合流
続きです。
「ただいま〜」
教会からパン屋に戻ると、二人の視線がわたしを出迎えた。
「おかえり。どうだった、コムギの様子は?」
「んーと・・・・・・思ったよりは大丈夫そうだったよ」
ラヴィの言葉に答えながら、店の中まで進む。
ナエギは相変わらず元気なさそうだった。
それを見かねて、ナエギにも声をかける。
「たぶんだけど、コムギもうナエギとは会えるよ。本人はまだ不安みたいだけどさ」
「・・・・・・そうか。ありがとう・・・・・・」
もちろんこれだけの言葉でナエギが元気になるようなことはない。
そう単純じゃないのだろう。
ただ、いちおう人前ってこともあるからなのか、一目で作られた表情と分かるが微笑んでいた。
なんだか、そんな顔されてしまうと逆に気を遣わせてしまったみたいで申し訳なくなる。
「さて、コーラル。私たちもいつまでも邪魔してちゃ悪いから、そろそろ失礼しようか」
「うん、分かった・・・・・・」
ラヴィもラヴィで、ナエギと何か話したようで、もうここにはやり残したこともないようだった。
ラヴィは「それから・・・・・・」と続ける。
「・・・・・・それから、帰りがけにギルドに寄って行こう」
「ギルド・・・・・・? いいけど・・・・・・なんで?」
「コムギを襲った犯人が指名手配されてるっていうから、私たちも顔を覚えておこうと思って。後、それから・・・・・・とりあえずしばらくの間この家に護衛をつけられないか頼んでみようと思う」
「護衛・・・・・・?」
ラヴィの言葉に疑問を呈するのはナエギだ。
ただその疑問を口にする過程でその意図は察したようで、訝しむような表情は一瞬で消えた。
ラヴィはそれに気づきつつも、念を押すように頷く。
「念には念を、ね」
「そうか・・・・・・そう、だな・・・・・・」
ナエギは一瞬何かを考える素振りを見せたが、結局ラヴィの言葉を受け入れた。
わたしたちはナエギを一人残し、パン屋を後にする。
そしてそのつま先をすぐさまギルドの方へ向けた。
教会までの道のりと比べればだいぶ慣れ親しんだギルドへの道。
加えて、ラヴィが一緒なのもあって、到着まではほとんど一瞬のように感じられた。
ギルドのクエストボード。
いつもたくさんの依頼が張り出されてるその掲示板の右下の隅に、その指名手配書は貼られていた。
「ドラ、ディラ・・・・・・。有名な人?」
「他の街ではね。パシフィカではこうやってことが起きてからやっと周知されたよ」
「ほぇ〜・・・・・・」
あまり人の顔を覚えるのは得意な方ではないが、さすがに“指名手配犯”という背景が加わるとその人相は印象強く脳裏に焼きつくのだった。
猛禽類のように鋭い目つきに、カラスの羽みたいに黒い髪。
いわゆる似顔絵にすぎないのだが、おそらくなんらかのコードを用いて描き上げらているであろうそれは、本人がそのまま紙に閉じ込められているかのように写実的だった。
その後、ラヴィと一緒に受付に向かい、護衛の件を頼んでみると・・・・・・こちら側の状況を鑑みて二人の守衛をタダでつけてくれることになった。
もしかしあらわたしとラヴィの顔が効くようになってきたのもあるかもしれない。
そして、このまま家に帰る前に一つ・・・・・・ラヴィに言う。
「ごめんだけどさ、ちょっとわたしこれから行かなきゃなんない場所あるからさ・・・・・・ラヴィは先帰ってていいよ」
「え・・・・・・そうなの?」
わたしの突然の言葉に、ラヴィがやや訝しげな表情を浮かべる。
「いやまぁ大したことじゃないんだけど・・・・・・ちょっとね」
「ふぅん・・・・・・?」
わたしの用件を当てようとラヴィはしばらく思索するが、それを経てとりあえずは追求しないでおくことに決めたようだった。
いやまぁ別に全然話せないこととかじゃないんだけど、びっくりするかなって思って・・・・・・。
そんなこんなで、わたしはラヴィに謎とも言えないような謎を残して別れる。
ラヴィは家に、そしてわたしは・・・・・・再び教会へ。
さっき行ったときに持ちかけた話の答えを、コムギに貰いに行くのだ。
続きます。