第50話:退却命令と、筋肉の強行軍
学園を卒業し、俺たちは王国の実戦部隊へと入隊した。
俺たち第三部隊に下された初めての任務は、王都近郊の廃村に居座るゴブリン共の掃討だ。
「総員、散開! 魔法による先制攻撃で一気に殲滅するぞ!」
ロジャー大尉の号令が響く。新兵の魔法兵士たちが一斉に杖を掲げ、初陣の緊張に顔を強張らせながら詠唱を始めた。
「ディエス様、来ますよ。ゴブリンとはいえ、数は五十を超えています」
黒髪を揺らし、魔導書を手に戦況を分析するリナ。その隣では、エルザが静かに、しかし鋭い殺気を放ちながら剣を抜いている。
「ガハハ! ちょうどいい。座学続きで固まった筋肉をほぐすには絶好の機会だ!」
俺ははち切れそうな軍服の袖を捲り上げ、丸太のような腕を剥き出しにした。
「ギャギャッ!」
廃屋の影から、棍棒を手にしたゴブリンたちが次々と飛び出してくる。
魔法兵士たちが放つ火球や雷撃が炸裂し、数体のゴブリンが炭塵と化すが、すばしっこい連中は瓦礫を盾にして距離を詰めてくる。
「くっ、詠唱が間に合わん! 接近されるぞ!」
戦い慣れしていない新兵たちが狼狽し始めたその時、俺は地面を爆発させるような勢いで踏み出した。
「お前ら、杖を振る暇があるならスクワットでもしてろ! 『肉体奥義・大地破砕』!」
俺が岩石のような拳を地面に叩きつけると、衝撃波が地を走り、瓦礫ごとゴブリンたちを宙へ跳ね上げた。
空中で無防備になった緑の肌の魔物たちに、俺は容赦ない連撃を叩き込む。
魔法なんていらない。ただの拳だけで、ゴブリンの骨は粉々に砕け散る。
「……私も、行きます。『瞬光・旋風刃』!」
エルザが銀髪をなびかせ、俺の死角から回り込むゴブリンを神速の剣劇で次々と切り捨てていく。彼女の剣筋はもはや魔法の域に達していた。
「あ、あの新兵……魔法も使わずに、素手でゴブリンをハエ叩きみたいに……」
バルトス副隊長が呆然と見守るなか、数分もしないうちに廃村を埋め尽くしていたゴブリンの鳴き声は絶えた。
「ふぅ……。いい準備運動だったな。リナ、これで任務完了か?」
「ええ、想定より十分以上早いです。……ですがディエス様、周囲の空気が少しおかしいです。魔力が……どこかへ吸い取られているような?」
リナが眼鏡の奥の目を鋭く光らせた。
廃村のさらに奥、霧が立ち込める森の境界から、ゴブリンとは比較にならない不気味な気配が近づいていた。




