怪我の功名
続きです。
「いてて・・・・・・」
視界の中、パラパラと土が舞う。
危うく生き埋めにでもなるかと思ったが、幸いわたしたちは今現在も日の光を拝めている。
あのモグラの通り道だったのかもわからないが、わたしたちが落下した先はどうも空洞になっていたようだった。
だから数メートル落下したものの生き埋めにならずに済んでいる。
まぁそうは言っても、それが偶然であったのは言うまでもないのでわたしとシュルームの行動はやはり迂闊だったと言うしかないだろう。
「シュルームは・・・・・・? 大丈夫?」
打ちつけた腰をさすりながらシュルームに尋ねる。
そのシュルームはと言うと、わたしの心配はよそに立ち上がって辺りを見回していた。
「コーラル、見てください。この空洞内、草が生えてます」
「草って・・・・・・それがどうしたのさ・・・・・・?」
シュルームの言っている意味がよく分からないまま、とりあえずその様子を見てみようとヨタヨタ歩いていく。
しかしそれはシュルームによって制止された。
「待ってください。あまり動き回らないで。この状態を不用意に崩したくありません」
「だから・・・・・・その、つまり・・・・・・どういうこと?」
動くなと言われちゃ仕方ない。
上げた脚を下ろすのさえ自重して、中腰の変なポーズで固まる。
半分ツッコミ待ちだったが、シュルームはそれには触れずにわたしの疑問に答えた。
「ここは地中、本来草は生えないはずです。しかしこの空洞には草が生えてます」
「そんなの・・・・・・この空洞が出来てから生えたんじゃないの?」
「いや、それはないと思います。上・・・・・・さっきまでわたしたちの居た場所ですが、掘り返されたと思われる土は湿っていました。つまりまだ掘り返されて日が浅い可能性が高いです。そうでなくても、ここに生えている植物は地形の変化の後に生えたにしては育ちすぎています」
「はぁ・・・・・・」
シュルームは何やら早口で捲し立てるが、やはり結局どういうことなのかよく分からない。
ただその興奮した様子から、たぶんシュルームにとっては喜ばしい状況なんだろうなというのは察せられた。
「ですから・・・・・・! つまり、ここ・・・・・・わたしたちが今立っている場所は! 地形が変わる以前の地面だった可能性があります! モグラが掘り進むことで空洞が出来、そこに元の地面が奇跡的に綺麗な形で崩落したんです!」
「ええ? でもそしたら・・・・・・なんでこの空洞が剥き出しになってたのさ。要はシュルームの考えだと、蓋が底に落ちてきたみたいな状況になってたってわけでしょ? けどわたしたちが来たときには、この空洞に蓋がされてた。仮に横側とかに積もってた土が崩れた・・・・・・とかだったりしても、それだったらこの空洞は埋まってないとおかしいじゃん」
どう考えても、元の地表が空洞内に落下してその後土が蓋をしてここを再び空洞にしたという状況は不自然。
やっぱりこの空洞は単純にモグラが掘ったトンネルなんじゃないだろうか。
「う・・・・・・それは、確かにそうですけど・・・・・・。でもでしたら、ここにこんなに植物が育っていることの辻褄が合わなくなります。だからきっと・・・・・・こう、草の根が上手く絡み合うみたいなことが起きて・・・・・・それで空洞内に土が傾れ込むことなく空洞を維持したまま屋根のようになったんですよ・・・・・・!」
「そ、そんなこと・・・・・・ある・・・・・・???」
「だからこの状況は奇跡的なんです! そしてここが以前の地表なら・・・・・・あるはずです」
「あるって・・・・・・何が?」
「何がってあなた・・・・・・キノコですよ! キ・ノ・コ! 元々それを探しに来たんじゃないですか!」
「あっ、そっか・・・・・・」
ここはサチに「キノコの在り処」として案内された場所だ。
そしてその土壌が原形をとどめているということは、そのキノコもここにあるということになる。
そして、そのキノコの有無がシュルームの仮説の答え合わせにもなるだろう。
キノコがあれば、少なくともシュルームの考えは正しいことになる。
そして・・・・・・。
「あった! ありました!! 間違いありません! わたしの見たことのないキノコです! やっぱり・・・・・・ここだったんです!」
そう長い時間は要さず、答えに辿り着く。
狂喜乱舞するシュルームの方に駆け寄ると、傘の小さな細長いキノコが密集して生えていた。
しかも、その数はなかなかのものだ。
今見つけた場所を起点として数メートルに渡る範囲にまるで絨毯のようになって地面を埋め尽くしていた。
「これ・・・・・・全部・・・・・・?」
「ええ、全部同じ種類のキノコですね。パッと見ですが」
「じゃあ・・・・・・結局シュルームの推測が正しかったのか・・・・・・」
別に勝負ってわけでもなかったけど、ちょっと悔しくて「ちぇー」と唇を尖らせる。
「まぁでも見つかったんならよかったよ。ほら、それじゃ早いとこ採って帰ろ。わたしお腹空いたよ・・・・・・」
これで、事前に言ってた目的は全て達成だ。
まぁなんだかんだいい一日にはなったんじゃないかと思う。
もうすっかりやり切った気持ちで、そのキノコを収穫しに行く。
しかしその歩みをシュルームが手で制した。
「おっ、と・・・・・・」
「待ってください。一応毒キノコってことですから、慎重に扱わないと。やたらに刺激してしまったら・・・・・・」
「ちょ、待っ・・・・・・マズいかも・・・・・・」
急に歩みを止めたものだから、体の重心が傾く。
前につんのめりそうになって、それの制動が・・・・・・上手く・・・・・・。
「もう、大丈夫ですか? まったく・・・・・・」
「あ、ありがと・・・・・・」
不安定なわたしをみかねて、シュルームがわたしの手を取る。
そうしてなんとかわたしは転倒せずに済んだ。
「いやはや、面目ない・・・・・・。ふふ、でもいくらわたしでも流石にこんなところで転ばな・・・・・・」
ズルッ・・・・・・。
前のめりになっていたわたしの体重を支えていた脚が、その爪先が・・・・・・半ば土に潜り込むようにして、滑る。
「あ・・・・・・」
「コーラル・・・・・・嘘でしょ・・・・・・」
始まってしまった“それ”はもうどうにも歯止めが効かない。
わたしもシュルームも。
視界が傾く。
わたしの足の裏が、完全に地面から離れる。
キノコの密集した地面に吸い込まれるように・・・・・・。
わたしは滑り転んだ。
手を繋いだシュルームも巻き添えにして。
危機を察知した本能が時間をゆっくりに感じさせる。
どうにかしてみろと、わたしの体に指示を出す。
だがもう・・・・・・。
無理だ。
体が間に合わない。
「バカ・・・・・・」
シュルームがぼやくのを聞きながら、キノコの絨毯に倒れ込む。
幸いそんなに痛くない。
湿った土の感触が全身に伝わる。
ただ、問題なのは・・・・・・。
わたしたちの転倒の衝撃によってか・・・・・・そのキノコの、毒の胞子が吹き上がった。
続きます。




