クリスマスのキセキ
もう一度、ここに。やっと辿り着いたここは、行きたかった所なのか今となってはもう分からない。気が付けば一人、真っ白な世界に取り残されていた。
吹雪で視界が良いとは言えないが、正面は少し丘になっていて、真っ白な毛布を被った木々が隙間から針のように尖った深緑の葉を覗かせているようだ。そして振り返った後ろには、道ができていた。所々ぐねぐねとゆがみつつもここに、僕がいる所へと、繋がっている2本の線。それは僕と共にいた君との繋がりを表しているようだった。
出会いはいつも偶然で。そして終わりはいつも突然だった。誰にでも愛想が良い君は、きっと今も、僕が見えないどこかで笑っているのだろう。それでも、幸せなら構わない。僕は君の笑顔を忘れないという願い、それだけ叶えば良いのだ。たまに見せる、人間らしい温かい笑顔を見せられる人に、君は出会えているだろうか?
僕の視界から君が映らない日々は、もう随分と経つだろう。それなのに、僕の想いはあの日から止まったまま、薄れることも強まることも許されない。君の幸せを本当に願うのなら、僕はこう思ってはいけない。そんな気がしてならない。
だがしかし、想わずにはいられなかった。
もう一度だけ、君に会いたい。
そしたら今度は、君を泣き顔のままで別れたりなんてしない。
吹雪がより一層強くなって光も消え、視界いっぱいに灰色しか見えなくなった。一瞬僕の瞳に、うっすらと臙脂色が映った気がした。そういえばあの日も、君がよく似合う赤色のコートを着ていたっけ。吹雪がぴたりと止んだかと思うと、そこは遊園地に変わっていた。
目の前に君がいる。いつも笑顔しか見せないのに、今はぽろぽろと涙が零れ落ちて、僕の頬に伝っている。珍しい光景に驚きつつも、やっぱり本当の笑顔が一番似合うなとのんびり感じていた。そう、これはあの日ーー君と僕が一緒にいた最期の時間だった。
ああ、きっとこれは、誰かが僕を哀れんでした施しなのだろう。サンタからのプレゼントと言うには、あまりにも酷いだろう。もう一度、君と別れなければいけないのだから。それでも、雪景色に長い間囚われた僕には、十分過ぎる程の恩恵だ。例え自己満足と言われても構わない、ずっとしていた後悔を今。
「ねぇ、いかないで……死んじゃ嫌だよ」
いつもは冷静沈着なのに、君は人目もはばからず泣き叫んでいる。震える声を押し殺して、僕はいつものように陽気に話しかける。
「ずっと愛してる。ねぇ、笑って?」
僕はできる限り微笑みながら、震える手を伸ばして君の頬を伝う涙をそっとぬぐった。
一瞬驚いたかと思うと、彼女はふにゃっと僕の大好きな温かい笑顔をした。