漫画家志望者のドロップアウト
ここは夢と現が入り交じる摩訶不思議空間『現実世界』、今日も今日とて作家志望者さんが小説とか漫画とかアニメとかの作家に成れず、血と汗と涙、死屍累々の地獄を形成するファンタジックな現実世界である!
「ゆめみじ18さーん! 漫画教えて下さいー!」
そこへ現れたのは、ルーキー漫画家志望者の奈二桃内、美術大学生である。
「……え? 何で俺に教えを請うの?」
「だって18さんって、間接的に小説化も漫画化もアニメ化もゲーム化も特撮化も劇場や実写化もしてるじゃないですかー! 何だったら政治家化も!」
「直接じゃないのな! 皮肉かよ!」
この二人は仲が良いように見えて、実は仲が良い。
ゆめみじ18、社会人。ニートでは無い、一応3時間パートで働いている。一応の社会人漫画家志望者である。
この現実世界は無慈悲である、ああ無情!
「お金! お金あげますからー! 18さん何か創作に役立つヒントでも教えて下さいー! 18今貯金ヤバイでしょ?」
「グ! ……、背に腹は代えられん。コレも食べて生きるためだ、悪いな夢! ……で~~~~何を教えて欲しいんだ?」
大体の予定調和を終えたあとに本題に入ることにした奈二。
「ぶっちゃけ、間接的とは言え。どうやったらそんな大ヒット作を生み出せるんですか?」
「本当直接的じゃないの困るんだが……、大ヒットって言うが、どの作品名の事を言ってるんだ?」
具体例を挙げて貰わないと、アドバイスの仕様が無かったのでズバリ! と奈二は言うことにした。
「やっぱ最初だし、ここは【変態うさぎが幻想入り紅】じゃないですか? マザーズ・ロザリオ、水星の魔女、リコリス・リコイルの間接的に原形となっている……!」
凄まじい漫画家志望者のドロップアウトである!!!!
しかし作家たるものタブーのデッドライン地雷は踏み抜かなければ作家たり得ない!!!!
「あーやっぱ皆それ気にするよね……。と言っても、あれ13年前の作品だぜ? 環境も体重も貯金も思想も周りの人の感性も何もカモ違うからなあ~~~~……」
「でもヒット作出しましたし、その後もずっと続いてるじゃ無いですか? 最近だとスパイものとか」
「いや解ってる……! 言いたいことは解ってるんだけど、ヒット作出した後の苦労話の方が聞いて欲しいけどな、個人的には……」
「それ、ルーキー漫画家志望者に話します……?」
「……」
「……」
「仕方ない、優しく教えてやるよ。んーつうても、そこら辺の作家用技術書の言ってる事と変わんないぜ? 起承転結ちゃんとしましょう、とかプロットはしっかりやりましょうとか」
「あいや、そういうのは美術大学なんで教わりました。なので、18さんにしか無い大ヒットの秘奥義!!!! 的なものをですね……」
奈二の現金さに、流石に呆れ返る18。思わずため息も出したくなる。
「まぁ、俺がいつも気にしてるのはテンプレだけどね……嫌う人も居るけど」
「あーなろう小説のどっかに載っけてましたね、型を覚えてソレを【型破り】するのが最強みたいな」
「例えばさあ、〈強大な敵! 圧倒的な戦力不足! 迫り来る世界のタイムリミット!〉とかあったとするじゃん? コレがテンプレだよ」
「ほうほう、ソレを型破りするんですね。私ならこうする! とか」
「そうそう、だから。今の流行りだと、転生・悪役令嬢・追放ざまあ。とかそういう読者が今望んでるネタはしっかり掴んで、その上で俺の性癖を食らえええええええええ!!!! ……てやればいいの、そんだけ」
「性癖……(どん引き」
「ちょっと……、性癖大事よ?」
「でも、それだけだと簡単そうに聞こえますね」
「まあ、そのフェチに読者がブッ刺さってブックマークしてくれるかは別問題だけどさ。当時はともかく、今だったら【コレが面白いと信じろ】は絶対必要だよね、変な印象操作とか度外視で」
「今は印象操作多いですもんね」
本当そうだよ、とドロップアウト。
「最近よく念じてる【自信を持て】ですね」
「最初が一番良かったとか、そういう邪念に囚われずに。拙い作品を自分だけでも面白いんだって信じなきゃいけないし、そう作らなきゃいけないと思うよ。ちょっと」
「それで大ヒット作生まれますかねえ~~~~?」
「ま~、直接的には大ヒットしてないよ。納得した形で完結させただけで、でもその紅が、他作品に負けたことは1度も無い」
「勝ってるかは知らないが、負けたことは無いと」
「俺が間接的にみる限りでは、ね」
「だから、ルーキー漫画家志望者とか小説家志望者さんとかに言える事は。ちゃんとテンプレを覚えて、それで型破りして自分を表現して、そんで最後が完成品に自信を持つ! これだね」
「なるほどー! ご意見ありがとうございましたー!」
「いえいえとんでもない、あ、で。授業料10万円ね」
「高っかぁああああいいいいい!?!?!?!?!」
お終い、ちゃんちゃん。