらわれたのは、このあたりで一番おそろしいと言われる魔獣「アイアン・ボア(鉄のイノシシ)」だ。
普通の騎士なら、数人がかりで槍を使って仕留める相手だが……。
「……フシューッ!!」
巨大なイノシシが、ぼくをめがけて突進してくる。
時速60キロは出ているだろうか。まさに生きる鉄砲玉だ。
「よし、こい。筋肉の味を教えてやる」
俺は逃げなかった。
それどころか、両足をふんばり、胸を大きくはだけて突進を真正面から受け止めた。
ゴッ!!!
すさまじい音が響く。
普通なら骨がバラバラになる衝撃。でも、ぼくの腹筋はビクともしなかった。
それどころか、イノシシの方が「壁にぶつかった」みたいな顔をして目をまわしている。
(……ほう、いい突進だ。腹斜筋にいい刺激が入ったぞ。やはりこの体の物理ステータスの高さは異常だ。作中で最高値なだけある。)
俺は、ふらふらしているイノシシの首根っこをつかみ上げた。
そして、そのまま渾身の力で地面に叩きつける。
「これでおしまいだ! バーバリアン・プレス!」
ドゴォォォォン!!
地響きがなり、イノシシは一撃で白目をむいて動かなくなった。
「ふぅ……。いい運動になったな」
俺は仕留めた獲物をひょいと肩にかついだ。
300キロはある大物だが、今のぼくには羽毛のように軽い。
山を下りると、ちょうど巡回していたメイドさんたちとバッタリ会った。
「きゃあああああ!! 筋肉のバケモノが、イノシシをかついで降りてきたわ!」
「ディエス様……!? 手ぶらで魔獣を倒したの……? こわい、野蛮すぎるわ!」
メイドさんたちは悲鳴をあげて逃げていく。
相変わらず、ひどい言われようだ。ぼくはただ、晩ご飯のおかずを調達してきただけなのに。
ニヤニヤしながら彼女たちの後ろ姿(とお尻)を見送っていると、さらにおびえさせてしまった。
屋敷に戻ると、獲物を見たお父様は腰を抜かしていた。
対照的に、兄のカイン様は拍手をしてくれた。
「すごいよディエス! まさか素手でアイアン・ボアを倒すなんて。魔法使いのぼくから見ても、信じられないパワーだね」
金髪で王子様のような兄様は、泥と返り血を浴びたぼくを、まぶしい笑顔でほめてくれた。
兄様、この筋肉があれば、もう誰にも「かませ犬」なんて呼ばせないよ。
こうして、俺の「はじめての狩り」は、筋肉の圧倒的な勝利で幕を閉じた。
だが、俺の野望はこんなところでは終わらない。
もっと強く、もっとデカくなり、最高の生活をつかみとってやるんだ。




