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難航のち光明

続きです。

 面接を始めてどれくらい経っただろうか。

こんな経験なかなかあることでもないだろうが、そういった意味でのありがたみはそれほど強く感じなかった。

それにしても・・・・・・来る人来る人どれも一癖ある人ばかりだ。


 もちろん、わたしたちだってそれほど選り好みしているわけじゃないはずだ。

なのに・・・・・・こう、いまいちパッとしないというか、クセの強さの度合いでいったらパッとしすぎているというか・・・・・・。

ともかく、状況としてはあまり芳しいとは言えなさそうだ。


 ダンは省くとして・・・・・・三人目にやって来たのは、トカゲの獣人のリサさん。

経験豊富そうで、いわゆるサバイバルスキルなんていうものに関してはなかなか精通しているらしく初めは頼りになりそうだと思ったのだけど・・・・・・。

どうにも愛妻家がすぎるみたいで、口を開けば惚気話。

別にそれが悪いってわけじゃないんだけど・・・・・・聞かされる身としては控えめの方が好ましい。

それに・・・・・・単純にお子さんたちの面倒を見るのに忙しくて頻繁にこちらには顔を出せないかもしれないということで、まぁわたしたちのパーティメンバーとしては不適当だろう。


 四人目・・・・・・というか、四人目と五人目。

やって来たのは双子の姉妹、ノワールとブランだった。

コードには目覚めているようだけど、わたしたちより更に一回り歳下。

それで自信過剰なものだから・・・・・・ちょっと危なっかしい。

おまけにまたリクガメとは違ったタイプなのだけれど少し意思の疎通が難しいというか・・・・・・言葉遣いが独特で、結局まぁ背中を預けられるようには思えなかった。


 そして七人目。

セイロンという名のアナライザーの少女だった。

アナライザーといったらパーティを結成するとしたらぜひとも欲しい存在だ。

アナライザーなら知り合いにサチが居るじゃないかってなるけども、彼女は学生だしそもそもいつまでパシフィカに居るか分からない。


 さて、そんなアナライザーなセイロンだったのだが・・・・・・。

言葉の節々から滲み出る「いいところのお嬢様感」がすごいのだ。

本人は隠してるようだったけど、その隠してるっていうのがどうにも扱いづらい。

いや、推測の域は出ないのだけど・・・・・・たぶんお家の方には無断で冒険者稼業に足を突っ込もうとしてる。

因みにこれはわたしの推測じゃなくてラヴィの推測だから・・・・・・それなりの信憑性があるだろう。


 アナライザーが欲しいことは欲しいし、セイロンさんの知識量についてももはや疑いの余地はない。

が、諸々を考えると・・・・・・やはりわたしたちの手には負えなそうというのが結論だ。


 その後も志願者は途切れずに次々とやって来る。

わたしたちも流石に慣れて来て、もう初めのような緊張感はなかった。


 だんだんと、回数を重ねるごとに「面接」はポイントをチェックしていく「作業」に変わっていく。

たぶんほんとはよくないんだろうけど、結局素人の面接なんてこんなものだ。


 そして・・・・・・。

だからだろうか・・・・・・。

いや、だからってわけじゃないのだろうけれど・・・・・・。


「・・・・・・」


 気を紛らわせるように踵を持ち上げて爪先を引く。

じわりと滲んだ汗が背中を伝う。


 気がつけば、この面接はいつ終わるのだろうかと、そういうことばかり考えている。

この時間の終わりのことだけ考えてる・・・・・・と言ったら、いいかげんこの作業に退屈して来たのではないだろうか、とそういう風にも思えるだろう。

だが、今の場合は事情が異なる。


 既にラヴィもわたしの状態に気づいているようで、時折様子を気にしてはいる。

しかし志願者の手前こちらの話をするわけにもいかず、そのタイミングを掴みかねていた。


 そしてやっと・・・・・・志願者の流れが途切れる。

もちろんそれは終了を意味するわけではなく、ほんの雲の切れ間のようなものだ。

だが・・・・・・。

長い時間の末“それ”は既に逼迫している。

大袈裟かもしれないが、一刻の猶予を争う・・・・・・と言っても過言ではない。


 ラヴィには既にバレているとはいえ、やっぱり自分で申告するとなるとどこか恥ずかしい。

完全に自業自得だし。

わたしの振る舞いが招いた・・・・・・予定調和の結果。

すなわち・・・・・・。


「ら、ラヴィ・・・・・・そのぉ・・・・・・」


 自信なさげに、申し訳なさそーに、ラヴィに向かって斜めに視線をスライドさせる。

そして・・・・・・。


「えっと・・・・・・お、おしっこ・・・・・・漏れそう、です・・・・・・」

「・・・・・・」


 ラヴィは口に出しこそしないが「やっぱり」という顔をする。

そうしてすぐにわたしを急がせた。


「ほら、いいから早く行って来な。まだいつ終わるか分からないんだから、今のうちだよ」

「う、うん・・・・・・」


 正真正銘このタイミングだけ・・・・・・とは言わないまでも、面接が完全に終わるまではトイレに行けるタイミングは次いつ訪れるかわからない。

だから今すぐに行ってさっさと済ましてくるのが最も現実的なのだ。


「うぅん・・・・・・あと一人なんですけどね、どうしたんでしょう・・・・・・」


 ところが、名簿のようなものをめくって確認していたシープがそう呟いたことで状況が変わる。


「え、あと一人・・・・・・?」

「・・・・・・ええ、はい。あと一人ですね。ほんとならもう来てるはずなんですけど、なんだか遅れてるみたいですね・・・・・・」


 あと一人・・・・・・。

あと一人・・・・・・か。


 面接と言えども、わたしたち素人の真似事だ。

一人当たりの時間はたぶん十分もかからない。

ならば、全部しっかり終わらせてからトイレに行ってもいいかもしれない。


「コーラル、悪いことは言わないから行ってきなって・・・・・・」

「はっ・・・・・・!」


 ラヴィに言われてハッとする。

現在最後の志願者が到着してない以上、このタイミングにトイレに行かない理由というのはどこにも無い。

なんで言われるまで気づかなかったんだよ。

それは置いておいて、一瞬謎の逡巡が発生してしまったがこの場合における最善手は明白だ。


 ラヴィの言葉に背中を押されて、椅子を立って勢いよく出口へ向かおう・・・・・・としたらわたしの出口も勢いよく開門してしまいそうだったので小走りでドアに向かった。


「そ、それじゃちょっと行ってくる! すぐ戻るから!」


 椅子から立って体が縦向きになったからだろうか、膀胱に溜まった液体の重さを如実に感じる。

気にしないようにしていたけどやっぱり相当に我慢していたようで、椅子からお尻が離れることで初めて下着の中が汗まみれになっていることに気づいた。


 こもっていた熱が散逸して、それに比べたら冷たい外気がスーッと太ももの内側を撫でる。

その瞬間、ゾワッと鳥肌が立ち脚と脚の間にある空間が妙に頼りなく感じた。


 これは本当にまずそうだ、と急いでドアノブに手をかける。

するとわたしが回すまでもなくそれは手のひらの中で勝手に回り、そしてわたしの意思とは関係なくドアが開かれた。


「え、あ・・・・・・え?」


 困惑するわたしの前には、赤い髪をした男の人。

真紅の鎧に身を包んだ爽やかな青年が、そこに立っていた。


「イケメン・・・・・・」


 尿意のことも忘れて、その青年の顔を見上げるなりボソッと呟く。

青年は走ってきたのか少し乱れていた呼吸を整えて言った。


「遅れて済まない。これは・・・・・・間に合った、という認識で大丈夫かな?」

続きます。

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