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第17話:打算と筋肉と干し肉


学園の校舎裏を通りかかったとき、何やら騒がしい声が聞こえてきた。


「おい、商家のガキ! 金持ちならもっといいもん持ってんだろ?」


「ひっ……や、やめてください。それは父から預かった大事な……」


見ると、数人の取り巻きを連れたいかにも性格の悪そうな貴族生徒が、ひょろひょろした少年を囲んでいびっていた。


「……チッ、なんだ。いじめかよ」


俺は丸太のような腕を組んで、鼻を鳴らした。


「ディエス様、助けてあげないんですか?」


リナが心配そうに俺の顔をのぞき込む。


だが、俺は一瞥いちべつしただけで歩みを止めなかった。


「リナ、よく見ろ。被害者は男だ。俺の筋肉は美少女を助けるためにあるんであって、むさ苦しい男を助けるためにプロテインを消費する余裕はねえんだよ」


「最低だ! さらっと本音を言いましたねこの人は! 筋肉の神様に謝ってください!」


リナの鋭いツッコミが飛ぶ。


隣のエルザも無表情に「……男……興味ない……」とつぶやく。


見捨てて立ち去ろうとしたその時、いじめられていた少年――マルコが、俺の姿を見て必死に叫んだ。


「あ、あの! あなた、バルカス家のディエス様ですよね!? 助けてください! もし助けてくれたら、うちの商会が独占契約している**『最高級・魔獣の霜降り干し肉』**を格安で、いや、定期的にタダで融通しますから!」


俺の足がピタリと止まった。


「……ほう。今、なんつった?」


「『最高級・魔獣の霜降り干し肉』です! ギルドのごく一部にしか出回らない、高タンパクで超絶品の……」


俺は一瞬でマルコの目の前に移動した。


筋肉ではち切れそうな巨体が風を切り、いじめっ子たちの前に壁のように立ちふさがる。


「おい、そこのひょろガキ共。その少年は俺の大事な『ビジネスパートナー』だ。指一本でも触れてみろ。お前らの骨を自重トレーニングの器具に変えてやるぞ」


「ひっ!? な、なんだこいつ、デカすぎる……!」


「に、逃げろ! 筋肉のバケモノだー!」


俺が上腕二頭筋をピクピクと動かして威嚇しただけで、いじめっ子たちは悲鳴を上げて逃げ出していった。


「……助かりました、ディエス様! 本当にありがとうございます!」


「礼はいい。それより、さっきの干し肉の話を詳しく聞かせてもらおうか。俺の筋肉が今、猛烈にそのタンパク質を求めているんだ」


俺はニヤリと笑い、マルコの肩をガシッと掴んだ。


あまりの握力にマルコが「ひぃっ、骨が……!」と顔を引きつらせる。


「……ディエス様。さっきまで『男を助ける余裕はない』とか言ってたのに、食べ物の誘惑には秒速で負けるんですね」


リナがジト目で俺を睨む。


「バカ言え。これは『投資』だ。将来の開拓地で、最高の保存食を確保するためのな。リナ、お前もあの干し肉を食べれば、そのわがままなボディにさらに磨きがかかるぞ」


「誰がわがままボディですか! どこ見て言ってるんですか、このエロマッチョ!」


「……干し肉……。ディエス様が喜ぶなら……私も、食べる……」


エルザだけはトロンとした目で俺を見つめている。 俺はマルコを小脇に抱え(もちろん筋肉の感触を確かめながら)、意気揚々と歩き出した。


「よし、マルコ! さっそく契約書を書こう。俺の筋肉と、お前の干し肉……最強の同盟の誕生だ!」


「ディエス様、商談の前にその子を下ろしてあげてください! 圧迫死しちゃいますから!」


リナのツッコミをBGMに、俺は新たな「利権」を手に入れた喜びで胸を熱く(物理的に大胸筋をパンプアップ)させていた。

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