サチ・シックス
続きです。
菌糸の森、入り口付近。
ダンパーティ一行は“繭”を目指して森の中を進んでいた。
あの時の少女を先頭に。
「それにしても・・・・・・どうして俺たちを案内してくれるんだ?」
ダンが少女の背中を追いながら、少女に尋ねる。
繭の処理にはダンたちの実力とは天と地ほどの差がある凄腕のパーティが集められて駆り出されることになっている。
それなのに討伐隊が出陣する前にダンたちは少女の案内のもと繭に向かっていた。
少女は迷いのない足取りで進みながら、振り向くこともせずダンの言葉に答える。
「別に、家族を助けたいっていうあなたたちの願いが私にとっても都合がよかっただけです。繭については私も関心がありますし、可能ならまだ生きているうちに色々と調べたいんです。見つけたときは私一人でしたから、迂闊に近づけなくて・・・・・・」
「がくせーっていうのも、中々ヘン人ですねぇ・・・・・・」
「というか、そもそも・・・・・・本当にただの学生?」
ダンの後ろに更に続くシュルームとプルーム。
二人は少女の言葉を聞いて、その正体に考えを巡らせていた。
少女はその声が聞こえているが、直接聞かれているわけでもないので別段答えない。
二人の疑問を汲む形で、ダンが代表して少女に尋ねる。
「なぁ、あんた・・・・・・結局何者なんだ? ギルドの管理人があんたの姿を見るなり目の色を変えていた。なんか、やっぱり・・・・・・それ相応の身分なんじゃないのか?」
少女は軽いため息の後、仕方ないといった風な様子で答える。
「私は・・・・・・本当にただの学生ですよ。ただ、真理の庭が直接運営する学校の生徒ってだけです。ギルド管理人も、制服を見て察したんでしょう。真理の庭はあらゆる面において最も信頼できる組織ですから、だから単なる学生の私がその名前を振りかざすべきじゃないんですけど・・・・・・結果的にはそれに近い形になってしまいましたね」
言い終わると、少女は再び小さくため息を漏らし、そしてメガネの位置をクイと正した。
「随分真面目だね。・・・・・・ところで、出会ったばかりとは言えお互いに命を預けるんだ。キミの名前・・・・・・聞いてもいいかい? ボクは基本的には人のことを名前で呼びたいからさ」
素性の次は、名前。
プルームが、女性を口説くときの他所向けの声色で尋ねる。
少女はそんなプルームにはまるで関心を示さず、振り向きもせず淡々と答えた。
「サチです。サチ・シックス。別に覚える必要はありませんよ」
プルームは頭の中で数回その名前を転がす。
それだけでしっかりその名を記憶に定着させ、微笑みながら頷いた。
「いや、覚えたよ。サチ、だね。ありがとう」
繭のあるポイントまではまだ遠い。
サチとダン一行は、互いの目的のために湿った土の上を歩いて行った。
続きます。