第2話:俺が「よわくてつよい」理由
「ディエス、しっかりしなさい! 今日は大事な記念日ですよ」
だれかがぼくの肩をゆすっている。
ぼくの名前は、ディエス・フォン・バルカス。バルカス伯爵家の次男だ。
今日はぼくの10歳のたんじょう日。いつもならごちそうを食べておしまいのはずだった。
でも、ちがった。
(……あ、あれ? 俺、なんでジムでダンベルの下じきに……?)
頭のなかが、ぐわんぐわんとゆれる。
さっきまで「10歳のこども」だったぼくの頭に、見たこともない「30歳のサラリーマン」の記憶がいっきになだれ込んできた。
仕事におわれていた毎日。
大好きだった筋トレ。
そして、死ぬほどやりこんだゲーム『エターナル・キングダム』の知識だ。
「……思い出した。ここ、あのゲームの世界だ」
俺は自分の小さくて白い手を見た。
鏡をのぞきこむと、そこには**「茶髪で、まだひょろひょろとした、お坊ちゃん」**の姿がある。
でも、俺はこのキャラを知っている。
こいつは、魔法がすべてのこの世界で、魔法才能に優れた勇者にボコボコにされる、かわいそうな「かませ犬の悪役」だ。
「ディエス? 顔色がわるいですよ。さあ、魔法の練習を始めましょう」
目の前には、厳しい顔をしたお父様が立っている。
お父様はぼくに魔法の才能があると信じていて、毎日熱心に教えてくる。
それも無理はない。この世界は魔法至上主義。魔法が使えなければ出世はないとされているのだ。
でも、俺の記憶(ゲーム知識)が残酷な真実を告げていた。
(……無理だよ、親父。このディエスってキャラ、魔法の才能は世界で一番よわいんだから)
この世界は魔法がすべてだ。火を出したり、風をおこしたりできる奴がえらい。
でも、ディエスにはそんな才能は1ミリもない。そのかわり――。
(魔法はカスだけど、「防御力」と「攻撃のパワー」だけは、ゲームのなかで最強なんだよな)
岩が当たってもピンピンしている。剣で斬られても「かゆい」ですむ。
そんな、ステータスを筋肉に全部つぎこんだような極端なキャラ。それが今の俺だ。
「よし、決めたぞ」
俺はひょろひょろの腕をにぎりしめた。
魔法なんてがんばっても無駄だ。
だったら、この最強の肉体をさらにきたえあげて、魔法もルールも無視する**「バーバリアン(野蛮人)スタイル」**で生きてやる。
(かませ犬の悪役なんてまっぴらごめんだ。圧倒的な筋力で敵をぶっつぶして、美女をたくさんはべらせて、だらだら自由に生きてやるんだ!)
「ディエス、何をニヤニヤしているのですか。さあ、この杖を持って、火をイメージするのです!」
親父が期待にみちた目でぼくを見ている。
俺はため息をつきながら、茶髪ひょろひょろの腕で杖をにぎった。
……しーん。杖からは、けむりすら出ない。
(すまん、親父。俺の進む道は、そっちじゃないんだ)
俺は確信した。生き残るには、このひょろひょろの体に、だれよりも早く、デカい筋肉をよろいのように着せるしかない。
「まずは情報収集だ。効率よく筋肉をデカくする方法を調べなきゃ」
10歳のこどもとは思えない目つきで、俺は自分の細い腕をじっと見つめた。




