第5話:12年歳のムキムキお坊ちゃん
修行を始めてから2年がたった。俺は12歳になった。
たった2年。でも、俺の体は「とんでもないこと」になっていた。
鏡の前に立つと、そこにはかつてのひょろひょろだったお坊ちゃんの面影はない。
身長は大人を追い越しそうなほど伸び、肩幅は以前の3倍はある。
服の上からでもわかる、はち切れんばかりの大胸筋。丸太のように太い腕。
「……よし、仕上がってきたな」
ぼくは自分の上腕二頭筋を見てニヤリと笑った。
12歳にして、見た目は完全に「デカすぎる大人」だ。
だが、この体を作るのは楽じゃなかった。特に大変だったのが「メシ」だ。
(この世界には、筋肉をデカくするためのプロテインがないんだよな……)
そこでぼくは、前世の知識をフル回転させた。
目をつけたのは、お屋敷で馬や牛のえさに使われている「豆」だ。
これをすり潰して、栄養のある薬草を混ぜ、さらに魔獣の骨を粉末にしてぶち込む。
ぼく特製の**「自作プロテイン(超まずい)」**の完成だ。
「……うぷっ。……相変わらず、ドロを飲んでるみたいな味だな」
鼻をつまみながら、真っ黒なドロドロの液体を飲み干す。
見た目も匂いも最悪だが、筋肉への効き目はバツグンだった。
ただ、これを飲んでいる姿をメイドさんたちに見られると、さらに引かれる。
「……ねえ、見た? ディエス様、また馬のえさを煮込んだ怪しいドロを飲んでるわ」
「お体もあんなにゴツくなって……。あんなの、12歳の子供じゃないわ。野生のワイルドベアーよ」
メイドさんたちは、もはや「エロい目で見てくる不審者」としてだけでなく、「得体の知れないバケモノ」を見る目でぼくを避けるようになっていた。
悲しい。ぼくはただ、筋肉を鍛えて、君たちのような美女を守りたいだけなのに。
「ディ、ディエス……。お前、本当に私の息子か?」
親父は、俺の顔を見上げるたびに震えている。
最近では、俺がねぎらってあげようと軽く肩を揉もうとするだけで「骨が折れる!」と叫んで逃げ出す始末だ。
そんな中、相変わらず優しいのは兄のカイン様だけだった。
「すごいね、ディエス。その筋肉、もはや芸術の域だよ。味は最悪みたいだけど、その努力は尊敬するよ」
金髪で相変わらずシュッとしている兄様は、俺の自作プロテインの匂いに顔をしかめながらも、温かい言葉をくれた。
兄様、このドロドロを飲めるのは、未来のハーレムと最強のスローライフを夢見ているからなんだ。
「さて……体は十分にできあがった。そろそろ、この筋肉が実戦でどこまで通用するか試してみたい時期だな」
俺は、はち切れそうなシャツの袖をまくりあげた。
12歳の筋肉ダルマ。
そろそろ、お屋敷の中だけでは物足りなくなってきた。




