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50.5話 闇より現れる影


廃村の奥から漂い出したのは、寒気すら感じる異質な気配だった。


霧の中から姿を現したのは、不定形の泥に無数の口がついたような、おぞましい魔物の群れだ。


「あれは……『マナ・イーター(魔力喰らい)』!? なぜこんな場所に!」


リナが驚きに声を上げる。マナ・イーター。その名の通り魔法を主食とし、あらゆる術式を無効化する。


詠唱にすべてを懸ける魔法使いにとって、これほど絶望的な天敵はいない。


「総員、杖を構えろ! 一斉射撃だ、魔力の波で押し潰せ!」


ロジャー大尉の焦りを含んだ号令で、魔法使いたちが震える手で一斉に杖を掲げた。


空を埋め尽くす極大の火炎や雷撃。……しかし、次の瞬間、部隊を絶望が包み込んだ。


「な……魔法が、吸い込まれていく……!?」


放たれた魔法は着弾する直前、霧が晴れるように霧散した。


マナ・イーターたちはそれらを吸い込み、逆にみるみると巨大化していく。


炎は消え、雷は無力化され、魔法使いの新兵たちは杖を握る力さえ失いパニックに陥った。


「ダメだ、魔法が効かん! 奴ら、俺たちの魔力を餌にしてやがる!」


「総員退却だ! 王都へ戻り、物理特化の傭兵団を呼ぶぞ!」


退却の叫びが響くなか、俺は一人、杖も剣も持たずに前へと歩み出した。


「おい、バルカス! 杖を捨てて逃げろと言っているのが聞こえないのか!」


「ガハハ! ロジャー大尉、せっかくのメインディッシュを前に、俺の筋肉が納得しねぇですよ!」


俺ははち切れそうな制服のボタンを一気に引きちぎり、隆起した大胸筋をさらけ出した。


「ディエス様! また服を! でも……確かに、あいつらには今の私たちの『理屈』は通じませんね!」


リナが覚悟を決めたように魔導書を閉じ、支援に回る。


隣ではエルザが、魔力の一切を絶った「純粋な鉄」の剣を構えていた。


魔法が使えない場所では、彼女のような剣士こそが唯一の希望だ。


「……ディエス様。……お掃除、手伝う。……魔力なんて、いらない」


「よし、行くぞエルザ! 魔法を食うのが趣味なら、俺の拳も食わせてやる!」


俺は地面を爆破するように蹴り出し、群れのど真ん中へ突っ込んだ。巨大化した一匹が俺を飲み込もうと、数多の口を広げる。


俺はその顎を、丸太のような太い腕でガシッと掴んだ。


「ふんぬぅぅぅっ!!」


メリメリッ! という凄まじい音と共に、魔物の巨体を力任せに左右へ引き裂く。


魔法障壁など関係ない。ただの「圧倒的な質量と物理的な力」による暴力だ。


「ガハハ! 魔法がご馳走なら、俺の拳は特盛の鉄塊だぜ!」


俺はそのまま、隣の個体を岩のような拳で殴り飛ばした。**『肉体奥義・剛力爆裂破』**の衝撃波が、魔力の芯ごと奴らを粉々に粉砕していく。


「な……なんだ、あの男は……。魔法使いの身でありながら、杖も使わずにあの化け物どもを紙屑みたいに……」


呆然と立ち尽くすロジャー大尉たちの前で、俺は最後の一匹をラリアットで根こそぎ薙ぎ払った。


「ふぅ……。いい有酸素運動だったな。エルザ、そっちも片付いたか?」


「……はい。……細切れ……完了」


足元には、もはや再生することも叶わない魔物の残骸が散らばっていた。


リナが呆れたように、しかし誇らしげに手帳へ書き込む。


「『ディエス:魔力耐性を物理で貫通』……と。これで任務完了ですね、ディエス様」


「ガハハ! 帰ったら特大のステーキでタンパク質補給だ!」


夕日に照らされた俺の広背筋は、どんな高位魔法よりも頼もしく、そして眩しく輝いていた。

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