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第42話:父の言葉と、重なる背中

王都での騒動も一段落し、学園が長期休暇に入ったある日のことだ。


俺はふと、実家であるバルカス領へ帰ることを決めた。理由は単純だ。


リナとエルザに、バルカス領でしか獲れない希少な魔獣の「極上赤身肉」を腹一杯食わせてやりたかったのと、俺自身のパンプアップに欠かせない、あの屋敷の広大な修練場が恋しくなったからだ。


久しぶりに再会した父、バルカス辺境伯は、記憶よりも少しだけ小さくなったように見えた。


彼は、俺が王都で公爵家のボリスを「物理」で粉砕した噂を聞き、屋敷の玄関で待ち構えていた。


「ディエス……。お前、本当にその岩石のような拳で、公爵家の権威まで握りつぶしたというのか」

親父は、俺のはち切れそうなシャツから覗く丸太のような太い腕を、呆れたように、しかしどこか眩しそうに見つめた。


「ああ。魔法なんてなくても、この筋肉があれば大抵のことは解決するって証明してやったぜ、親父」

俺が分厚い胸板をドンと叩くと、親父はふっと寂しげに笑い、俺の顔を見上げた。


「……実はな、ディエス。お前が私を見上げるほどの巨体になったとき、正直に言えば……少し怖かったのだ。自分の教えを無視して、理解できないほどの力を持ってしまったお前が、どこか遠くへ行ってしまうような気がしてな」


親父のその言葉は、本音だった。


家門の誇りのために魔法を押し付けていた親父が、自分の息子が「筋肉の怪物」へと成長していく姿を見て抱いた、戸惑いと恐怖。


「私は家門を大切に思うあまり、お前自身の『力』を見ようとしていなかった。大切なことを忘れていたようだ。すまなかったな、ディエス」


その言葉を聞いた瞬間、俺の胸の中に不思議な感情が湧き上がった。


転生前の俺は、ずっと独身で過ごしていた。


親の期待や、親が何を考えて俺を育てたのか……そんなことを深く考えたこともなかった。

(……そうか。親父って、こんな気持ちだったのかな)

不器用で、間違いも犯すが、根底には子供の将来を案じる心がある。かつての世界にいた両親の背中が、目の前の親父と重なった。


「……気にするなよ、親父。怖がらせたなら悪かったが、おかげで俺は、魔法に頼らない『最強の筋肉』を完成させることができたんだからな」


俺がそう言って親父の肩を分厚い手のひらでガシガシと叩くと、親父は「ぐふっ」と少しよろけながらも、嬉しそうに頷いた。


そんな感動的なシーンを、後ろで黒髪のリナが、どこか温かい眼差しで見ていた。


「……ディエス様が、珍しくしんみりした良いことを言っている。でもディエス様! 感動のシーンでお父様の肩の骨を砕く勢いで叩くのはやめてください! 恐怖心が再燃しちゃいますよ!」


「ガハハ! これも親孝行マッサージだ!」

「……ディエス様……優しい。……でも、やっぱり……力が、強すぎる」


銀髪のエルザが、俺の力強い手のひらで親父の服から土埃が舞っているのを見て、静かにツッコミを入れた。


俺は二人の小言を聞き流しながら、心に誓った。


魔法至上主義のこの世界で、この筋肉と、俺を支えてくれるこいつらと一緒に、誰にも文句を言わせない「筋肉の聖域」を築いてやるんだと。

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