第3話:お坊ちゃんの「おかしなしゅぎょう」
俺が10歳のたんじょう日に前世を思いだしてから、数日がたった。
やるべきことは決まっている。
魔法の練習なんて全部すてて、この**「ひょろひょろのお坊ちゃん」**の体を、最強の筋肉でつつみこむことだ。
まずは、お屋敷の図書室にある本をよみあさって、方針を決めた。
「……よし、決まった。魔法はあきらめて、ひたすら体をデカくする。それが生き残るための最短ルートだ。それに、男は中身よりも結局、強くてデカい筋肉……そしてかわいい女だろ!」
そう、ぼくは筋肉も大好きだが、それ以上に女好きだった。この世界なら強ければモテる。
強くなって、「かませ犬ルート」をぶっつぶし、美女をはべらせて自由に生きる。これこそが俺の「理想のスローライフ」だ。
翌日から、俺はさっそく「修行」を開始した。
朝、お屋敷の庭。
そこには、茶髪をなびかせ、ひょろひょろの腕で、庭にある大きな「漬物石」を何度も持ちあげる10歳の姿があった。
「ふんっ! ぬんっ! ……よし、いい刺激だ!」
1回、2回と石を上げるたびに、細い腕がプルプルとふるえる。
そんな俺を、メイドさんたちが遠くからヒソヒソと話しながら見ている。
俺は、彼女たちの姿が見えるたびに、顔をニヤつかせながらじーっと見つめた。
(……ほう、あのメイドさんのふくらはぎ、いい筋肉だなぁ。それに、あの揺れるスカート……最高だ。やっぱり女の子はいい。あのかわいい子たちを守るためにも、もっとデカくならなきゃな!)
俺は、しゅぎょうをしながら、メイドさんたちをなめるように凝視した。
「筋肉のつき方」をチェックしつつ、下心まるだしの「エロい目」で見ていたのだ。ハタから見れば、ただの**「お姉さんをいやらしい目で見る、むっつりスケベなガキ」**である。
「……ねえ、ディエス様、どうしちゃったのかしら。急に石を持ち上げ始めたと思ったら、今度はこっちをすごく変な目で見てくるわ」
「本当ね……あんなに可愛らしいお顔なのに、目つきだけがエロい大人みたいで怖いわ」
メイドさんたちが、ひいた目で体を抱きしめて去っていく。
「ディエス! 何をしているんだそれは!」
そこにお父様がすっ飛んできた。
ぼくは地面に石をドスンと置いて、さわやかに、でも目はニヤついたまま汗をふいた。
「しゅぎょうですよ、お父様。女の子を……いや、あのメイドさんの筋肉を参考に、ぼくも体を鍛えることにしたんです」
「筋肉を参考だと……!? 魔法は? それに、なんだそのニヤニヤした顔は! はしたない真似はやめなさい!」
お父様はあわを吹いて倒れそうになっていたが、そこへ一人の少年がやってきた。
俺の兄、カインだ。兄様は王国でも天才といわれる魔法使いだけど、俺にはいつも優しい。
「父上、いいじゃないですか。ディエスにも、ようやく何かに夢中になれることが見つかったみたいですよ」
金髪で優雅な兄様は、ぼくが泥だらけで石を持っている姿を見て、まぶしい笑顔をむけてくれた。
(兄様……。ぼくが『しゅぎょうのついでに、美女を見てニヤニヤしてる』なんて、夢にも思ってないんだろうな……)
「そうか……カインがそう言うなら……。だが、ほどほどにするんだぞ」
親父はまだ困った顔をしていたけど、兄様に言われてしぶしぶ納得したみたいだ。
周囲に何を言われても関係ない。
ぼくは、このひょろひょろの体を最強の「筋肉のよろい」に変え、いつか最高のハーレムを作ってやるんだ!
メイドさんたちの冷たい視線なんてごほうびだと言わんばかりに、俺はもっと重い石をさがして走り出した。




