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第37話:実録・深夜の掃除(※人間バーベル)


「おいリナ、この『影』とかいう連中、意外と密度が高くていい重さじゃねぇか!」


深夜のトレーニングルーム。ディエスは、リナの魔法によって一直線に連結・固定された刺客たちを、事も無げに頭上で差し上げていた。


「……離せ! 殺せ! 我ら『影』をこのような屈辱に……うぷっ」 「動くんじゃねぇ! フォームが乱れるだろうが!」


ディエスがスクワットを敢行するたび、刺客たちの三半規管は悲鳴を上げる。


彼らは今、ボリスの命を受けた暗殺者ではなく、**「人間バーベル」**という名のトレーニング器具に成り下がっていた。


「ディエス様……。深夜に刺客の叫び声が響くと近所迷惑です。静かにトレーニングしてください」


リナが冷徹に魔導書のページをめくる。


彼女の魔法は、もはや単なる攻撃用ではない。主人の「効率的なトレーニング」のために、高度かつ嫌がらせに近い進化を遂げていた。


「……ディエス様の、広背筋……今日も、猛々しい。……左側の刺客、少し……重心が、ズレてる。……斬って、調整する?」


エルザが静かに抜刀し、刺客のつま先に切っ先を向ける。


「ひいいい!? ズレてない! ズレてないです! まっすぐ! 僕は今、完璧な鉄棒になってますから!!」


刺客の一人が涙目で絶叫する。


かつて多くの政敵を闇に葬ってきた精鋭たちが、一人の少女の「微調整(物理)」を恐れて、必死に体幹を維持しようとする地獄絵図がそこにはあった。


「ガハハハ! 良い体幹だ! お前ら、素質あるんじゃねぇか? さあ、次はベンチプレスだ。リナ、負荷をあと30キロ追加しろ!」


「承知いたしました。氷追加しますね」


「ぎゃああああ! 身体が……身体がめり込むぅぅぅ!! 吐く! 全部吐きますから! ボリス様です! ボリス・フォン・カトラス様の指示で、貴方の学園生活を台無しにしろと……!!」


あまりの「重圧」に耐えかね、リーダー格の男が空中(ディエスの腕の上)で自白を開始した。


「ほう、ボリスか。……まあ、あいつならやりそうだな」


ディエスは刺客たちを軽々と地面に置くと、爽やかな汗を拭った。


「よし、リナ。こいつら、もうバーベルとしては飽きた。次は『雑巾』として使おうぜ。この部屋の床、プロテインをこぼして少しベタついてるんだ」


「名案ですね。エルザさん、彼らの足を掴んで。私が魔法で潤滑剤を撒きますから、彼らの服で一気にワックス掛けをしましょう」


「……了解。……ピカピカに、する」


「やめてくれええ! 俺たちの服は高級な隠密用装束なんだぞぉぉ!!」


深夜のトレーニングルームを、刺客たちが人間雑巾として高速で滑っていく。


翌朝、そこには鏡のように光り輝く床と、ボロ雑巾のように擦り切れて真っ白な灰になった刺客たちの姿があった。


ボリス・フォン・カトラスの魔の手は、ディエスという「筋肉」と、その筋肉を快適に維持しようとする「過保護な従者たち」の前に、無惨にも、そして極めて綺麗に掃除されたのである。

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