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第13話:盾から剣へ


「ハハハ! 騎士だと? 笑わせるな、坊ちゃん!」

元上官の嘲笑が、演習場の冷たい空気にかき消される。

シールドに意志など不要だ。魔獣の爪を数秒凌ぎ、魔法使いが詠唱を終えるまでの時間を稼ぐ。それが『104番』、お前の価値だったはずだ。今さら剣を振るうなど、道具が自我を持つようなものだぞ」

その言葉が投げかけられるたび、俺の腕の中でエルザの身体が震える。だが、それは恐怖だけではない。抑え込んできた怒りが、彼女の筋肉をかつてないほどに昂ぶらせていた。

「おい、そこまで言うなら試してみるか? 俺が鍛え直したこいつの『剣』が、お前らの言う『盾』のままかどうかをな」

俺は茶髪を揺らし、獲物を定めるような視線で傭兵たちを睨みつけた。

「……面白い。ならば、我ら『鉄の牙』で最も腕の立つ重装歩兵と立ち会わせてやろう。道具が壊れても文句を言うなよ?」

元上官が指笛を鳴らすと、背後から熊のように巨大な盾とメイスを抱えた男が歩み出てきた。魔獣の突進を受け止めることに特化した、まさしく「動く壁」だ。

「エルザ。行けるか」

俺は彼女の肩から手を離し、その背中を軽く叩いた。

エルザは一瞬だけ迷うように俺を見たが、俺の胸板から伝わった熱を思い出すように、力強く頷いた。

「……はい、ディエス様。私はもう、誰かのために死ぬ盾ではありません」

彼女は腰の剣をゆっくりと引き抜いた。

かつてのボロボロの剣ではない。俺が特注し、彼女のしなやかなバネを最大限に活かせるよう調整された、一振りの業物だ。

「始めろ!」

元上官の合図と共に、巨漢の傭兵が「咆哮」を上げながら突進した。

魔法使いを守るために鍛えられた重装の盾が、エルザを圧殺せんと迫る。かつての彼女なら、その衝撃を受け止めて死ぬことしか考えなかっただろう。

だが、今の彼女は違う。

エルザは一歩も引かなかった。いや、引く必要がなかったのだ。

巨漢が盾を叩きつける寸前、彼女の身体が風のように揺らいだ。

「――遅いです」

俺が教えた可動域を広げるストレッチと、死線を潜り抜けてきた彼女の直感。

エルザは、盾の死角へと最小限の動きで滑り込み、流れるような動作で剣を閃かせた。

キィィィィィィン!!

鋭い金属音が響き、巨漢の抱えていた厚い盾が、紙細工のように真っ二つに裂けた。

それだけではない。エルザの剣先は、男の喉元数ミリのところで、ぴたりと静止していた。

「なっ……馬鹿な! 魔獣の突進さえ防ぐ盾を、ただの剣で……!?」

元上官が顔を真っ青にして絶句する。

エルザは、もはや怯えることもなく、真っ直ぐに元上官を見据えて言い放った。

「私はもう、あなたの道具ではありません。ディエス様の剣として、私は私の意志で戦います」

その瞳には、過去の亡霊を切り裂いた、騎士としての誇りが宿っていた。

「ガハハ! 見たか! これが俺の最高の相棒だ!」

俺は歩み寄り、勝利したエルザの頭をわしわしと撫で回した。

真っ赤になって照れる彼女の姿は、もはや戦場の消耗品などではない。俺の隣で共に未来を切り拓く、かけがえのない少女の一人だった。

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