第44話:銀髪の従者と、深夜の誓い
卒業式を間近に控えた、ある日の深夜。
俺は激しいトレーニングで使い切ったエネルギーを補給するため、学園の厨房へと足を運んだ。
すると、月明かりが差し込む静まり返った室内で、一人、剣を振る銀髪の影があった。
「……九百九十八、九百九十九……一千!」
エルザだ。彼女は普段、野営時には食卓を預かる料理担当として、俺の身体づくりを献身的に支えてくれている。だが、今の彼女は包丁ではなく鋭い剣を握り、滝のような汗を流していた。
「エルザ、こんな夜中にどうした。筋肉が悲鳴を上げてるぞ、休ませてやれ」
俺が丸太のような太い腕を組みながら声をかけると、エルザはびくっとして動きを止めた。銀色の髪が、汗で白い肌に張り付いている。
「……ディエス様。……私、もっと、強くならないと」
「十分強いだろう。お前の剣は、そこらの騎士候補生よりもずっと鋭い」
「……リナは、すごい。……ディエス様の隣で、計画を立てて、悪い奴らを追い詰めて。……私は、ご飯を作るだけ」
エルザは俯き、剣の柄をぎゅっと握りしめた。
どうやら、将来のために領地の仕事を覚えたり、交渉でテキパキと立ち回るリナに対し、焦りを感じていたらしい。
俺に置いていかれるのが怖くて、必死に自分を追い込んでいたのだろう。
「ガハハ! 何を言ってるんだ、お前は」
俺はエルザに近づき、岩石のような大きな手で、彼女の小さな頭を優しく、しかし力強くわしわしと撫でた。
「リナは俺の『知恵』だが、お前は俺の『命』を預かる盾であり、胃袋を掴む女神だ。お前の作る高タンパクな飯がなきゃ、俺のこの筋肉は一日で萎んじまうんだぜ?」
「……胃袋の、女神……?」
「ああ。無理な修行で、そのしなやかな筋肉を壊すな。お前はお前らしく、俺の隣にいればいい」
俺は、不安そうに見上げるエルザの肩を引き寄せ、はち切れそうな胸板に彼女の顔をうずめさせた。
「安心しろ。お前は俺のものだ。どこへも行かせやしないし、置いていくはずもない」
「……っ……ディエス様の、胸……熱い。……私、ディエス様のもの。……ずっと、そばにいる」
エルザは顔を真っ赤にしながら、俺の分厚い筋肉にその身を預けてきた。銀髪から漂うかすかな汗の匂いが、俺の野性をくすぐる。
「……ディエス様……。お礼に、夜食……作る。……魔獣肉の、特製レアステーキ」
「ガハハ! 気が利くな! それを食べて、明日も一緒に筋肉を追い込もうぜ!」
二人の絆が深まった、静かな夜……のはずだった。
「……ちょっと、そこでイチャついてる二人! 深夜の厨房で何を密会してるんですか!」
廊下の角から、腕を組んだ黒髪のリナが仁王立ちで現れた。
「ディエス様! エルザさんを口説く前に、将来の領地運営の書類に目を通してくださいって言ったでしょ! エルザさんも、夜食なんて出したらディエス様がさらに巨大化して、卒業式に着る制服が爆発しちゃいます!」
「ガハハ! リナ、嫉妬か? お前もこっちに来て、俺の広背筋に挟まるか?」
「挟まりません! 早く部屋に戻ってください!」
リナの鋭いツッコミが響き渡り、俺たちの賑やかな夜は更けていくのであった。




