Rank.2 『一点集中型の天才』
~前回までのあらすじ~
ある日の授業、数学のテストが返された。
瀬田弘一は13点(補習)、天梨真水は97点(学年3位)、そして授業中に爆睡していた風峰最麻は100点だった!(学年1位)
「もう学歴社会なんて腐ればいいんだ!」 by生徒A
辺りは最麻の一言によって沈黙化したが、何秒かすると生徒達も納得したようだった。
「あー、何だ風峰か……」
「そういやあいつ数学だけ天才的に賢かったんだったよな」
最麻はそんな周りからの言葉を聴き、調子にのったのか少しおどけて、
「いやー、先生。数学なんて寝てても余裕ですよー♪」
「……数学以外のテストは全て赤点補習行きだがな」
「それは気のせいですよたぶん」
教師は無視して答案用紙を最麻に渡すと、遅れた時間を取り戻すように早々とテストを配っていく。
全ての答案用紙を配り終わり、問題の解説が終わる頃にはチャイムが授業の終わりを告げていた。
☆
風峰最麻は数学のみできる、一転集中型の天才だ。
入学以来数学はオール100点、その他の教科はオール赤点。
ものさしを渡せば目に見える範囲までならどこまででも距離を測ることができるという天才。
そんな最麻が今、休み時間に何をしているかと言うと、
「天梨真水 159.7cm……」
「はーい、月曜日恒例の身長測定がしたい人は並んで並んでー」
瀬田の大きな声が最麻の耳に嫌でも入ってくる。
最麻はそのムカツクアホ面を横目で見ながら自分の目の前に立つ生徒の身長を測っていた。
彼は歩く身長測定器なのだ。
「瀬田……毎度思うんだが何で僕がこんなことをしなくちゃいけないんだ」
50cmものさしを片手に愚痴を呟く。
通常、身長を測るためにはそれ相応の長さの測定器が必要だがこの少年は50cmものさし1つで全てをこなす事ができるのだった。
「いーじゃん最麻。きっと女子からの好感度も上昇するぜー、うわー羨ましいなー!」
そう言いつつも瀬田の顔は落胆というよりむしろ綻ばせていた。
最麻はその原因を彼の目線を追うことによって知る。
こいつの目標は身長を測りに来る女子だ。
「てめー、要するように女子を近くで見たいだけじゃねーか!」
「げ……ばれた?」
そんな為に僕にこんな事をやらせていたのか、と最麻は心の中でため息を付く。
ドスッと瀬田の鳩尾に肘打ちをヒットさせてから彼は並んでいた生徒に中止のサインを出す。
女子も瀬田がキモいと思ったようですぐに教室に散らばっていった。
身体測定を中止するのと同時に、することもなくなった最麻は廊下に出ていた。
ふらふらと当てもなく近くの階段を下りる。
最麻は暇な時は下まで降りる癖があったからだ。
下まで降りてきてなお、することがない最麻はぐでーと壁にもたれる。
「よ~す、風峰!」
と、そこに元気な少女の声が聞こえた。
少年はこの少女の名を知っている。
むしろ学園内の有名人で知らないほうがおかしいぐらいだ。
最麻は懐から50cmものさしを取り出すとそれを彼女に向け、
「……御崎芹菜、武力順位912人中2位、胸の大きさは7じゅうは……」
ドゴォ。
そこまで言った時、彼のすぐ横の壁に穴が開いた。
原因は芹菜の蹴りだ。
「ちょ、おまッ!?」
「何で……」
最麻の顔に冷や汗が滴る。
失言したなーと、彼は思った。
「何でそんなこと知ってんのよ変態!?」
彼女は赤面しながら最麻の襟元を掴んだ。
そしてそのまま上下に揺らされる最麻だったが、
「僕は数学の天才だ。ものさしさえあれば胸のサイズを計ることなど簡単さ」
などと勝ち誇った笑みで彼は言った。
あまりにも堂々とした発言だったので芹菜の動きも止まる。
3秒だけだったが。
「……くたばれエロ野郎ぉぉッ!」
「がふゥ!?」
瞬く間に彼の体は宙に投げ出された。
芹菜が右ストレートを顔面にぶち込んだからだ。
武力順位2位は伊達ではない様で最麻の体は数m先、もしかしたら10m以上行くかも知れないぐらいの距離まで吹き飛ばされる。
だが、それでも芹菜は半ば呆れた顔で飛ばされた最麻を見ていた。
「まったく……普通の人間なら気絶するような一撃なんだけど、なんであなたは立っているのよ……」
彼はほぼ無傷といった具合で立ち上がっていた。
防御をしていたわけではない、生身の体で受けていたのにだ。
最麻はパン、と服に付いた埃などを払い落とすと笑みを崩さないまま言った。
「そりゃ僕って人十倍打たれ強いし」
「それを言うなら人一倍じゃないの……? ま、どっちでもいいけどさ。どんなに体を鍛えていても今のは普通の高校生なら、特に武力順位912人中167位っていう凡人のようなあなたなら少なくとも悲鳴を上げててもいいはずなのよ」
「いや、だから僕はただ打たれ強いだけだって」
ぶんぶんと、腕を振って否定する最麻。
これ以上面倒くさい事に巻き込まれたくなかったからだ。
「ふーん……。まだ納得できていないけどそろそろチャイムが鳴るし……今日のところは許しといてあげるわ」
今日のところは……って次もあるのかよ。
と、最麻は心の中で落胆する。
「じゃー僕も帰るか」
若干ふらつきながら階段に向かう最麻。
どうやら少しは芹菜の攻撃が効いていた様だ。
「あ、そーだ」
「……どーした?」
階段に上がろうとした最麻を芹菜が止める。
彼女はあきらかに挙動不審な様子で少し離れた所にある地下校舎を指差し、
「きょ、今日の午後6時からちょっと仕事があるんだけど手伝ってくれない?」
最麻は首を傾げたが、
「……まー僕もたぶん今日補習だし、そんくらいの時間になりそうだからいいよ」
「ほ、本当に? 来なかったら承知しないわよ!」
そういい残して芹菜はそそくさと帰っていく。
最麻はまだ、この事が物語のきっかけになることに気付いていなかった。
若干進展があったと思われしRank.2です。
つーか最麻、離れてても距離測れるってもはや天才以上ですよね。
どーでもいいですが、個人的に(まだ2話目ですが)好きなのは瀬田君です。