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 星を、手に入れたいと思ったことはないだろうか。

 夜空にきらめいている、あの星を。

 そして、思わず手を伸ばして、でも掴めなくて。

 悲しくて泣いてしまったことはないだろうか。

 まだ何も知らなくて、その全てが物珍しくて。

 けれどどうにも出来なくて、自分が子供だと思い知らされたあの頃。

 私は今も、あの子供の頃のままに、

 星を手に入れたいと、今日も星にこひねがう。

 どうか……どうか……

 どうか…………



 寝ていると物凄い衝撃が俺を襲い、その勢いで俺は飛び起きた。

 はぁ、はぁ、はぁと荒く息を弾ませ、背中には嫌な汗が滲んでいる。

 額に手をやると、こちらにも汗が……。

 俺は自分の手でその額に浮かんだ汗を拭った。


 ……いや、待て。

 何かが、おかしい。


 余りにもおかしな部分がありすぎて困惑しているのだが、とりあえずは少しずつ拾いあげてみよう。

 まず……此処は、どこだ?

 全く見覚えの無い部屋。俺が寝ていた筈の自宅のベッドの上ではない。

 間違いなく俺の部屋ではない、誰かの寝室である。

 この時点で俺は一種の記憶障害に陥っていることが判明した。

 昨晩は何があったか。酒に溺れたか。いやそんな筈はない。昨晩の記憶はそれなりにはっきりしている……はずである。

 間違いなく俺は自分の布団に入って普通に寝たはずだ。

 こんな知らない人の家で寝ているはずがない。

 だがしかし、そんな俺の持っている記憶との整合性が取れない。

 そもそも、この部屋の主は一体誰なのだろうか。

 室内を見渡してみれば、可愛らしい小物やアイテム。それらを考慮すれば、この部屋の主は恐らく女性だろうと考えられる。

 異性だ。俺みたいな自宅引きこもり警備員のどうしようもない男性とはこれっぽっちも縁の無い、女性の部屋だ。

 何よりも、壁に掛けられている制服がそれを物語っている。

 可愛らしいブレザーだが、色合いが薄紫と白という、中々にインパクトのあるデザインである。あの色合いは確か、この地域では確か随一の難関校である月夜見女学院のものではなかっただろうか?

 男の俺がどうして知ってるかだって? いや別にキモくはない。俺が中学時代の頃、伝統のセーラー服からブレザーにデザインを変更するとかで、かなり話題になったからたまたま覚えていただけだ。制服フェチとかそんなことはない。断じてない。ないったらない。

 この部屋の主である女性はかなりの頭脳の持ち主なのだな、と思ったが、いかんせんその主は姿を見せない。

 さてどうしたもんだと思ったが、よくよくすれば時計を確認していなかった。

 ちらりとベッドの横に置かれた、これまた可愛らしい卵形の目覚まし時計(どうやら時刻になると中から雌鳥が飛び出してくるようだ)を確認すれば、時刻は既に七時半であった。

 流石にそろそろ起きねばまずいであろう。俺ではなく、主に彼女の方が。

 学校に遅刻してしまう。

 俺がこの部屋にいては着替えもままならないだろうと思って、ベッドからゆっくりと起き上がった。

 するとどうだろう。これまた何かがおかしい。

 自分の身体で、揺れる部位がある。正直、俺は男性としては痩せ型に属していたはずだ。決して腹も出ていなかったので揺れる部位など無いはずだが、これまた一体どういうことか。

 そして匂いもまた気になる。学生時代にクラスの可愛い子がしていたようなフローラルな香り。修学旅行で風呂上がりの女子達がさせていたような、男子の欲求を根源から刺激するようなあの香り。

 あの香りが俺自身から、それも俺の髪からしてくるのだ。首筋をさらりと撫でる、髪から。

 これもおかしい。俺はそこまでの長髪ではなかった。一般的平均的の男性くらいだ。少なくとも耳をふわふわと綺麗に覆うような長さではない。


 明らかにおかしい。全てが。


 顔をそっと触る。目が二つに鼻と口が一つずつ。流石に違いは分からない。

 だがなんとなくだが、耳の形が違う気がしないでもない。絶対とは言えないが、違和感がある。多分。

 それと敢えて言うなら、肌がしっとりというかすべすべというか、昨日の俺とは違う。きっと。柔らかさが段違いだ。男にありがちなあの少し硬めの肌感覚ではない。小学生の時に自分で触っていたふにふにの二の腕のような……。

 俺は自分の違和感の答え合わせをするように、ゆっくりと自身の胸部を触ってみた。すると……効果は劇的だった。

「あぁんっ!」

 一瞬、先日夜のお楽しみの為にヘッドホンで見た動画を思い出してしまった。それほどの艶やかな嬌声きょうせいを耳にする。発生源など言わずもがな。俺自身の喉だった。

 そして、その触れた胸部はと言えば、小学校の二の腕の倍くらいの柔らかさでもって、握りこぶしくらいの大きさの、間違いなく昨日までの俺には搭載されていなかった部位が、そこに鎮座していた。

 思わず下を見たが、これまた可愛らしいパジャマを着ており、自身のカップのサイズに関しての詳細までは分からないが、今までは足元まで見えていたはずの景色が、この胸部パーツによってその部位より下が見えづらくなっていることも、俺にとっての衝撃の一つだった。

 包み込まれるような柔らかさを感じて、至福の時間を得る。

 だが、俺の股間は全くと言ってよいほど反応しなかった。

 なぜだ!?

 童貞の俺がこんなに本物を触っているといいうのに!?

 そしてさっと手を添えにいこうとしたが……当然、そこにはあるものが、なかった。

 俺は、見ず知らずの女性に、それも恐らくだがこの部屋の主である女子高生になっていた。


 人間、有り得ない状況に陥ったら、どうするだろうか。

 普通の人間ならば、気が動転する、パニックになったり、あるいはそれから冷静になって、現状把握に務め、その状況からどうすれば元に戻るか、というルートを選択するのではないだろうか。

 しかし俺は、多少の動転をしつつも今の状況を一言で表すと、こんな気持ちだった。

『ラッキー』と。

 昨日までの俺を考えると、二十代をだらだらと特に意味も無く過ごしていたほぼほぼ引きこもりの童貞自宅警備員である。残念ながら。

 あの何も進展しないどうしようもない人生よりも、間違いなく今の方が楽しそうではなかろうか。

 もっとも、この身体の本来の持ち主である彼女からすればたまったものではないだろうが、別に俺が願ってこの身体になった訳ではないし。

 そう……これは偶然。ラッキー。星のお導きである!

 という訳で、まあとりあえず今出来ることをしよう。

 つまるところ、彼女に成り代わってみようということだ。

 いや、成り代わるというより、彼女の現状を把握しつつ、最悪、彼女と再度入れ替わったとしても、また彼女が楽しい日常を送れる程度には、擬態してみようではないか。

 なるほどなるほど、これはちょっと面白そうかもしれないぞ。


 そうしてひょんなことから、俺の女子高生としての生活が始まった。


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