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本日、最終話です。
翌週、学校にて。
私は彼である彼女との先日の逢瀬を思い出しては、こっそりとにやにやしていた。
私としてはこっそりしていたつもりだったのだが、どうやら周囲にはバレバレだったようで、色々な人から恰好の噂の種となってしまっているようだった。
だが周りの人は、直接私には聞いてこない。やはりそういう類の話は聞きにくいのであろう。
委員長だけは、朝の挨拶と同時に聞かれたが。
「あとで話す」
とだけ返した。そう、例の放課後の時間だ。
そして一日中こっそりにやにやした後、私は委員長へと話した。
「昨日、この身体の本来の持ち主と会ったよ」
「会えたの? それは良かった」
「うん。彼女、とっても喜んでたよ」
「それは重畳」
委員長は大仰に頷く。
「で、彼女に素敵な告白をされた、という所かな?」
「例の宇宙で有名なやつ?」
「お、それを言ったんだね。ちなみに彼女はどれを伝えたんだい?」
「えっと……二つなんだけど」
「二つ? 中々チャレンジングだねぇ彼女」
「『光が闇に飲み込まれるまで~』と『星の最期を見届けるまで~』ってやつ」
私の話をすると、委員長はきょとん、とした後に顔を真っ赤にして両手で覆ってしまった。
いつも飄々(ひょうひょう)としている彼女がそんなポーズを取ることにびっくりしてしまい、思わず聞いてしまった。
「ど、どうしたの?」
「いや……その二つって一番重いやつだよ……そして一番恥ずかしいやつ。ボクなら絶対言えないよ……勿論、ベッドの中で囁くようにだよね?」
「いや、帰り道で」
「帰り道ぃ!? そ、それって公道のど真ん中ってこと!?」
「う、うん」
「うわぁ……無理無理無理無理ゼッタイ無理! 彼女……大胆過ぎるでしょ……」
委員長はかぶりを振って頭を抱えるようにして机に倒れ込んでしまった。
「えっと、どういうことか分からないんだけど……」
「そうだな……君達で例えるなら、道端で全裸で愛し合いながら大勢の人に『今! 僕達は! 愛し合っています!』って大声で宣言するくらいのこと」
「そんなに!?」
「文化が違うから一概にはいえないけれど、少なくともボクには信じられない。例え公転の向きが逆になっても出来る気がしないね」
「はぁ……」
思わず私は溜息を吐く。彼女の重さは確かに感じていたが、よく分からないけど相当のものらしい。
まあ私を自分の方だけを向かせる為に身体を入れ替わろう、等と考える娘なので、納得は出来るけれど理解は遠く及ばない。
「おまけにその二つでしょ。彼女、きっと魂まで溶け合いたいくらいなんだろうね」
「また凄い表現するなぁ」
「ボク達の最高純度の愛情表現だよ。まあ、肉体を入れ物にしている同士じゃないと出来ないから、キミ達には難しいけどね」
「そうだろうね。それと昨日、色々あって元に戻ったんだけど」
私は二人で起きた事を委員長に話した。
「ああ、それは彼女にそういう権限を与えたのさ」
「でもちょっとしたらすぐ今みたいに元の入れ替わった状態になっちゃったんだけど」
「まあ、十二分だけだからね」
彼女はなんでもないことのように話した。
「戻るなら教えて欲しかったんだけど。ずっと戻ることは出来ないの? それになぜ十二分?」
「彼女が望まない限りは難しいかな。結局はココロの問題だから。二人のココロがそれぞれ同時に強く願えば元に戻ることは可能だけれど、多分彼女は違うだろう?」
「うん」
「なら、ボクがどうこう出来る話じゃないからね。だからこそ僅かな時間だけは戻れるんだよ。君と彼女が愛し合う時間だけは、さ」
そう言われると、もはや私にはどうにも出来ないことである。
今度改めて、彼女に相談してみよう。
ただ彼女は余り戻りたくないみたいだ。
やはり私を自らの肉体で作られた牢獄へと放り込んでおきたいらしい。
こんな美人な彼女がいて、おまけにびっくりするほど濃厚に愛してくれているのに、他の女になど目を向けるはずがないじゃないか。
そう思うのだが、彼女としてはそうではないらしい。
貴方の素晴らしさに気付いて、襲ってくる可能性があると。
いやいや……と言いたかったが、私なら襲う! と力強く言われてしまっては、もう何も言えなかった。
彼女はもう少し世間というものを知る必要があるのかもしれない。
そんなことを思っていると、委員長は続けてこう話してきた。
「それに十二分の何が問題なんだい? キリがいい綺麗な数字じゃないか」
「いや、普通なら十分とか一時間とか」
私が委員長の問いかけに対して答えると、その言葉に訝しげな反応を見せる委員長だったが、唐突に理解したぞという顔になった。
「あぁ、もしかして君達の使う十進法を基準に考えているのかい? そんな考え方ならそうなるかもね」
「どういうこと?」
私は委員長のいう意味が分からずに、頭の上にはてなを浮かべる。
「全宇宙の基準は十二進法だからね。この星にも馴染みがあるだろう? 例えば……そう、星の動きや角度、あるいは時間や暦なんかで使われているじゃないか」
そう言われると……確かにそうかもしれない。
「まあ君達は指が十本しかないから十進法なんて気持ちの悪い数学を使っているんだろうね」
「え?」
「銀河の支配体系を握っている宇宙人は指が六本だからね。だから彼らの基準の十二進法が宇宙ではオーソドックスなのさ」
「え? え?」
「この星の暦も、恐らく昔の彼らが教えたのではないかい? はっきりとは分からないけれど」
頭がついていかない。委員長は何を言っているのだろうか。
「まあ、知らないのも無理はないよ。未だにこの星では宇宙人がいるかいないかの下らない議論をしているからね。宇宙の広さをちょっと冷静になって考えてみれば、いないと仮定する方がおかしいというのにさ」
「そんなに……?」
「星を、あるいはこの星でいう太陽系? を出ないと分からないよ。私からすれば、君達は家の中でじっとしていて『家の外に人間はいるかいないか』を家の中で家族と議論している、そういう風に見えちゃうね。町をぶらぶらしている人からすれば、滑稽極まりないだろ?」
「なるほど……」
「まあ、君はそんな話よりも今日の授業の方をしっかり勉強すべきかな」
そういって委員長は私のノートの方をコンコン、とシャープペンシルで叩いた。
「はい……」
私はもう何も言えず、今日のノートを見つめることにした。
なんだか、とんでもない話を聞いてしまった気がする。
私は聞いていないつもりになって、心を整理しながら本日の復習を行った。
※
今日の復習を終えて、彼は教室を後にした。
彼? いや、見た目的には彼女かな。
ボクはボク自身が原因の一つで作ったねじれのことなのに、ついつい笑ってしまった。
「いやぁ、しかし面白い結果になったね」
彼女である彼の輝きは、今やココロがカラダに負けていないんだよ。
これがどういうことか、分かるかい?
つまり彼はこのほんの半月程度で、以前のココロがくすんだ状態から、強烈に輝かせることに成功したということさ。
人間、生きているだけではそうそうココロもカラダも変わらない。
凡人が急に天才になったりはしないように。
皆、何かのきっかけがあったりなかったりして、あるいは一歩ずつ山を登っていたらいつの間にか頂上近くまで登っていたとか、そんな風にして人は変わっていく。
少なくともボクはそういうものだと思っていた。
だがどうだろう。
この一ヶ月弱、ボクはとても興味深いものを見せて貰った。
この星に住まう原生知的生命体は、とてもココロとカラダがアンバランスで、随分と弱々しいカラダと、同じく弱々しいココロで生きている。
どちらも吹けば飛ぶような脆さのまま、生活している。
だから簡単に病気になる。カラダの病気は勿論、ココロの病気も。
おまけにこの星では未だ、ココロの病気を『視る』ことすら敵わない。
そんな未成熟な星だというのに、時々とんでもない輝きを持った人物がいるのだから、驚きだ。
ボクの隣に座った子も、そうだった。
物凄い輝きをしていながら、非道く不安定だった。
だから失うのは勿体無いと思ったんだ。
ただ、それだけだったのに。
彼女の望み通りの相手と入れ替えてみるとどうだろう、入れ替えたココロも非道く弱々しくて、今にも消えてしまいそうだった。
どうして彼女はあんなにも自信満々に相手を指定したのか。ボクには分からなかった。
だがどうだろう。結果はご覧の通りさ。
彼女は正しかった。入れ替わった彼は見事に悩みを解決し、ココロはどんどん成長して、今ではカラダに負けないくらいの輝きを放っている。
こんなに面白いものが見れるとは思ってなかった。
この星に来た甲斐があるってものさ。
さて、これからもボクは二人を見守るとしますか。
どうか二人に、星の導きがあらんことを。
これにて完結となります。
ここまで読んでくださった読者の皆様には、厚く御礼申し上げます。
本当にありがとうございます。
この物語はこれにて終了となりますが、もし気が向いたらまた続きなど書くかもしれませんので、
その際はまたお付き合いして頂きましたら幸いです。
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気が向いたらで構いませんので、なにとぞ。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




