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第54話:理不尽の活用術


「……ディエス少尉、止まりなさい。そこから先は私の領域です」


闇ギルドが潜伏する古城の前で、ハンス准尉が静かに手を挙げました。


この城は数百年ほど前、かつての王朝が反乱軍を封じ込めるために築いた鉄壁の要塞です。


歴史的な経緯から、城全体が巨大な魔導増幅炉として設計されており、内部で放たれるあらゆる魔法は数倍の威力へと跳ね上がります。


その特性ゆえ、魔法を主力とする闇ギルドにとっては、まさに「難攻不落の魔窟」と化していました。


「つまり、構成員に気づかれずに落とさないとやっかいなことになると言うことです」


ディエスは、今にも特注の軍服がはち切れそうなほど膨らんだ広背筋を躍動させ、岩石のような巨大な拳で正門を粉砕せんばかりの勢いでしたが、ハンスの鋭い声に足を止めました。


「ガハハ! ハンス、隠密なんて面倒な真似はやめて、正面からこの丸太のような太い腕で叩き潰してやろうぜ!」


「脳まで筋肉で構成されているのですか? 敵はこの城の歴史的な遺産――高精度の感知結界を全方位に張り巡らせています。……リナ殿、例のものを」


ハンスの指示を受け、漆黒の髪を揺らす才女リナが、ハンスが考案した特殊な魔道具を展開しました。


「はい。魔力波を相殺する干渉陣、展開完了です。……でも、これだけじゃ城内までは……」


「十分です。……いいですか、ディエス少尉。貴方のその重戦車のような分厚い背中と、鋼鉄の甲冑のごとき大胸筋。それを『盾』ではなく『構造破壊の楔』として使います。私が今から指定する一点に、全筋力を注ぎ込みなさい」


ハンスは古文書から紐解いた城の設計図を脳内で再構築しました。


これまでの配属先では、魔力のない彼の「戦術」など、エリート魔導士たちに「無能の空論」と切り捨てられてきました。しかし、目の前の男は違います。 


「北西、三階のテラスを支える基部。そこがこの城の魔力回路と構造上の強度の結節点です。この城は効率を求めるあまり、全ての魔力ラインが一点に集中する致命的な弱点がある。そこを砕けば、城の防衛結界は自壊し、内部の敵は全員、増幅された自身の魔力の逆流で無力化されます。……貴方は一歩も動かず、そこを撃ち抜くだけでいい」


「……ほう。一発で全部片付くってことか。文句はあるが、お前のその『戦術』ってやつに乗ってやるよ、ハンス!」


ディエスは岩石を積み上げたような屈強な体躯を深く沈み込ませました。


丸太のような二頭筋が怒張し、軍服の袖が悲鳴を上げます。


「——ふんぬぅぅぅっ!!」


放たれたのは、正拳。


しかしそれは、もはや物理現象を超えた衝撃波でした。


ハンスの提示した戦術通り、衝撃は古城の「急所」を完璧に捉え、連鎖的に防衛機構が瓦解していきます。


派手な攻撃魔法は一切ありません。


ただ、巨大な城が音を立てて跪くように崩れ落ち、闇ギルドの面々は戦う前に、要塞の仕掛けによって増幅された自分たちの魔力に飲み込まれていきました。


「……ハンス、言った通りになったな。魔法を使わずに、根こそぎだ」


ディエスが分厚い手のひらで埃を払う横で、ハンスは自分の戦術が完璧に具現化された光景を、震える手で眼鏡を直しながら見つめていました。

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