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 まずは朝の準備だ。

 と言ってもどこからすればよいのか。

 いきなり着替えてからリビングに向かうか、それとも彼女はパジャマで朝食を摂る派か、はたまた朝は食べない派か。

 分からないのでとりあえずこっそりと自室の扉を開け、リビングへと足を運ぶ。部屋を出ると、左手すぐに玄関が、右手にリビングに続いているであろう扉が見えた。どうやらリビングは階が同じのようだ。

 ちらりと玄関を見ると、小さめのローファーが一つ、綺麗に並んでいた。靴は一人分だけしか無く、両親の靴が見当たらない。どういうことだろうか。彼女の両親は既に出掛けたのか、あるいは一人暮らしなのだろうか。

 そろりそろりと足音を極力消しながら、リビングへと向かう。かちゃりとレバー状のノブをゆっくりと下ろして、そーっとリビングを覗いた。

 人が誰もいない。静かな朝だった。

 リビングをゆっくりと見回すが、やっぱり誰もいなかった。少しほっとする。

 自分と彼女との違和感、差異に気付かれる必要がなくなったからだ。

 しかし、彼女の両親は相変わらず見当たらない。既に会社へと向かったのか、はたまた夜勤なのか。

 流石に二人とも姿が見えないのには疑問が残る。彼女は本当に一人で暮らしているのだろうか。それとも……。

 さて、何か彼女のプロフィールを、人となりを示すヒントは無いだろうか。

 まずはテーブルだ。テーブルの上には、特に何も用意されていなかった。彼女は朝食を抜く派なのか。

 リビングと一体型になっていた台所へと向かう。流しも綺麗なものだった。特に使用された形跡も無い。洗われた食器が乾かされているのみである。

 冷蔵庫はどうだろうか。人によっては冷蔵庫の表面に色々とメモなり連絡なりを貼り付けている家庭もある。

 ちらりと目をやるが、こちらも特になかった。マンション全体への連絡事項が一つ、貼られているだけだった。

 僅かな手掛かりだが、この一室がマンションであることがほぼ確定した。

 さて、他には……と辺りを見回すと一つ、目に入ってきたものがあった。

 それは、お札が数枚、マグネットで貼り付けられているボードであった。

 少し大きなタブレットくらいであろうか、そのホワイトボードには横書きで三段、そしてそれを左右で分けるように線が引かれていた。

 そして一番上の欄には左から『樹』『仕事』真ん中の欄は左右とも空欄、そして一番下の欄には『薫』と右側の欄に千円札が数枚、貼り付けられていた。

 これは……とふと考える。

 恐らくこれは家族用の連絡板だろうか。随分とまあ古風なものだ。最近では携帯で簡単に連絡が取れるというのに。

 あるいは、携帯で普段から連絡を取らない家庭なのだろうか。ギクシャクしているのか、もしくは両親がITガジェットに弱い、などということも考えられる。

 そしてこの、一番上の欄が恐らく両親の名前ではないだろうか。女子高生の通学を『仕事』というのは流石におかしい。名前の読みは素直に『いつき』だろうか。男性っぽくもあるが女性っぽくもある。恐らく父親か母親の名前だろうが、どちらか断定することは難しそうだ。

 そして、この一番下の欄が恐らく彼女の名前なのでは、と推測した。万が一、兄とか叔父さんとかという可能性もゼロでは無いが、まあ彼女の保護者という立ち位置は変わらないだろう。そしてこのページに貼り付けられた千円札数枚が、彼女の朝食代か、はたまた昼食代か。

 そして真ん中の欄が左右とも空欄なのは……恐らくだが、両親は離婚か、死別か。とにかく彼女は片親での生活をしているのでは、と考えられる。

 流石に一番上が祖父母ということはないだろう。勿論薄い可能性の一つではあるが。

 とりあえずリビングはこれでいい。それよりもリビングにある時計を見ると、時刻は中々にいい時間を指しているようだ。この自宅から学校へはどれだけかかるか分からないので、早く準備をしなければならない。

 まずは洗面所に向かい、顔を洗う。水を流して、顔をパシャパシャと。

 歯磨きは……歯ブラシが二本。彼女のはこちらだろうか。可愛らしい方を選んで、磨く。

 そして自室に戻り……いよいよ、最大の緊張を迎える。


 着替えだ。


 まずは寝間着のボタンを一つ一つ外してゆく。寝間着は女性用なのもあって、ボタンの取り外し方が男性の服とは逆になっており、かなりやりにくい。

 それでも全部外すと、彼女の美しい胸部があらわとなった。

 先程堪能した高揚感と罪悪感、そしてそれらをまぜこぜにした羞恥心とが俺を襲う。ぞくぞくする。同時に俺の何も無くなった股間ではなく、その上のへその裏あたりか、そこにじんわりとした湿度の高いあでの虫を感じた。

 下半身のズボンになっている寝間着もゆっくりと足を抜き、脱いでゆく。するり、するりと肌をかすめる刺激でさえ、ぴくんと身体が反応してしまう。

 そして俺は下半身を覆う下着のみの裸体となった。部屋に姿見があったので、その前に立ってみることにする。そこで俺は始めて、今自分がどのような女性の肉体になってしまったのかということを確認出来た。

 ちなみに少々セクシーな下着を着けていることに、その時やっと気付いた。


 ……しかしまあ、どうだろうかこのプロポーションは。本当に俺と同じ人類なのだろうかとすら思う。

 すらりという言葉すら不似合いなほどに細く、色白の足が伸びており、腰も信じられないほどに高い位置にある。臀部も小さいながらもキュッと張りを伴い、そしてこれでもかというくびれ。腹に至っては今にも割れた腹筋が浮き出てきそうな見た目をしている。

 もはやこのままパッケージングして子供が遊ぶお人形として売り出せるほどに、彼女の身体は整っていた。モデルだと言われても疑う要素など微塵もない。それほどの美貌をこの身体は秘めていた。

 余りにも綺麗すぎて、俺は見惚れてしまった。俺が男のままこの女性に出会っていたら、きっと一目惚れした挙げ句に顔を真っ赤にして、それで恥ずかしくなってふいっとそっぽを向く。そこまではお約束のようにこなせるだろう。

 しかしこの裸体のまま固まっている訳にもいかない。俺がこれから女子高生としての生活を行うのであれば、着替えて学校に向かう必要があるからだ。

 さて着替えだが……部屋の何処に何がしまってあるかが分からない。当然だ、俺の部屋ではないのだから。

 だが非常にありがたいことに、彼女は自分の勉強机の上に、明日着替えるであろう服の全てを綺麗に用意してくれていた。

 これは本当に助かる。慌てて部屋をひっくり返しながら着替えを探す必要がなくなったからだ。

 ということでまずはと思い見てみると……いきなり俺にとっての最難関がそこに置かれていた。

 ブラジャーである。

 一応、念の為、誤解を受けないように説明しておくが、俺にブラジャーを着けた経験など無い。そして外した経験ももちろんない。精々、お袋こと母親が洗濯していたのを見たことが多少、という程度である。

 童貞に接点のある女性なんて母親くらいのもんなんだよ! 女兄弟だっていないしさぁ!

 という訳で最低限の構造の知識はあるが、これをどうしてよいのか分からないので、とりあえず手にとってみる。少し震えながら。

 震えているのは無論、緊張の為である。決して俺が変態だからとかそういう風に思わないで欲しい。

 こちとら生まれて始めて異性を象徴する下着に触れようとしているのだ。緊張しない方がおかしい。

 さてさてどうなっているのかと確かめてみる。その黒いレースを伴ったブラジャーは、胸を覆うカップが二つに、肩紐が二本、そして背中部分には両サイドから留める構造であろう凹凸のフック。

 なるほどこうなっているのか……と少々の感動を覚えた。表側はレースが綺麗に編まれており、可愛らしさと美しさを両立しており、翻って裏側は柔らかい素材がふんわりしている。

 触ってみると自分の胸ほど柔らかくはなく、むしろ結構しっかりと厚みがあった。男の穿くぺらっぺらのパンツとかとは違う。しっかりと守られている安心感のようなものが感じられる。

 あとちょっといい匂いがする。これは衣服からなのか、それとも洗剤の匂いなのか、はたまたこの身体から出ている女子高生特有の何かなのか。

 っといかんいかん。半裸のままでは風邪をひいてしまうのでさっさと着替えなければ。

 はてどうやって着ければよいのか、とふと考えたが、俺の人生におけるどこぞのアニメや漫画で見聞きしたであろう知識を総動員してみることにする。

 確か……まずは両方の肩紐に腕を通し、それから胸の位置を合わせて、最後に背中のフックを……留め……留め……ふぅ。やっと留まった。

 これ、背中に手を回すのが苦手な、身体の固い人はどうしているのだろうか。

 これは慣れないと中々大変だな。


 そしてその次は……えっ、何これ?

 俺の手元には、黒いレース状の紐みたいなやつが握られていた。

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