慈光
続きです。
「お兄ちゃん・・・・・・!」
ドラディラがどこかに去ったのを見届けると、あたしはすぐにお兄ちゃんの元へ駆け寄った。
本当はドラディラの行方も追わなければならないのだろうけど、あの傷ではもうどこへも行けないだろう。
それに・・・・・・あたしの戦いは、もう終わった。
「とにかく・・・・・・もう、せっかく助けに来たんだから死なないでよねっ・・・・・・」
ドラディラは人質の命など最初から気にも留めていなかったようで・・・・・・その傷は深い。
意識も今は無いみたいだ。
両肩に突き立てられた剣は・・・・・・今引き抜いてしまっていいのだろうか・・・・・・?
だが結局・・・・・・。
「だめか・・・・・・」
今の疲れ切った体では、深々と刺さったその剣を抜くことはできなかった。
お兄ちゃんの体はともかく、樹木から引き抜けそうにない。
剣聖を極めると剣を断ち切るくらいもわけないらしいが、生憎あたしはまだその領域に達していない。
「まいったな・・・・・・」
せめてあたし自身の力でこの森から出ないとなのに、今はもうそれすら現実的じゃない。
戦いが終わって、一度その緊張の糸が弛んでしまったら・・・・・・もう手足に力が入らなかった。
疲れ切って、お兄ちゃんの横に座って空を見上げる。
その穏やかな空模様とは裏腹に、あたしの内心は焦っていた。
あたしは休めば回復するだろうけど・・・・・・お兄ちゃんの場合はそうじゃない。
時間が経てば経つほど、その命は血液と共に流れ出していく。
それなのに・・・・・・。
「ああ、もう・・・・・・」
最後の一仕事が、どうしてもあたしの手ではできそうにない。
視界に青空の光が滲んで、意識が朦朧とする。
どれだけ抗おうとも、その眩い光は頭の中まで広がっていって・・・・・・あたしの瞼はゆっくりと下りてくる。
自分の浅い呼吸音が耳に張り付いて、それが今は子守唄のようにさえ聞こえてしまう。
そして、あたしの瞳が完全に閉じ切る前に・・・・・・あたしの意識は陽光に溶けるように眠りに沈んでいった。
続きます。