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美少女ゲームの悪役に転生してしまった俺がヒロイン達のバッドエンド行きを阻止したら惚れられまくった話

作者: 炬燵布団
掲載日:2026/05/10

 突然だが、俺は転生というものをしたらしい。


 いきなり何を言ってるんだコイツ、思うかもしれないが、まあ、聞いてくれ。


 ある仕事帰りの夜、ブラック企業の働きづめから来る疲労にて、通勤途中で遂に力尽きてしまった俺は、気付けば知らないベッドの上で目覚めた。


 部屋を見回した後、べランダに出て、自分が寝ていた建物を確認すると、そこは俺が住んでいた安アパートではない、いかにも富裕層が住んでいますといった感じの高級住宅。


 とりあえず、冷蔵庫の中にあったコンビニ飯をかっ食らいながら、頭の中に浮かび上がる記憶(思い出したといった方が正しいかもしれない)を必死に繋ぎ合わせていく。

 そうして把握した現状を振り返ってみる。


 まず、葛見衛士――というのが俺の名前。


 鏡に映っている顔は、それなりに顔立ち自体は整っているが、偏った生活を送ってきたのか、やつれた頬に、目の下の隈、加えて染めた金髪と耳ピアスという、いかにも軽薄そうなゴロツキといった感じだ。


 その、どこかで何度も見た覚えのある名前と、もし、あのキャラクターが実写化したら、こんな見た目かなといった容姿。

 もしやと思った俺は、翌朝に同じように見た覚えのある制服を着て、記憶の中の道順を辿り、学校に到着して、ようやく俺は確信に至った。


「月夜見御代、陽川晴菜……。すげぇ本物かよ……!」


 朝の登校風景、幾人もの学生らが校門をくぐっていく中、その中で特に目を引く二人の少女がいた。

 彼女らを見た俺は思わず感動で涙ぐむ。


 黒髪を腰まで伸ばした美しい少女が歩いていた。

 風に揺られる腰まで伸ばした黒髪から覗かせる美しい顔立ちは、近寄りがたい印象を周囲に与える。

 彼女の名は月夜見御代。

 その容姿もさることながら、今学年トップの成績を誇る才媛である。


 いかにも仲が良さそうな男女グループの中に一際目立つ少女がいた。

 御代にも負けぬ容姿に加え、サイドテールにした金髪、着崩した制服に、着飾ったアクセ、といかにもギャルといった出で立ち。

 陽川晴菜。

 誰に対しても屈託ない笑顔を向けてくれる、クラス内外問わず多く友人を持つ人気者だ。


 この二人の美少女は、俺が在籍する教室のクラスメイトでもある。

 確信した。……間違いない、ここはゲーム『ラブリングスター!』の世界だ。


 主人公……宙中公孝は平凡な高校生が、ある日を境に見目麗しい美少女たちに囲まれ、彼女らとの青春恋模様を描くというド直球王道美少女ゲームである。


 俺が学生時代に初めてプレイした美少女ゲームだというのもあるが、その賛否別れる展開で様々な意見が寄せられネットで話題となった、今でも印象深いゲームである。


 なんで俺がこの世界にいるのか、疑問こそあるが、心が湧き立つ、しかし、それ以上に新しい問題が浮上してしまった。


「……俺ってこの作品における悪役なんだよなぁ……」


 完全に思い出した。

 この葛見衛士という男。家は裕福だが、両親の仲は険悪で、その己と相手の間に生まれた自分は嫌悪されており、借りたマンションの一室に放り込まれていたのだ。しかも、本人も開き直って、莫大な生活費を元に遊び惚けている……というのがこの俺の経歴である。


 そして、このゲームにおいては、見目麗しいヒロインたちに目をつけては、家の金とルックスをダシにして言い寄るも、あっさりと袖にされるかませ犬である。


 確か、大体のルートでは最後には、教師に捕まり生徒指導、もしくは警察に逮捕されて、最終的には学校も退学処分。両親からも完全に見放されて、親戚筋のツテで山奥の寺にほぼ島流し同然に送られる、という顛末だったはずだ。


「普通なら邪魔な悪役が成敗されてざまぁって言いたい所だが、今は俺がその悪役そのものになっちまったわけだが……。いや、なんでよりによってコイツなんだよ。こういうのって普通は主人公だろ!」


 いや、待て。

 まだ慌てるような時間じゃない。

 悪事を働かなければ、少なくともゲーム本編のような破滅をすることはない……と思う。

 大丈夫だよな?

 シナリオの強制力とかないよな?


「いや、待てよ……?」


 そこまで考えて俺は一つ思案をする。

 このゲームが賛否別れる理由。


 それはバッドエンドの後味の悪さである。

 元成年指定のPCゲームゆえか、どのヒロインも、バッドエンドを選んだ場合、もしくはルートに選ばれなかった場合、エグいバッドエンドが用意されていた。


 なんなら、この葛見が彼女らを寝取るルートもあったくらいだ。


 加えて、主人公である公孝は、基本的に当時では珍しくはない受け身型の主人公で、あえて悪く言えば、トラブルが起こるまで動いてはくれないヘタレなのだ。


 彼女らを全員救うにはハーレムルートしかないが、あのルート、すごい難易度高いんだよなぁ……。

 まあ、今の俺が認識しているのはゲームのような現実世界……だと思う。

 実際にゲーム通りの事が起きるとは限らない。

 むしろ、俺という悪役が一人いなくなる分、主人公の負担も減るだろう……と俺は祈った。


 その一か月後の事である。


「ごめん。俺、他に好きな人がいるんだ……」

「そう……」


 放課後の空き教室。

 公孝の言葉に、月夜見御代は静かに俯く。


「初めて会った時、彼女しかいないって思ったんだ。これが真実の愛ってやつかな」

「……そう」


 御代は静かに相槌を打つだけ。

 俺はそれを教室の外から覗き込んでいる。

 何度もゲームで見た光景だが、こうしてリアルとして改めて見ると、本当に痛々しい。


 それでも一番言辛いであろう彼女はそれをおくびにも出さずに淡く微笑む。


「あなたの幸せを願っているわ」


 そう言い残して、月夜見御代はその場を後にした。


 俺は静かに彼女のあとを追いかける。


「月夜見じゃないか。どうしたんだ?」


 不意に、夕暮れの廊下を歩き続ける彼女を別の誰かが声をかけてきた。


「先生……」


 そこにいたのは太っちょの中年教師である。確か、担当科目は数学だったか。


「随分と暗い顔をしていたから心配になってな。どうしたんだ? 何か悩み事があるなら相談に乗るぞ」


 熱心に語り掛けながら、その教師は御代の肩に手を置き、まるで彼女の身体を味わうかのように肩をさする。

 彼の目は明らかに不穏な光を宿していた。

 しかし、ついさっき失恋して傷心中の彼女はそこまで気が付かない。

 むしろ、どうにでもなれといった感じである。


「そうだ。内緒の話なら、向こうの指導室で話でも聞こうか?」

「わかりました。それじゃあ……」


 そろそろまずいな。


「あー! 先生、セクハラじゃねえっすかぁ!」


 俺はあえて大きな声を出して、二人の間を割って入った。


「く、葛見……⁉ なんだ、いきなり……」


 邪魔をされた教師は一転して、心の底から鬱陶しそうに顔を歪める。

 一方で、俺はあくまで小馬鹿にした風を維持しながら、言葉を続ける。


「いやいや、先生が女子生徒に言い寄ろうとしてるから、俺、止めようとしてるんじゃねえっすかぁ」

「な、何を馬鹿な事を言ってるんだ!」


 平静を保とうとしているようだが、その教師はどこか浮足立った口ぶりだ。

 そうだろうとも。


 この教師は前の学校でも女子生徒に手を正して、懲戒免職になりかけているが、権力者の親のコネを使って、逃れてきた男だ。


「別に言い争ってもいいですけど、このまま泥沼になっちゃって、これ以上はご家族に迷惑かけたくないっすよねぇ?」

「……!」


 俺の親も一応はそれなりに名の知れた富裕層だ。

 実際、ほぼネグレクト状態の俺を助けてくれるかは不明だが、そんなのこの男にわかるはずもない。


「クソッ!」


 毒づき、逃げるように去っていく中年教師。


「葛見……くん? どうして……?」


 ポカンとした顔で、俺を見ている月夜見御代。

 そりゃそうだ。

 俺は学校でも有名な鼻つまみ者だもんな。

 そんな奴が助けに入るだなんて、何があるのかと勘繰りたくもなるだろう。


 やがて、御代は一人得心したように頷く。


「ああ。そういうことね。いいわよ、あなたでも。どこにするホテル? それともさっきの空き教室? さあ、存分に滅茶苦茶にしてちょうだい」

「ちょ……待て待て!」


 目の前の彼女を、俺は懸命に宥める。


「失恋したぐらいで、そこまで自棄になる事はないだろう。もっと自分を大事にしろよ」


「……は?」


 言われた御代は、カチンと来たようで、一転してこちらを睨みつける。


「失恋したぐらいですって⁉ あなたみたいな。いい加減な人間にはわからないわよ!」


 怒鳴られた。……いや、それはそうだろう。


 彼女は両親に言われるがまま、勉強一筋に生きてきた。

 しかし、両親が多額の借金を残して失踪。

 借金を肩代わりしてくれた父方の祖父母は良い人だったのだが、両親に認められたい一心で、勉学に励んできた御代は目標を失い、それでもやめるわけにもいかず、抜け殻のように勉強を続けてきた。


 そんな彼女が、両親以外で、初めて強い情を抱けたのが、宙中公孝である。


 正直、俺みたいな評判の悪い人間にこんな薄っぺらい説教されても腹が立つだけだというのはわかっている。

 ……それでも言うしかなかった。


「まあ、そうだよな。でも、俺からすればあんたみたいな美人ちゃんが、自暴自棄になって堕ちていくのはなんつーか、もったいねえのよ」

「他人事だと思って好き放題言ってくれるじゃない……」


 これで、彼女の怒りの矛先がこちらに向いてくれるなら、それでいい。

 伊達に、前世でブラック上司の鬱憤のはけ口にされてきたわけではない。

 いくらでもサンドバッグになってやろうじゃないか。


「男なんて星の数だけいる」

「美味い飯でも食って忘れろ。いくらでも奢ってやる」

「あ! 別にお持ち帰りしてやろうとか、そういう意図じゃないからな⁉」


 俺はあらん限りの言葉を吐き出す。

 いかんな。

 そろそろ話のネタが尽きてきた。


「……ハァ」


 やがて、御代は溜息をついて、どこか呆れたような目でこちらを見始めた。

 まずい。もっと彼女の気を引くようなセリフを……。


「そ、そうだ。本でも書いてみたらどうだ?」

「えっ」


 俺の苦し紛れに放った一言に、御代は今までとは違う反応を見せた。


 確か、ルート後では、作家を目指して執筆を開始するんだったか。

 公孝の見せ場を奪ってしまっているようで、気が引けるが、アイツは既に別の子のルートへと入ってしまっているようだし、俺が代わりを務めても問題はないだろう。


「本を……書く、かぁ……」


 神妙な顔をして、御代は一人で頷いている。

 手応えを感じた俺はそのまま踵を返す。


「そ、それじゃあ……お元気で」

「あっ、ちょっと……!」


 俺は逃げるように、その場を立ち去った。

 後ろから御代の視線を感じつつも、俺はひたすらに走ることに集中した。


「しかし、結局助けちまったなぁ……」


 こうなったら乗りかかった船だ。とことんやってやる。

 なーに、失敗しても寺で修行するだけだ。

 そういう青春も悪くねえ。


 ――そこから、さらにその一か月後の事。


「俺、他に好きな人がいるんだ……」

「そうなんだ……」


 夕暮れの下校途中、公孝に想いを告げた陽川晴菜はすげなくそう返された。

 フラれた彼女は相変わらずの屈託のない笑みを浮かべる。


「宙中くん、頑張ってね! 君の恋愛、応援してるゼ!」


 ビッと変な決めポーズをしながら、晴菜はその場を足早に立ち去った。

 その目元に涙をたたえて。


 ……一時間後、晴菜は友達を呼びまくってカラオケで歌っていた。


 いわゆる失恋パーティーというやつである。


「チクショー! 次はもっといい男見つけるぞー!」


 一曲歌い終えて、ヤケクソ気味に宣誓する、晴菜。

 それを周りの奴らが、いいぞいいぞと喝采する。


 そうだ。

 晴菜はそこまで心の弱い子じゃない。

 既に彼女は明日に向かって走り出すために、切り替えようとしている


 ……問題は周りの面子である。


「晴菜ちゃん、俺のウーロン茶飲む? まだ口付けてないからさ」

「あ。サンキュー!」


 失恋直後かつ、お人好しである晴菜は気付いていなかった。


 友達を呼んでと頼んだその友人は以前からクラスの中心である己に鬱屈した感情を抱いていた事に。

 そんな彼女が呼んだ周りの奴らが、校内でも素行が悪いと評判の奴らばかりだという事に。


「ふわぁ……、ひとしきり歌ったら疲れちゃったなぁ……」


 晴菜があっけなく寝落ちしたことを確認した男たちはすぐさま獣性を露にする。


「おい。寝たか?」

「へへっ。やっと効いてきやがった。……本当にいいんだな?」

「ええ。滅茶苦茶にしちゃってちょうだい」


 友人面を剝がしたそいつらは、一転して、どいつもこいつも悪意と欲望を浮かべている。


「そいじゃあ、さっそく服を――うぉわあ⁉」


 逸る男の一人が、早速とばかりに晴菜へと手を伸ばした直後――。


 そろそろ我慢の限界が来ていた俺はドアを開いて、押し入った。


「なっなっ、なんだぁ、てめぇ……ひぃ⁉」


 俺は晴菜へと伸ばされていた腕を鷲掴みながら、ギロリと一睨み。


「お前らこそよ。何しようとしてた?」

「ひぃ⁉」


 こういう時はこの悪人顔も便利である。

 掴んでいる奴のみならず、他の奴らも及び腰になっている。


「ウ、ウチらは寝落ちしたこの子を介抱しようとしただけで――」


 その中で、弁明する友人……だった女子生徒。周りの男連中もそうだそうだと頷く。


「そうかい。それじゃあこの動画は何なのかね?」


 俺はスマホの中の撮影画像を見せつける。

 それは丁度、囲い込み、手を伸ばしていた最中であった。

 部屋の外……ドアのガラス部分から撮影したもので、正直ボヤボヤもいい所だが、それでもこんな奴らを揺さぶるには十分なものだ。


「テメェ! それをよこせ――ゴボォ⁉」


 案の定、動揺した奴が暴走して飛び込んできたのを、俺はカウンターに鳩尾に膝蹴りを喰らわせる。


 ……準備してたとはいえ、それでもビックリした。

 ケンカなんて初めてだもんよ。

 今日の日のために、スポーツジムに通って体を鍛えておいて良かった……!


「消えろ」


 精一杯ドスを効かせた俺の言葉を皮切りに、そいつらは蜘蛛の子を散らすように部屋を出ていった。


「むにゅう……ぅん。……ありゃ寝ちゃった……?  あれ……みんなは――って、ええ⁉ あなた誰⁉」


 目を覚ました晴菜はアワアワしながら、辺りを見回している。

 俺は学生鞄を盾に顔を隠し、そのまま後ろ歩きで撤退を開始する。


「お、俺は通りすがりのチャラ男です。どうかお気になさらず」

「は? 何言ってんの?」

「え、えっと……とりあえず男には気を付けましょう! ではっ!」


 自分でも意味不明なことを口走りながら、俺はそのまま部屋を後にした。


「ちょ……待ってよ! えっ? もしかしてここのカラオケ代、全部私が払うの⁉」


 後ろから聞こえてくる晴菜の叫びは無視して。

 マジでごめん!


 ……いきなり飛んで、半年後。


 その後も、俺は覚えている、または察知できる限りの鬱展開フラグに介入して潰し続けた。


 こうして、ようやくひとしきり解決したなって所で、ようやく静かな学園生活を享受し始めた頃、突然屋上に呼び出された。


 相手は、月夜見御代と陽川春奈での二人である。


 ずっと音沙汰ないから、忘れてくれたって思ったのだが、どうやら見積もりが甘かったようだ。

 怖い。すごく怖い。

 感謝されるだなんて思ってはいない。

 なにせ、今の俺は悪役だ。

 ストーリーの修正力により、いきなり断罪される可能性もありえなくもない。


 それでも無視するわけにはいかず、俺は屋上へと向かう。


 ドアを開いたその先には、既に二人が待っていた。


 真剣そのものといった顔で、彼女らは大きく深呼吸する。


 つられて、喉をごくりと鳴らした俺は思わず身構える。


『葛見君、あなたが好きです。付き合ってください』

「――はい?」


 相変わらずの真剣な眼差しの彼女らの唇から紡がれた言葉に、俺は思わずポカンと呆ける。

 ……今、何と言われたんだ?


「あの日、あなたに助けてもらった時から、ずっと観察させてもらっていたわ。あなたがそこの陽川さんのような沢山の人を助けている姿を」


 申し訳ないように語る、月夜見御代。

 マジかよ。全然気づかなかった。


「そうしていたらさあ。今度は気付いたら好きになっちゃったんだよねえ。葛見くんのこと」


 照れくさそうに頬をかく、陽川晴菜。

 全部バレてたでござる。


「失恋した矢先に、別の人を好きになるなんて、我ながら軽い女だと思ったわ。でもね。この想いにケジメはつけないと前へ進めない」


 自虐するように御代は言うが、その眼は真剣そのものだ。


「アタシも同じだよ。どうやって礼を言おうか考えている内に、今度は君のことばかり考えるようになっちゃったんだ。責任とってよ」


 継ぐように、晴菜はからかうような口調で、それでも眼だけは真っ直ぐに伝えてくる。


 いや、いやいやいや。


 何をどう答えたらいいかわからない。


 あくまで彼女らは遠くから愛でる対象だった。

 それが、向こうから好意を伝えてくれる。

 確かにそういう下心が全くなかったといえば嘘になる、しかし実際にこうなるのとでは話が別。


 有り体に言えば、今の俺はヘタレているのである。


 そこへ、いきなり出入り口のドアを開く音が響いた。


「ふ、二人共、待つんだ!」


 現れたのは、主人公である公孝である。

 いや。今さら何しに来たんだよ、お前。


「彼の校内での評判は知っているだろう? 君たちはそいつに騙されている!」


 公孝はビシッと俺を指さす。

 御代と晴菜も困惑しているようだ。


「いや……。あなた私たちのことを振ったでしょう?」


 もっともな疑問を御代は口にする。

 しかし、公孝は特に悪びれる様子もなく、芝居がかった口調で言葉を続ける。


「ああ。そうだ。でも、君たちがいなくなった後、今更ながら皆の大切さ……真実の愛に気付いた! 二人とも、俺と改めて付き合ってくれ!」


 あの後、結局、公孝は全員と恋仲にはならなかった。

 俺はこれを受けて、この世界はゲーム通りではなく、ゲームのような現実世界だと認識した。


 ……真実の愛ってなんだよ!

 というかまさか、こいつヒロイン振りまくって一周して戻ってきやがったのか?


 色々と言いたい所だが、とりあえず、俺は背中から怒気を上げている二人からそそくさと距離をとる。


「さあ、俺たちの新しい日常が始ま――ぶげらばぁ⁉」


 主人公、公孝はぶん殴られた。

 ビンタではない。グーパンで、二人同時に顔面へとストレートである。


「これはかつて好きになった貴方への敬意を込めた手向けよ」

「もっと周りが見えるようになってから出直してきてね。――そうしたらまた友達になろう?」


 倒れ伏す公孝へと向けた二人の言葉を聞いて、思い出した。


 あー、そういやあったなあ。


 全員にいい顔しまくっていたら、見れるバッドエンド。


 他の陰惨な奴と比べて、どこかコミカルだから印象に残ってはずだけど、流石にリアルではないかなと思って、すっかり忘れてた。

 しかし、ゲームでも見たが、現実で見るのとでは臨場感が半端ないな。

 ちょっと感動ものである。


 ……と現実逃避気味に思考していたら、御代と晴菜がこちらに近付いてくる。

 やばい。今度は俺の番か。


「葛見くん、改めて言うわ。あなたが好きよ」

「うん。君が好き。付き合って!」


 二人の美少女に言い寄られる俺。

 だが、俺の視線は二人の後ろ、顔面に二人分の拳の跡を作って気絶している主人公に向けられていた。

 あんなもん見せられて喜べるはずもない。

 ここで選択肢を誤れば、俺も同じ運命を辿る。


 しかし……


「ごめん」


 零れたのは謝罪の言葉。


「ごめんなさい」


 土下座しながら、もう一度。


 恥も外聞もない。


「本当にごめんなさい! あなた方は、どちらも魅力的な女性です! 俺なんかには選べませんっ!」


 我ながらヘタレのクズだとは思うが、こんな返事しか思いつかなかった。

 そもそも俺は彼女らの健全でハッピーな青春恋模様を眺めているだけで良かったのだ。

 決して、自分も加わろうとは……ちょっとは思ってたけど、それはあくまで端役としてである!


 そろそろ、俺も公孝と同様にぶん殴られる頃合いだろう。

 それでいい。今度こそ、この二人にはシナリオという呪縛から解き放たれて、己の人生を自由に歩んでもらおう。

 待ってろ、公孝。俺も今から同じ所へ行く。


 と覚悟を決めて歯を食い縛っていると、なぜだか彼女らは神妙な顔で見合わせていた。


「ねえ。これは脈ありという事かしら?」

「前と比べれば、そうかもね。……つまりは延長戦ってやつだね!」


 彼女らは何を言っているのだろうか?


「そうね。前みたいにその場であっさり切り捨てられるよりはマシよね」

「むしろ、彼にじっくり私たちのことを知ってもらえるいい機会だよ!」


 やがて、二人は満面の笑みでこちらを見る。


『これからしばらくの間どうかよろしくね!』


 彼女らが浮かべているのは、失恋を乗り越えた女たちの強かな笑み。


 思わず俺は青い空を見上げると、腹が立つぐらい澄んでいた。

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