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第11.6話:氷を溶かす熱い鼓動


雪の中に崩れ落ち、肩を震わせて泣きじゃくるリナを、俺はただ静かに見つめていた。


彼女がこの地でどんな風に過ごしていたのか。


10歳で出会う前のリナが抱えていた孤独の深さが、凍りついた景色を通して俺の胸に突き刺さる。


まだ子供だ。それは想像もできない思いだったのだろう。


「……私の魔法は、お腹が空いた時に、たまたま指先が凍ったのが始まりでした。冬場は冷える納屋で、自分の体から漏れ出す冷気に怯えながら、たった一人で丸まって眠る夜を過ごしていたんです」


リナは涙を拭い、村の中心にある崩れた石碑を指差した。


「あの日……私は村の人たちに、この力を『役立ててほしい』と頼まれました。日照りが続いていたから、私の冷気で雨を降らせる儀式の依代よりしろにされたんです。でも、私は制御できなくて……。だから、私がみんなを……」


「……待て、リナ。その話はおかしい」


俺は地面に積もった雪を、丸太のような腕で乱暴に退けた。


そこにあったのは、魔法の儀式に使われる「触媒」の残骸だった。それはリナの魔力とは異質な、どす黒い変色を起こしている。  


「見ろ。これはリナの魔力じゃない。村の大人たちが、お前の力を無理やり引き出そうとして、制御の効かない安物の魔石を組み込んだ跡だ」


驚きに目を見開くリナの隣で、俺はさらに周囲の氷壁を拳で砕いた。


中から出てきたのは、当時の村長が書き残したであろう、歪んだ野心まみれの手記だった。


そこには、少女の魔力を「絞り尽くして」でも、村を豊かにしようとした大人たちの身勝手な計画が記されていた。


「リナ。お前が暴走したんじゃない。お前の純粋な力を、強欲な大人たちが無理やり捻じ曲げた結果、装置が壊れてこの惨状を招いたんだ。お前は、加害者じゃなく、ただの犠牲者だったんだよ」


「……えっ? 私が、壊したんじゃ……なくて……?」 


リナの瞳に、戸惑いと、それ以上の衝撃が走る。


自分がずっと背負い続けてきた「罪」の正体が、実は他人の欲望が招いた災厄だった。


その事実に触れた瞬間、彼女の中で止まっていた時間が、音を立てて動き始めた。


「もういい、リナ。自分を責めるのは終わりだ。お前の本当の力は、あんな汚い連中に利用されるためのもんじゃない」


俺は茶髪をかき上げ、全身の筋肉をバキバキと怒張させた。


俺の身体から放たれる熱気が、周囲の「装置」の残骸を次々と溶かしていく。


「……っ、危ないです! 離れてください、ディエス様! 私のせいじゃなくても、この冷気はまだ……!」


「構うか。お前の過去がどんなに冷たくても、俺の筋肉の方が熱いってことを証明してやるよ」


俺は、呆然とするリナを正面から力強く抱き寄せた。


分厚い胸板から伝わる、力強い鼓動。


それは、かつて彼女が求めていた、何よりも欲しかった「本当の温もり」だった。


「……っ、う、ああああああん!」


リナは俺のシャツを握りしめ、自分を縛っていた嘘の罪から解き放たれ、子供のように大声をあげて泣いた。


その瞬間、村を覆っていた重苦しい冷気が霧散し、雲の間から優しい陽光が降り注いだ。


「ガハハ! アイシング完了だな。お前の魔法は、これからは俺のプロテインを冷やすためだけに使いやがれ!」


「……はい、ディエス様。……私、もう迷いません」


リナの顔に、心からの笑顔が咲いた。


真実を知り、過去を乗り越えた彼女の魔力は、もはや「孤独」の色を失い、俺を支える澄み渡った力へと昇華されたのだ。


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