第4話:お坊ちゃん、不審者になる
あれから毎日、俺は修行に明け暮れていた。
やることは単純だ。重いものを持ち上げ、走り、そしてよく食べる。
でも、このお屋敷での俺の評判は、筋肉とは逆にどんどん「最低」になっていた。
「おい、ディエス! またメイドたちをジロジロ見ていたそうだな!」
お父様の怒鳴り声がひびく。ぼくはちょうど、庭で自分の体重と同じくらいの岩を背負ってスクワットをしていたところだ。
「……ふんっ、ぬんっ! お父様、誤解ですよ。ぼくはただ、彼女たちの『躍動美』を観察していただけです」
「躍動美だと!? メイドの尻を追いかけ回して、ニヤニヤしながら『いいハムストリング(もも裏の筋肉)だ……』とつぶやくのが観察か! 変態のすることだ!」
親父の言う通りかもしれない。
でも、俺は真剣だ。このひょろひょろな体を改造するには、理想の筋肉の動きを知る必要がある。
それに、かわいい女の子の筋肉をながめるのは、プロテインを飲むよりずっとやる気が出るんだ。
「ディエス様、失礼します。お着替えを持って……ひっ!?」
部屋に入ってきたメイドさんが、上半身裸で岩を持ち上げるぼくを見て、悲鳴をあげた。
「ああ、ちょうどいいところに。君、ちょっとその場で足踏みしてみてくれないか? 大腿四頭筋の動きが見たいんだ」
ぼくが「いい笑顔(むっつりスケベ顔)」でそう言うと、メイドさんは顔を真っ赤にして逃げ出していった。
「……あ、行っちゃった。せっかくいい筋肉をしていたのに」
(……おかしいな。ぼくはただ、筋肉を愛でつつ、将来のハーレム候補をチェックしているだけなのに。なんで不審者を見る目で見られるんだ?)
そんなぼくを、兄のカイン様だけは優しく見守ってくれる。
「ディエス、今日も熱心だね。父上は怒っているけど、僕は君のその……『情熱』は嫌いじゃないよ。いつか、君がその体で何かを成し遂げるのを信じているからね」
金髪でキラキラした兄様は、ぼくの肩をポンと叩いてくれた。
兄様、その情熱の半分は「エロ」なんだけど……。でも、そう言ってもらえるのはありがたい。
ぼくは前世の知識をフル活用して、修行を続けた。
重いものを持ち上げるだけじゃない。
体の節々の可動域を広げるストレッチや、効率のいい呼吸法。
すべては、このひょろひょろの殻を破り、最強の「野蛮人」に進化するためだ。
「見ていろよ。今は不審者あつかいされているけど、いつかこの筋肉が、世界で一番頼りになるものだって分からせてやるんだからな!」
俺は、お父様の説教をBGMに、今日1000回目のスクワットを開始した。
視線の先には、庭掃除をしているメイドさんの、健康的な二の腕がキラキラと輝いていた。




