第26話:道がないなら、作ればいいじゃない
ボリスの嫌がらせは、俺の予想を上回る陰湿な形で実行された。
ある日突然、学園から実家のバルカス領へと続く主要な街道が、完全に封鎖されたのだ。
「……何だと? 『魔物大量発生に伴う特別調査』の名目で、公爵家が道を占拠した?」
実家の父から届いた早馬の知らせを読み、俺は思わず鼻で笑った。
公爵家の権限を使えば、そんな適当な理由でも「王国の安全のため」という大義名分で街道一つを死気にできる。
「ディエス様、笑い事じゃありません! バルカス領は山に囲まれた僻地なんですよ。あの街道が一本止まるだけで、物資も商人も届かなくなります。このままじゃ、領民の皆さんが干上がってしまいます!」
リナが青い顔をして詰め寄ってくる。
実際、父の手紙によれば、街道の入り口にはカトラス公爵家の私兵が立ち並び、商人の馬車を力ずくで追い返しているらしい。
「あのひょろひょろのボリス、正面から俺を退学にできないと悟って、今度は実家に矛先を向けやがったか……」
「……卑怯。……ディエス様の領地……いじめる奴……斬る……」
エルザが静かに剣の柄に手をかける。
その殺気は、近くを通りかかった一般生徒が腰を抜かすほど鋭かった。
「待てエルザ。相手は一応『調査』と言い張ってるんだ。公爵家の兵士を斬れば、それこそバルカス家が逆賊扱いされる。あいつの狙いはそこだ」
俺ははち切れそうな制服の腕を組み、険しい表情で考え込んだ。
本来、ゲーム知識では勇者アリオスと敵対するはずのボリスが、なぜか俺という「脇役」に執着している。
「なんで第一章の悪役噛ませ犬が俺に向いてるんだ? 俺はただ、筋肉を鍛えて開拓地でゴロゴロしたいだけなのに……」
「そんな不純な動機で鍛えてるからですよ! ……でも、どうするんですか? 街道は公爵領を通る以上、私たちが文句を言っても法的に跳ね返されます。商人が途絶えたら、バルカス領の経済は終わりです」
リナの悲痛な叫びが響く。
王都の掲示板には、ボリスの息がかかった教師によって「バルカス領周辺の危険性」が過剰に書き立てられ、恐怖した商人たちは次々と取引をキャンセルしていた。
物理的に道が塞がれ、政治的に孤立させられる。
まさに王道にして最悪の嫌がらせだった。
「……なるほどな。道を通らせない、か」
俺は空を見上げ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
その表情には、絶望など一ミリも混じっていなかった。
「リナ、エルザ。次の休暇は帰省するぞ。ボリスの坊ちゃんに、本当の『開拓』ってやつを見せてやる」
俺の大胸筋が、怒りと期待でピクリと跳ねた。




