第21話:リナの逆鱗と、恐怖のプロテイン抜き
三日間にわたる山籠もり特訓を終え、俺たちはようやくマルコの親父さんが待つ商会へと戻ってきた。
ハーピィの羽(証拠品)を袋に詰めて持ち込んだ俺は、岩のような肉体から凄まじい熱気と充実感を放っていたが、隣を歩くリナは対照的だった。
「……あ、あの、ディエス様。無事だったのですね! あまりに連絡がないので、てっきり全滅されたのかと……」
商会長が顔を真っ青にして駆け寄ってくる。
俺はニヤリと笑い、金貨5枚を受け取るために手を差し出した。
「おう、遅くなって悪かったな。ちょっと途中で、指輪を使った『新時代の筋力防壁』の調整に熱が入っちまってよ。ハーピィなんて開始数分で全滅させたんだがな!」
「そ、そうですか。それは何よりですが……リナ様、その、お顔が凄まじいことになっておりますが……」
商会長が怯えたようにリナを見た。
リナは三日間、俺の「もっと激しく撃て!」という要求に応えて数万回の演算と魔法投射を繰り返したせいで、目の下には深いクマができ、髪もボサボサだ。
彼女は静かに、だが確実に「キレて」いた。
「商会長様……申し訳ありませんでしたね。この『筋肉ダルマ』が、自分の体のことしか考えていないせいで……」
「リ、リナ? なんだ、そんな怖い声出すなよ。おかげで俺の筋肉は、今や魔法すら栄養にするレベルに……」
「黙ってください」
リナの冷徹な声が、商会内の温度を氷点下まで下げた。
本来「氷の魔女」になるはずだった彼女の魔力が、怒りによって共鳴している。
「商会長様がどれほど心配されるかも考えず、私に『もっと激しい魔法を胸板に叩き込め!』だの『次はケツの筋肉で魔法を吸収する練習だ!』だの……。三日間、一睡もさせずに魔法を撃たせ続けたのはどこのどなたですか?」
「ひ、ひぃっ……リナ、顔が怖いぜ……。いや、あれは実戦形式の……」
「練習と称して、私を魔法出力機扱いした罪は重いですよ。私がどれだけ精密にコントロールして、貴方の心臓が止まらないように手加減しながら、でも指輪の変換効率が最大になるように調整したと思ってるんですか!? この……筋肉エロ坊ちゃま!!」
リナの鋭いチョップが、俺のパンパンに張った大胸筋に叩き込まれた。
「……リナ、落ち着いて。ディエス様の体、三日前より……さらに、硬い。……なでると、気持ちいい……」
横でエルザが俺の腕に頬を寄せながらフォロー(?)を入れるが、リナの火に油を注ぐだけだった。
「エルザも甘やかさない! いいですか、ディエス様。本日の報酬の金貨は私が管理します。それから、本日から三日間、貴方が愛してやまない特製プロテインは……『抜き』です!」
「なっ!? プロテイン抜きだと!? それは死刑宣告と同じだぞ! 筋肉が……俺の筋肉が萎んでしまう!」
「萎めばいいんです! 少しは反省してください!」
俺の悲痛な叫びが商会に響き渡るなか、リナは金貨の袋をひっつかみ、ドカドカと足音を立てて出て行ってしまった。
(……やばい。本気で怒らせた。だが、あの魔法を耐え抜いた俺の筋肉は、間違いなく最強に近づいている……はずだ!)
俺は、プロテインを奪われた絶望と、手に入れた力の全能感に挟まれながら、ふらふらと彼女たちの後を追った。




