クリスマスの聖夜に飛ぶサンタは大人気インフルエンサーでした
こちらは藤乃 澄乃様主宰「冬のキラキラ恋彩企画」参加作品です。
「きれいね」と彼女が言った。
「きれいだね」と僕は答える。
眼下には色とりどりに煌くクリスマスツリーがそこら中にある。
キラキラとイルミネーションで輝く街はまるで光の絨毯のようだ。
「ねえ、トナカイ」
サンタの格好をした彼女が白い息を吐きながら僕の背中をなでた。
そっとなでるその感触に僕の身体がブルルと震える。
「な、なに?」
「プレゼント配り終わったらさ、街に降りてクリスマスデートしない?」
彼女の甘美な声に、僕の身体がさらに震えた。
でもそんな誘惑には屈しない。
「ダメだよ。プレゼントを配り終わったらサンタ協会に行って報告書提出しなきゃいけないんだから」
全国のサンタはサンタ協会に所属しており、子どもたちにプレゼントを配り終えたら誰に何をあげたかを報告しないといけない。
これがまた大変なのだ。
子ども一人一人に対して何をあげたかを書かないといけないのだから。
子どもの多い地域だと、この報告書を書くだけで1日費やすと言われている。
でもサンタの格好をした彼女は笑いながら言った。
「いいじゃない、そんなの適当で」
「適当じゃダメだよ」
いまさらながら、なんで彼女がサンタに選ばれたのか不思議だった。
つい2年前まで普通の女子高生だった彼女。
サンタの素質がある者としてサンタ協会が発見し、僕の魔法でサンタに仕立て上げたのだけど、蓋を開けてみれば自由奔放すぎるサンタだった。
「もう。トナカイは真面目なんだから」
「君が不真面目すぎるんだよ」
それでも、寝静まった子どもたちにプレゼントを置いて回る彼女は幸せそうな目をしていた。
よっぽど子どもが好きなんだろう。
自由奔放すぎるサンタだけど、サンタの素質は十分持っているようだ。
彼女の持っているプレゼント袋。
手を入れて念じると、目の前の子どもの欲しがっているものが出てくる優れものだ。
けれどもこれがなかなか難しい。
子どもが本当に好きという純粋な気持ちで手を入れないとプレゼントが出て来ないのだ。
これが彼女がサンタに選ばれた理由。
そして全国のどのサンタよりも彼女はプレゼントの出し方がうまかった。
「次は、あっちね!」
サンタ協会から送られたデータを元に走り出す。
子どもが寝静まったタイミングでサンタ協会がデータを発信してくれるのだ。
けれども子どもの寝る時間は常にまちまち。
だからあっちに行ったりこっちに行ったりと大忙しだった。
「あ、今度はこっちだって! あ、こっちの子も寝たらしいわ。あ、こっちも! あわわわ、いっぺんにみんな寝すぎー!」
ソリの上で慌てふためく彼女に、僕はプッと笑ってしまった。
「とりあえず全力で向かうから、一軒一軒きちんと終わらせよう」
「うん。頼りにしてる」
※
こうしてなんとか管轄している地域の子どもたちにプレゼントを配り終えると、彼女は満足そうに「終わったー」とつぶやいた。
「終わったね」
今年一年の楽しみがまた今日も終わる。
年に一度、こうして彼女とプレゼントを配るのが唯一の楽しみだった。
今度、彼女とこうして夜空を駆けまわるのは来年になる。
「じゃあ、はやくサンタ協会に報告書提出してクリスマスデートしましょ」
「まだあきらめてなかったんだ!」
時刻は深夜0時。
もう日付けが変わる。
「当たり前じゃない。そのためにこうして頑張ったんだから」
ウソだと思った。
サンタのプレゼント袋は不純な気持ちが少しでも入るとプレゼントが出て来ない。
でも僕は彼女のこういうところが好きだった。
「じゃあ早くサンタ協会に報告書提出してこよう」
「うん! いま、駅前のイルミネーションがすっごく綺麗なんだよ! 一緒に写メ撮ろ!」
こういうところがまだ高校生っぽい。
いや、この春高校を卒業したから大学生か。
僕は「わかった」と答えてサンタ協会へと向かった。
※
数日後、僕はインスタにあがった彼女の写真を見て笑った。
そこにはサンタの格好をした彼女が笑いながらトナカイの僕に頬キスをしている写真だった。
クリスマス以外では普通の大学生を送っている彼女。
そして僕は……。
「おはようございます、中井教授」
「ああ、おはよう。笹原さん」
「どうしたんですか? スマホ見てニヤニヤして」
「いや、別に」
隠そうとする前にひょいっと横から見られてしまった。
「ああ、この人! 今話題のサータンさんですよね!」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、今めちゃくちゃ若い子の間で大人気のインフルエンサーなんですよ?」
「へえ、そうなんだ」
答えながらインスタにあげられた写真を改めて眺める。
確かに自由奔放で面白いサンタだった。
人間社会に戻るとそんなに有名な人だったなんて。
「ほんと、中井教授は世間に疎いですよねー。この大学のイケメンカリスマ教授のくせに。一昨日のクリスマスなんて絶対一人だったでしょ?」
「さあ、それはどうかな」
「絶対そうですよ。断言してみせる!」
「断言されちゃったらそうとしか言いようがないね」
本当はトナカイに変身してこの大人気インフルエンサーと聖夜を駆けまわってたなんて言えるはずがない。
言っても信じてもらえないだろうけど。
「それで? 今日はどんな要件かな?」
「ああ、そうそう。サータンさんの話をしに来たんじゃなかった。実はー、ここの論文の書き方がよくわからなくてー……」
「うんうん。そこはね」
教え子の相談に乗りつつ、僕はスマホに映った彼女とのツーショット(僕はトナカイに変身していたが)をこっそりスクショしたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
ちなみにサンタの子は中井教授の大学の学生なのですが、二人ともまだ知りません(笑)