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第27話:交渉術(物理)と鉄柵のハート


新道は完成したが、ボリスの圧力を恐れる商人たちは依然としてバルカス領への出入りを渋っていた。


「カトラス公爵家に睨まれては、王都での商売が立ち行かなくなる」というのが彼らの言い分だ。


俺はリナとエルザを連れ、近隣の宿場町に留まっている商隊の長のもとへと足を運んだ。


「ひっ……バルカス家のディエス様! ですが、カトラス公爵家から直々に『バルカスと取引する者は、営業許可を取り消す』とのお達しが……。我々も商売が惜しいのです」


脂汗を流して震える商会長に、俺は岩石のような二の腕を誇示しながら、ぐいっと顔を近づけた。


「あ? 圧力をかけた大元が怖いのか? だったら俺の筋肉を見ろ。そいつの細っこい魔法と、俺のこの、鋼より硬い二の腕……どっちに逆らう方が寿命が縮むか、よーく考えてみろよ」


「ひ、ひぃぃぃ……!」


俺は商人の目の前で、庭にあった鉄の飾り柵を素手で掴んだ。


ミシミシ、メキメキという恐ろしい音を立てて、太い鉄柱が飴細工のように曲がっていく。


「安心しろ。俺に従うなら、この腕はお前たちの馬車を守る『盾』になる。だが、断るってんなら……」


俺は曲げた鉄柵をさらにこねくり回し、不器用ながらも巨大な**「ハート型」**に加工して地面に突き刺した。


「見たかリナ。交渉ってのは、相手の目を見て、自分の大胸筋をピクピクさせるのが一番効くんだよ」


「……それは交渉じゃなくて、ただの脅迫ですよ、ディエス様。ハートを表現したつもりかもしれませんけど、見た目が完全に『破壊の爪痕』です!」


リナの鋭いツッコミが響く中、俺は商会長の肩をガシッと掴んだ。


あまりの握力に商会長の膝がガクガクと震える。


「さあ、どっちだ。公爵家の見えない圧力か、それとも目の前にある俺の『愛(暴力)』か。選ぶ時間は三秒やる」


「……い、従います! バルカス領へ、喜んで最高級の品々を運び込ませていただきます!! 公爵家の嫌がらせより、今ここで貴方に握り潰される方が一億倍怖いです!!」


商会長は涙目になりながら、全力で首を縦に振った。


「交渉成立だな。エルザ、さっそく荷馬車の護衛の準備だ」


「……了解。……ディエス様のハート……素敵。……私も、曲げてほしい……」


「エルザも変なところに感銘を受けないで! ほら、ディエス様! 壊した鉄柵、ちゃんと弁償してくださいね!!」


俺はリナの小言を聞き流しながら、バルカス領へと向かう商列の先頭に立った。


どんな権力や法があろうと、目の前の圧倒的な「質量」には勝てない。それがこの世界の真理マッスル・ルールなのだ。

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