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第32話:王都の光と、完璧なる英雄


王都の目抜き通りは、かつてないほどの熱狂に包まれていた。


広場の中央に設置された巨大な魔導スクリーンに、王国魔法軍の副団長、アレクシス・フォン・クロムウェルの姿が大写しになったからだ。


「……信じられるか? まだ二十二歳だってよ。それで魔法軍の副団長なんて、まさに伝説の再来だ」 「あの方こそ、この暗雲立ち込める王国を救う『光』だよ」


民衆の溜息混じりの称賛を浴びるスクリーンの中の男は、金色の髪を完璧に整え、一点の汚れもない白い軍服に身を包んでいた。


魔法エリートの権化でありながら、その表情には慈愛に満ちた笑みが浮かんでいる。


「皆の者、安心するがいい。我ら魔法軍が守るのは、貴族の利権ではない。この国に住むすべての人々の笑顔だ。知性と秩序こそが、魔物の恐怖を打ち払う唯一の剣となるのだから」


流暢で高潔な演説。アレクシスが右手を掲げると、空中に幾重にも重なる幾何学的な魔法陣が展開され、王都全域に柔らかな癒やしの光が降り注いだ。


その完璧な「救世主」の姿に、人々は膝をつき、祈りを捧げた。


演説を終えたアレクシスは、警護の騎士たちを下がらせ、一人で王都の貧民街へと足を運んだ。


表通りの華やかさとは対照的な、湿った路地裏。そこには、親を失い、飢えに震える子供たちが身を寄せ合っていた。


「……アレクシス様だ! 本当に来てくれた!」


子供たちが一斉に駆け寄る。


アレクシスは少年の目線に合わせて膝をつくと、その頭を優しく撫でた。


「坊や、これを持ちなさい。一時的なパンや銀貨は、明日には消えてしまう。だが、知識は君の心に一生残り、君を救う力となる」


アレクシスが手渡したのは、美しい装丁の小さな本――「魔法の初歩」が記された教科書だった。 銀貨を与えるのではなく、自立する力を与える。その高潔な振る舞いに、周囲の大人たちまでが涙を流して彼を拝んだ。


「勉強して、いつか私を助けてくれる立派な魔法使いになっておくれ」


「はい! 僕、絶対になります! アレクシス様のために!」


少年の純粋な誓いを聞き、アレクシスは満足げに、そしてあまりに完璧な聖者の微笑みを浮かべて立ち去った。


その微笑みの奥に、何を思うのか知るものはまだ誰もいない。


【ディエス視点】


「ふんぬぅぅぅっ! おいリナ、もっと魔導負荷ウェイトを上げろ! この程度じゃ、俺の広背筋が『昼寝の時間か?』ってあくびしてやがる!」


学園のトレーニングルーム。


俺は王都で話題の高潔な演説など一ミリも耳に入れず、天井まで届く特注の鉄塊を片手で上下させていた。


「ディエス様! これ以上は建物の構造強度が持ちません! 皆さんはアレクシス公爵の『完璧な美しさ』に夢中なのに、貴方と来たら……この『完璧な暑苦しさ』は何なんですか!」


髪をなびかせ叫ぶのは、リナだ。彼女は氷魔法をフル回転させ、俺が破壊しそうな床の強度を必死に補強している。


「……ディエス様の、汗の飛沫……聖水……。あんなもやし公爵より、この上腕三頭筋の方が……尊い……」


銀髪を揺らし、透き通るような肌を持つ護衛のエルザは、俺のトレーニング姿を無表情ながらも猛烈な視線で記録していた。


「ガハハ! ラスボスは勇者に任せて、俺は筋肉を鍛えるぜ! さあ、追い込みだ!」


王国の希望と謳われる「光の英雄」と、ただひたすらに「筋肉」を磨く野蛮な欠陥品。


二人の運命が交錯した時、アレクシスの緻密な計画が「物理」によって粉砕されることを、今はまだ誰も知らない。

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