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ゼーネフェルダー公爵の罪

「それ、は……」


ステラは言葉が続かなかった。

狼狽えて黙り込む娘に、デーヴィドがハッキリと言った。


「お前は、何もしなかった。ただ享楽を貪り、贅沢を享受し、ヴィクトワールという国を食い潰した。だが……お前を養子にした私にも責任がある。私が、使用人任せにせず、自らの目で見定めるべきだったのだ。そうすれば、今のような状況を招いていなかっただろうと、そればかり考えている」


「酷い!!お父様は、私なんかを娘にしたくなかったということ!?」


ステラはますます泣いた。

デーヴィドの言葉は、彼女を深く傷つけたようだ。

想像もしていなかったと言わんばかりにステラは顔を覆って泣き出した。

そんな彼女に、デーヴィドはため息を吐いた。


「……そうだね。あの時、自分の目で見て選ぶべきだったと、常々後悔しているよ。そうすれば……シャリゼは死なずに済んだろうに」


シャリゼの母、アンヌは、シャリゼの処刑を知ると、ショックで倒れてしまった。

精神的に不安定になり、気が塞ぎがちになった彼女を心配して、デーヴィドは亡命を決意した。


ヴィクトワールで生まれ育った、生粋の貴族の彼が、国を捨てるのだ。

それはとんでもない決心が必要だった。


しかし、元はといえば、自分がステラを家に入れたのが全ての始まり。

今の状況を招いたのは、自分だ。


デーヴィドは深い自責の念に囚われていた。


ステラは、しゃくりあげながら父を責める。


「…………酷い。どうして、そんな酷いことを言うの?お父様は、やっぱりお姉様の方が大事なのね……。お姉様が処刑されたのは私のせいじゃない。お姉様が悪いことをしたから裁かれたのよ。それなのに、どうして私のせいにするの?」


ステラは、何も分かっていない。

あまりにも、世の中を知らなすぎた。


デーヴィドは娘をちらりと見たが、もう彼女に答えることはしない。

代わりに彼は使用人に視線をやった。

すぐに、主人の意を受けた使用人が、控えめにステラに話しかける。


「王妃陛下、裏口までご案内いたします」


「嫌!!嫌よ!!私はここにいる。ここに残るの。あんな、いつ落とされるかわからない城になんて戻るものですか!!」


ステラは怒鳴って、地団駄を踏んだ。

ヴィクトワールでもっとも高貴な女性の仕草とは思えず、使用人が戸惑った。

デーヴィドは冷たい眼差しを彼女に向ける。


「構わないが、私たちはもうここを出る。そうすれば、城よりずっと早くに彼らに捕まることになるが?」


「ここを……って」


ステラが目を見開き、絶句する。

だけどすぐに、思い至ったのだろう。


彼女はデーヴィドに食ってかかって叫んだ。


「まさか、亡命するの!?私も連れて行って!!ねえ、いいでしょう?ひとりくらい増えても!!お父様は私を見捨てなんかしないわよね!?」


「王はどうする?」


王妃が逃げたと知れば、批判の先は王になるはずだ。

自分のせいで愛しい恋人が酷い目に遭うなど……ふつうは躊躇うだろう。


だけど、ステラはあっさりと恋人を切り捨てた。


「そんなの知らないわ!あのひとは生まれながらの王族だもの。責任ある立場でしょう?それなら、ヴィクトワールのために死ぬのは本望なはずよ!!」


興奮のあまり、ステラの目は瞳孔が開ききっていた。

もしかしたら、ここ最近の不安や恐れを和らげるために、精神安定剤を乱用しているのかもしれない。

それくらい、彼女の様子はおかしかった。


「ねえ、お願い!私を助けて。連れて行って。ここから出して!」


「ステラ」


「嫌よ、絶対に嫌なの!お姉様みたいに処刑されるなんて──」


「いい加減にしないか!!」


ついに、デーヴィドは怒鳴った。


デーヴィドにとって、シャリゼは血の繋がる唯一の娘だ。


シャリゼの処刑だって、理不尽なものだった。

でっち上げた(・・・・・・)王弟ノアとの不貞行為。

重税に苦しむ民の不満の矛先にされ、シャリゼは処刑されたのだ。


それらを画策したのがステラだとは思わない。

彼女にそこまでの頭はないからだ。

だけど、神殿の企みに気付きもせず、ただ、自分が愛するひとの妻になりたいからという理由だけで姉を追い詰めた。

それは、許せることではなかった。


怒鳴りつけたデーヴィドに、ステラはヒッと悲鳴をあげた。


「今すぐ出ていきなさい。さもなくば、門の外の民衆にお前を突き出す」


「っ……」


恐怖のあまり、ステラは声が出なくなった。

顔面蒼白になって震え出す彼女に、ふたたびデーヴィドは言う。


「早く行きなさい。これが最後の忠告だ」


デーヴィドには責任がある。


ステラを迎え入れた父として──たとえ、血の繋がりはなくとも、彼女を養子に迎えたのは、デーヴィドだ。

だから、自分にはステラ()を導く責任があると彼は考えていた。


しかし、それもここまで。


何しろ、ステラはひとの話を聞かない。

何を言っても、無意味なのだ。


ステラにとって、この最後の対面は彼女にとってのラストチャンスだった。

しかし、それを彼女自身がフイにした。

もはや、彼女に助かる術はない。


ステラに言ったとおり、もし、彼女が今までのことを反省し、悔い改める、生まれ変わってみせるとそう言うのなら、彼も手を貸したかもしれなかった。


しかし、ステラはどこまでも自分勝手な、自己保身の強い女だった。


デーヴィドは、ステラを見限った。



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